表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のグルメ  作者: ミントドリンクwithココア
4/40

第四話 異世界汚染済みのファンタジー世界でエルフ鍋

よろしくお願いします。

 白と灰色のポータル港の通路、大型搬送通路脇、歩き去る看板はレンタルカー屋、レンタルヘリコプター屋、レンタルテロリスト屋、レンタ傭兵屋、レンタルを頭につければ何でもいいってもんじゃないというぐらいレンタル○○屋が並ぶここは、ポータル港内部に存在するレンタル通路。


 このレンタル通路という名前は通称ではなくポータル港の決まりでレンタル系は全てここに集められている。簡単に異世界を制圧出来るような物も借りることはできるが、必ず同行者としてどんな生物・無生物・機械にも健康な女性として認識される係員がついてくる。


 本日の俺の目的は、レンタル馬車屋。今日から向かう世界にある大陸の一つ、ベニパルマ大陸は行きに開くポータルはたった一つ、大陸の南東部に存在する岩石砂漠に開くのみ。だから馬車が無いと移動に不便で、ついでに行商人は怪しまれる。


 動物の臭いがするレンタル馬車屋の前にたどり着いた、馬全般はここでしか借りることが出来ないので、誰も彼もが並んで長蛇の列が出来ている。30分待ち、いい加減うんざりだ。



 異世界のグルメ -第四話 エルフの鍋-

 


「どうも、馬1頭、幌付き、毒虫害虫獣阻害電波とアンチアローフィールドつきのを借りれますか?アンチマジックは要らないです。」

「えぇ、空きがあります。目的地は?」

「ベニパルマ大陸、リーンシェイマエルフの集落へ商談に向かいます。」

「わかりました、5分後に準備が出来ますのでお待ち下さい。」


 受付の人も紺の制服を着た女性のような何か。声は抑揚がちゃんとあるが、どこかよく出来た機械音声のような印象を毎回受ける。


 5分後、ベニパルマ大陸に存在するヒューマン族特有衣装、といっても茶ぼったい白で甚平の上半身のような麻のシャツに、太い肩紐のついた麻製のすねから胸までの長さがあるロングスカートを上から羽織った形の物を着た職員が現れた。彼女は御者であり、馬車の護衛でもある。決して俺の護衛ではない。


「申込書にも書きましたが、商談目的です。この木の鞄に割れ物の品が入っております。」

「わかりました、では馬車へ乗り込んでください。」


 幌付き馬車といっても向かう世界によって貸し出される馬車は様々だ。今回はあまり技術が発展していないという名目の世界なので、馬の毛色は栗色だがそこまで手入れがされているわけではなく、引かれる馬車は木製のくたびれた車輪に乗っかった雑な作りの蓋が空いた箱のような物。四隅に棒が備え付けられ、その先端に大きな麻布をかけて幌の代用品にした馬車である。


 毛布、食料の類は自前で用意せねばならず、そして同行する職員はこちらの声に対して義務的に雑な応答するだけの人工無能めいた何か。楽しいね。


 俺が馬車に乗り込むと馬車は大型搬送通路を歩き始め、急に煙に包まれたかと思うと岩石砂漠へと放り出されていた。




 旅を始めて二日後、この馬車を借りてから初の同行者による声かけである。


「順調に行けば1時間以内にリーンシェイマエルフと遭遇致します。」

「わかった、ありがとう。」


 こんなもんさ。広葉樹に覆われた森を進みながら俺は身支度を整え商談の準備をする。リーンシェイマとは彼らの言葉で太陽の子を意味する。ありふれた名前だが、このエルフはちょっと違うんだ。




 45分後、俺達はリーンシェイマの弓騎兵で構成された警備隊に誘導されて進み続けると、彼らの代表が馬に乗って駆けて来た。


「聡明なリーンシェイマの長バニビ・サマルナ・カンターサナ!わざわざ来て頂けるとは光栄です!」

「ゲン・タロ!やっと来てくれたか!月が落ちるよりも待ちわびたよ!」


 俺達の会話はこの世界の汎用交易語で行われている。だが、俺自身が覚えているというわけではなく手持ちのPDAに仕込まれた魔導回路が自動的に翻訳してくれている。


 カンターサナは馬から俺達の馬車へと飛び乗った。そして、熱烈なハグで俺を迎えてくれた。見た目は若いし──このエルフは492歳、エルフは大体桁を1つ減らすと俺達と同等の年齢になる──これで女なら割りと嬉しいハグなのだが、主に体臭がミント臭い。


