第三十九話 未来世界のアメリカでダイエットフライドポテト
よろしくお願いします
2079年のアメリカはニューヨークに俺は居る。残念なことにチューブ型の道路や空を飛ぶ車などは存在しない。少々小奇麗になったという印象は受けるが、2016年のそれと大差ない。まぁ、ちょっと車のほうは丸っこくて……かっこ悪くなったかな?とは思う。個人的には四角いほうが好きだよ。
そんなことを思っていると目の前を戦車が通り過ぎていった。M50ギルバートという、パンケーキの上に一回り小さくなった小さなパンケーキが乗ったような奇妙な戦車だ。戦争に戦争が相次ぎ、今度はアジアの小国との戦争が続いているアメリカでは、乗員を生かすためにミサイル対策用の超小型ドローン技術が発展した。
それ故に、誘導兵器は過去のものというわけではないが、戦車対策は対戦車砲でぶっ放すのが一番だそうだ。さらにそれの対策で爆発反応装甲と複合セラミック装甲を取り付けたらなぜか滑らかな丸い形になったらしい…………それにしてもこのM50ギルバート、迷彩が砂漠仕様のせいかどことなく……あーパンケーキ食べたい!
パンケーキそっくりすぎるんだよ!よりによってM50ギルバートの砲塔にあるハッチ部分まで四角くて黄色いカバーがかかっているせいで、どっからどうみてもバターだよ!迷彩が蜂蜜を垂らしたパンケーキにしか見えないんだよ!どうしてこうなった!随伴歩兵がまともに戦闘できなくなるだろうが!絶対パンケーキだよこれ。パンケーキが2つ乗っているようにしか見えなくなってきた。ぱんけーきたべたい。
パンケーキ食べよう、そう思って騒がしいニューヨークの町中を歩いていたらハンバーガー屋が見つかった。ダイナーじゃないチェーン店だけどもうここでいいや。そう思って、俺は店に入ろうとしたところで、レジ上にあるメニューボードにある奇妙なものに気がついた。
異世界グルメ 第三十九話 -ダイエットフライドポテト-
ダイエットフライドポテト。これほど矛盾した単語を見るのも珍しい。炭水化物のバケモノであるじゃがいもを、カロリーとしか形容出来ない高温の油でカラッと揚げたものがフライドポテトである。こんなものでダイエットとは一体どういうことか。だがちょっとまってほしい。ダイエット、とは俺達日本人の扱う和製英語である可能性がある。日本語ではダイエットとは痩せるとかそういう意味合いだが、英語では健康食とかそういう意味もあるはずだ。
「うん、そんな馬鹿なことがあるわけ無い」
そう呟きながらちゃんと綺麗に整頓された店の中へ入ると、カロリーオフフライドポテトという看板が目に入りズッコケそうになった。どこから突っ込みを入れればいいのかよくわからない。いや、これはもしかしたらPDAの魔導翻訳回路が直訳したり何か間違えた可能性があるということを思い出した。念のため、翻訳回路の機能をオフにしてみよう……。
Diet、Calorie Off、……翻訳回路を戻した。間違っていなかったらしい。とうとう人類はそんな物を開発してしまったか……。なんて罪深いことだろう。俺はレジの前へ向かった。
「NEXT.」
「ダイエットクアドラプルチーズTERIYAKIバーガーセット1つ、ドリンクはダイエットコーラで、サイドメニューはダイエットフライドポテト。後単品でダイエットチキンを1つ、ダイエットホットケーキも1つ。以上で。」
「Yep,$9.」
俺は財布から9ドルちょうどを取り出して手渡した。ダメだった、ダブルチーズでも頼もうとしたらクアドロプル(4重)の文字がメニューに見えたんだ。なんだよクアドロプルチーズバーガーって。ダブルの2倍だぞちくしょう、勝てるわけないだろ。そして何で照り焼きバーガーを選んだのか自分でもまったくよくわからない。何だよダイエットクアドラプルチーズ照り焼きバーガーって……盛りすぎだろ……卵を載せることがなくて良かったけど本当にこれでいいのか。
そしてやる気の無さそうな顔をした金髪白人女性の店員がトレーに先ほど注文した物を載せて手渡してきた。