「元気そうで何よりだよゲン・タロ!人の集落で沼リザードとの抗争が起きたと聞いて心配していたんだ!」

「この通り無事ですよ、沼リザードは弓師の集団が撃退してやっと馬車を動かせました。」


 事前にポータル港で販売されている電子新聞でその辺りの情報は確認済みだ。もっとも、時代が時代なので例え遅い物や間違ったニュースを話しても勘違いで済ませてもらえるので問題は無い。俺達はエルフ弓騎兵隊に警護されながらリーンシェイマの集落へ向かい、交易所でやっと本題を切り出した。


「ご注文頂いていたリーンシェイマです。ご確認ください。」


 俺はベニパルマ大陸に存在するアラクネ調の装飾が施された木製の鞄を開き、綿をスパイダーシルクで覆った衝撃吸収材の上へ宝石のように置かれた品物を取り出した。

(注:アラクネは上半身が人、下半身が蜘蛛の種族。スパイダーシルクは蜘蛛の糸で作った布製品のことを示す。)


 その宝石は、LED電球である。


「おぉ……リーンシェイマ……。」


 族長であるカンターサナが、そして護衛についていたエルフミスルラソード兵達が感嘆の声をもらした。


 このリーンシェイマを名乗るエルフの集団はミスルラ──軽くて丈夫な合金のこと、ミスリルと同義──加工技術を持つ、典型的なエルフであった。そしてどっかの異世界商人の馬鹿が太陽の力を貸すという名目でソーラーパネルを言葉巧みに売りつけ、ついでに電球も売りつけた。それ以来彼らは太陽の子を自称し、周囲のエルフを掌握して一大勢力となっている。


 鞄の中にはLED電球が2ダース、むき身の状態で置いてある。包装そのままとか異世界商人として一番やっちゃいかんミスだしね。彼らはそれを指差しながら数えると一言。



「太陽の力を見せて貰っても?」

「えぇ、もちろんご確認ください。」


 長の合図で後ろに控えていたエルフソード達が交易所の奥へと移動し、毎日ピカピカに磨いているのであろう、表面に書かれた文字がかすれた車用のカーバッテリーを4人で恭しく運んでくる。これを見た時は笑いを堪えるのが大変だったな……。


 そして、シャーマンと呼ばれる一人のエルフが現れ、これまた恭しくコンバータだのケーブルだのを運びこむとLED電球全てに繋ぎ、何事かをつぶやきはじめた。

 

「母なる月よ、父なる太陽よ、我らはあなた達に懇願する。全てを見通す闇があなた達の力を蓄え、そして利用することをミントの朝露に誓って許し給え。我らに純粋な太陽を。」


 そんなことを言いながらエルフのシャーマンはスイッチをパチリと入れた。2ダースのLED電球は途端に白く光り出し、60人ぐらいは余裕で入るであろう交易所は人々のざわめきで包み込まれた。


 彼らは、昼間にソーラーパネルで電気を蓄え、夜間は何かしらの作業のために電球を光らせている。まだ鋼鉄を作る技術だってドワーフが秘匿している段階の技術レベルというのに一足飛びで文化汚染だよ、最近じゃカテキンが沼リザードに武器の売り込みまでかけててひどい状態さ。沼リザードの侵攻の話も多分、それで力をつけたせいなんだろうな。


「リーンシェイマをありがとう、ゲン・タロ。太陽の使徒が来ない今では君が頼りだ。」

「どういたしましてサンターカナ族長。」


 初めにこの世界にソーラーパネルを売り込んだ男はポータル港に戻った際、重大な文化汚染違反で拘束され、細切れにされた。それ以来大物を持ち込むにはレンタル屋でスキャンをかけられるようになったのだ。この世界ではすでに文化汚染が深刻だったので、大抵の物を持ち込む許可が出てしまっている。


「それで代金だが、確認してほしい。」


 銀色に輝く胸当てを身につけて、腰にやはり銀色に輝くミスルラ製の剣を携えたエルフの女がエメラルドで装飾が施された手に平大の宝石箱を俺に差し出してきた。中にはシェイマ銀貨が12枚、そしてシェイマ銅貨が60枚。

 

 ご存知無いとは思いますがサンターカナ族長。LED電球は1つがせいぜい300円。レートにもよりますがシェイマ銅貨1枚で3つは買えるんですよ。今回の取引は人件費その他費用込みでも銀貨1枚分すら超えないんですよ。ありがたく頂きますが。


「確認しました。シェイマに感謝を。」

「それで、次なんだがゲン・タロ。君は太陽の使徒が運んできてくれたシェイマの力を借りる板の調達は出来ないだろうか?」


 勘弁してくれ……。






 シェイマ金貨5枚にミスルラ製の剣でソーラーパネルを5枚も持ってくることを約束させられてしまった。ここのミスルラ製の剣って確か、名誉会員みたいな証なんだよな……。他のエルフやヒューマン、ケンタウロスとの交渉が楽になるとはいえあんまり目立つと現地民から暗殺者を送られるから怖いんだよ……。


 俺は別世界で5年前に起きた暗殺未遂のことを思い出しながら、リーンシェイマ交易所に併設されている食堂へと脚を運んだ。食堂は木製の衝立で交易所との仕切りがされているが、特に何もしなくても食堂の中を覗けるように作られている。

 そして食堂は全体的に深緑に染められた布で飾られ、中央には木製のテーブルと椅子が2つ置かれているセットが合計5つ、カウンター席は木製の椅子が6つ、どれもがリーンシェイマ式の複雑な植物をモデルとした彫刻がされており、椅子にはスパイダーシルクの座布団が置かれている。カウンターの向こうは何かしらの飲み物の瓶やエルフ達が作った木製のミントの鉢植えの彫刻などが置かれており、調理場はここから少々離れていて伺うことは出来ない。


「いらっしゃーい!ゲン・タロ!カウンター席があいてるよ!」


 快活なエルフの女性(172歳)に案内され、俺は木製のカウンター席へと腰を下ろした。


「ニカール・バニビ・カンターサナ、今日は一体何があるんだい?」

「んー、いつも通りミントたっぷりのジャヌサと、ビスキュイにジャム、それにエルフ鍋ね。」

「そっか、じゃあそれを。銅貨4枚?」

「えぇ、銅貨4枚!まいどありー!」



【ジャヌサ】-シェイマ銅貨4枚のセットメニュー-

・対応する言語が無いため現地の言葉のまま。中身はミントを中心に様々なハーブとほうれん草などの葉物野菜を、中世ファンタジーにあっちゃいけない電動ジューサーで粉々に砕いたコップ一杯分のハーブジュース。リーンシェイマエルフ達は昼食の時に独自のレシピのジャヌサを作り、飲むのが一般的らしい。


【ビスキュイ 3枚セット】-銅貨4枚のセットメニュー-

・菓子ではなく、堅焼きパンを意味する言葉、ていうかビスケットのフランス語読み。大きさ、厚さ共に手と同じほどであまり膨らんでいない。また、大麦と炒って乾燥させて粉にしたどんぐりの二種類の穀物粉をあわせて焼かれたパンである。どんぐりに含まれる脂肪分のせいかそこそこツヤがある。


【ルバーブのジャム】-銅貨4枚のセットメニュー-

・大さじ一杯分のやや暗めのオレンジ色のジャム。ルバーブという赤いセロリのような野菜の茎を黒砂糖と共にドロドロになるまで煮詰めた物。ここで栽培されているものではなく、北部のミノタウロス達の特産品を瓶で輸入した物。


【エルフ鍋】-銅貨4枚のセットメニュー-

対応する言語があったためか妙に訳されてしまった丼ほどの大きさがあるエルフ鍋。一部の具材をオリーブオイルで炒め、キノコに水と共にぐつぐつと煮込んだポトフに近い一品。具材は大豆とどんぐりの団子、キャベツ、ほうれん草、太ネギ、ニンジンに各種キノコが入った野菜がいやというほど楽しめる一品。



「いただきます。」

「どうぞめしあがれー!あっ!ケンタウロスの方々だ、あっち行ってくるね、ゲン・タロ!」

「あぁ、お構い無く。」


 族長の娘は相変わらず元気だ、太陽の子というリーンシェイマの名の通りって感じだな。さ、俺も食っちまおう。


 まずは、ジャヌサから。量的には150mlってところだが、これが何度飲んでも慣れないんだ。木製のコップを左手に持ち、右手で木製の先端が丸いマドラーでかき混ぜる。いつもドロドロとした半固体の液体がマドラーに重みを与えてくれる……。

 マドラーで混ぜ終え、俺はエルフ青汁をグイッと口の中に注ぎ込んだ。舌と鼻が感じたのはミント、むせ返るミント。青臭さはもちろんあるが、それ以上に酸味とミントの爽快な風味がそれを覆い隠す。


 ミントはリーンシェイマエルフにとって特別なハーブだ。何をどうやろうと生えてくるミントは植物を愛するリーンシェイマエルフにとって生命力の象徴でもある。


 だからといってこれは……ジャヌサの中に20gぐらいミントが入っているんじゃないだろうか。一口飲み込むごとに胃袋からミントの香りが体中に広がっていく気分だ。


 俺は十分喉を潤したのでジャヌサを置き、ビスキュイ、堅パンに手を付けた。とりあえずは一口。もしゃりと乾いたスナックパンのような食感。そしてボロリと崩れる感覚。酵母技術が発達していないのか膨らみらしい膨らみがこのパンには存在しないのだが、この重量感は悪くない。


 そうして俺は木製のスプーンに盛られたルバーブのジャムに目をつけ……ルバーブってなんだろうな?まずはスプーンから直接舐めてみた。


 んー……すっぱ甘い?酸っぱいイチゴとか酸っぱいオレンジの風味だが、それらより酸味がちょっと強いな。

 ただ、ジャムだし甘いには甘い。先ほど齧ったパンにジャムを全て載せてもしゃりと口の中へ。うん、良いね、パサパサ気味だったパンにジャムの粘り気が混ざったことで食べやすくなった。


 そしてジャヌサをゴクリと一口。口内から鼻腔に、そして胃袋にミントの香りが広がっていく。顔をしかめそうなところで、エルフの族長の娘が鍋を両手で持ってこちらへ近づいてくるのを見えて、俺は笑顔を作った。


「ゲン・タロ!これサービス!」

「ありがとうニカール……これ、ミントティー?」

「そうよ、あったかくて、ミントのいい香りでしょ!」


 彼女はそう言いながら鍋一杯のミントティーを他の客へ給仕に向かった。どの客もエルフではない異種族で、もうミントは手元にあるからいいよ、という顔をしている。俺もです。ここのエルフの連中ときたらミントを緑茶か何かと勘違いしているのが最大の欠点なんだよな……。


【ミントティー】-サービス品-

・リーンシェイマはとにかくミントを好む。朝昼晩の食事にはミントティーが欠かせないし、昼はミントをふんだんに使ったジャヌサという飲み物。最近はミントのお菓子まで作っているそうな。また、乾燥させたミントの葉は彼らの輸出品の1つだ。


 温かいミントティーを一口、歯磨き粉の味。ここの連中はミントばっかり口にして飽きないのかね……これのせいかリーンシェイマエルフって体臭がもれなくミント風味なんだよな。


 さて、本日のメインのエルフ鍋といこうか。中身は豆の団子に野菜とキノコ。肉が恋しいよ。

 

 この世界にはとっくにジャガイモもトマトも、ベーコンにソーセージだって異世界から輸入されているというのにエルフ達は何故か前者の栽培に失敗し、肉類は穢れだから絶対に食べようとしないんだ。俺自身、肉の臭いがしないように来る時は必ず一週間の肉絶ちを強いられる。これが辛いんだ。こっちの世界を移動中にチーズとハムのサンドイッチを食べただけでバレて半殺しにされた同業者が居たりするからもうほんと困る。せめて乳製品は例外にしてほしいよな……。


 ま、そんなことは置いておくか。木製の深めのスプーンでスープをすくい取り、まずは一口。


「ほぅ……。」


 温かくて、葉野菜の甘みとキノコの味が入り混じった良いスープだ。ほんのり香るオリーブオイルも意外と合う。ちょっと濃厚さが足りないが、まぁこんなもんだろう。

 

 次は、豆団子。スプーンにじゃすとふぃっと!なナイスな一口サイズ。ソイミートに近いが、リーンシェイマはドングリと大豆の混合穀物を好むんだ、俺も木の実、もとい好みだ。豆団子をスープと共に一口、奥歯で真っ二つにすると豆の中から混ぜ込まれた熱いオリーブオイルが肉汁のように口の中へと現れ、ハーブとスパイスの香りを舌の上に撒き散らすサプライズ。


「まるでクレイジーソルトみたいな味だな。」


 セージやオレガノ、ガーリックなどを漬け込んだのであろうオリーブオイルは比較的薄味で食べ足りないソイミートに濃厚な味を付け足すんだ。いいね、いっそそれでクレイジーソルトを作って鍋にぶちまけたいぐらい。


 畑の肉を楽しみながらクタクタのキャベツをすくい上げる。葉が煮こまれすぎて透き通った半透明のドレスになっている。名残惜しいが豆団子を胃へ送り込むと口の中へキャベツをずずるとすするように貪り食った。


「ズッズズッ、プハッ、はふ、はふぅ、ふぅ……。」


 キノコの出汁とキャベツの甘み苦味が混ざった良いキャベツだ。柔らかくて食べやすいリーンシェイマ式、芯も舌と口蓋で潰せるほど柔らかい。仕込みの段階で炒めたのだろう、ほんのり香るオリーブオイルと香ばしい風味がより食欲を増進させてくれる。


 キャベツの残り香を楽しみつつ、プリッと閉じた傘を主張するしいたけへ。これもまたエルフ式で言えば肉みたいなもんだ、主に食感が。


「煮込みより、前に食べた肉厚で傘が開ききったステーキ式のほうが良かったな……。」


 あれもニンニクと塩で味付けがされた素敵な椎茸だった。そう思いながら今度の椎茸──キャベツの破片でデコレートされている──を一口噛み切った。ぷるんとしているがそれでいて噛みごたえは抜群、傘の内側のヒダが鍋の出汁を絡めとっており、二度、三度と噛むたびにきのこ汁が溢れてうまい。


「キノコは煮込みか焼きか、どちらのほうが美味いか本当に悩むところだな。」


 椎茸をもう一口、そして満足するまで咀嚼して飲み込むと、残った物を口に放り込みもう一度咀嚼する。美味いね、鍋には残り3個だが、その3倍ぐらい入っていればいいのにと思わされる。

 

 次の野菜をすくい取る、ほうれん草、バッチリクタクタ。独特の土臭さはしっかり処理されているせいか感じない。ネギ、どことなく椎茸の香り。煮こまれているからか甘い。ニンジンへ、やはり土臭さは無く、甘い。甘くて椎茸の香り。こりゃ全部椎茸味だな。


 豆団子、椎茸、キャベツ、ネギ、ほうれん草、ニンジン……具材のほとんどを食べると俺は丼を掴み、これらを煮込んだスープを一気に体の中へと流し込んだ。温まって元気が出る。リーンシェイマエルフ達はこうやって太陽の恵みを余すこと無く使い、そして血肉に変えているんだ。本当に、たまには、たまにはこういう食事も悪く無いと思うよ。


「ゲン・タロ!この前持ってきてもらったレトーコでこんなの作ってみたのよ!食べてみて?」


 そういってニカールとは別のエルフが俺の元に奇妙な物を持ってきた。


【ミントシャーベット】-サービス品-

・ミントを漬け込んだ水を冷凍庫で凍らせ、それをナイフで削って作ったシャーベット。ご丁寧にもうず高く積もった雪山のてっぺんにはミントの葉が一枚飾ってある。


「あ、ありがとう。」


 太陽よりも輝く笑顔で彼女が、いや彼女達が見ている。これ、今すぐ一口食べないとダメな奴ですね?


 俺は一口分木製のスプーンでシャーベットをすくい、冷えきった氷を口の中へ運ぶ。冷たい歯磨きの味。本当にこのミント押しさえなければリーンシェイマエルフは良い人達なんだけどな。


「美味しいよ、他の集落じゃほとんど見たことないし良い特産品になるんじゃないかな。」

「本当に?ヤッタ!ミントの畑増設しなきゃね!」


 ほんとこのミント押しさえなければなぁ。シャーベット含めた全ての食事を終えた俺は注文時に運ばれてきていたミントの葉入りのミントの天然水をぐいっと飲み干したのだった。




「もう帰るのか?ゲン・タロ。一晩と言わず三日三晩逗留してもいいんだぞ。」

「物が物がですからね、出来る限り早くしないと時間がかかってしまいますから。」

「わかった、警護はどうする?シェイマミスルラ剣騎兵を5騎ほど護衛につけてもいいんだが。」

「大丈夫ですよ、カンターサナ。この辺りは安全です。お気遣いありがとうございます。」


 相変わらず女であること以外特に何もわからない御者に帰還することを伝え、俺はエルフの族長に別れのハグをして手を振り、馬車で揺られる旅路へと戻った。急に消えても彼らが不審に思わないほど動くとなると5時間ぐらいはかかるだろう、そうしたらポータル港への帰還ゲートを開くんだ。そしてやっと肉がアンロックされることになる。肉、食いたいなァ。

閲覧ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