・ダイエットクアドラプルチーズ照り焼きバーガー -セットで7ドル-
下から順番に、バンズ、レタス、分厚いパティwith照り焼きソース、チーズ、分厚いパティwith照り焼きソース、チーズ、分厚いパティwith照り焼きソース、チーズ、分厚いパティwith照り焼きソース、チーズ、ピクルス、バンズという分かりやすいカロリーの塊だったはずのわけのわからんバーガー。総カロリーはなんと28kcal。嘘だろ?豆腐だってもうちょっと熱量あるぞ。
・ダイエットコーラ -セットで7ドル-
そういえばここはアメリカである。どっからどうみてもLサイズのダイエットコーラを渡された。総カロリーは3kcalぐらい。これも地味に改良サれている気がする。
・ダイエットフライドポテト -セットで7ドル-
どこからどう見ても俺の知っているチェーン店のLサイズフライドポテト。使い古し油のジャンキーな匂いがするというのに、合計30kcal。桁が1つ足りないのではないかと思うが、こちらで改めて計測しているので間違っていない。PDAのスキャン機能は多彩だ。アプリでカロリーだけ表示する機能とかあるんです。
・ダイエットチキン -1ドル-
チキンってあるけど、どうやら鳥肉では無く代用肉のようだった。しかし見た目は手羽先っぽい皮付きのパリパリパサパサチキンである。17kcal。
・ダイエットホットケーキ -1ドル-
薄っぺらくて俺の手のひらサイズのホットケーキが紙の箱に2枚入っており、その横にはマーガリン&蜂蜜のディスペンパックが1つついている。カロリーは10kcal。
合計88kcalとなった。このカロリー数は一般的なサイズのプリン(90g)よりも少ない。餃子で言うなら1個半程度だ。目の前には山盛りのポテトにフライドチキン、ホットケーキに大口をあけて食べるハンバーガーがあるというのに、このカロリーを消費するにはウォーキングを30分続ければいいだけだ。これは……なんていうか……ひどくダメな方向で人類の食が進化してしまった。
「いただきます。」
2階のイートインコーナーに登り、窓際のカウンター席に座って俺は食べ始めることにした。とりあえずは……まずはぱさついている口を少し潤すべきだろう。ダイエットコーラのフタ付き紙コップにストローを突き刺して中身を軽くかき回し、吸い込んだ。脂質というか、コーラ特有の重さが全くない。水のようにさっぱりしていて、香りだけはコーラだが味は良くある糖ではなく、人工甘味料独特の科学っぽい後味が口の中に残る。
まさにダイエットコーラである。俺の母世界と比べれば美味くなっている気はするが、それぐらいだ。
さて、とりあえず気になるポテトをひとつまみ、そして軽く鼻の前で振って匂いを確認してみる。油の臭いだ。香ばしい匂い。これでカロリーオフって本当か?口の中に入れて咀嚼してみる。やや揚げ過ぎで硬いがホクホクしている。しかし、ジャガイモの味という感じでは無い気がする。なんと表現すべきか。味だけでいえば里芋に近い臭みを感じる。
まぁでも揚げたてホクホクなので美味いことに変わりはない。ポテトをもう2、3本口の中に放り込みクアドラプルチーズ照り焼きバーガーの包み紙をこじ開けた。デカイくせに箱じゃなくて紙か……。
クアドラプルは圧巻であった。当然、ハンバーガーチェーン店特有の写真詐欺ではあるが、潰れていてもかなりデカイ。両手でがっちり掴むが……デカイな。ずっしりと来る重量だ。俺は大きく口を開けてクア以下略にむしゃぶりついた。まいった、口のサイズが足りない。不格好に齧りついただけだ。
味は……肉?かな?照り焼きソースの香りと胡椒が強くてイマイチわからない。チェダーチーズっぽい風味はちゃんとして、しんなりしたレタスと申し訳程度のきゅうりのピクルスがこってりした味を中和しようとしてはいるが、あまり意味がない。
これで……カロリーオフか……。これでカロリーオフの味なら文句なしとしか言いようが無い。ヘタすりゃ日本でハンバーガーダイエットとか特集組まれてるレベルで満足出来る味だぞ。
バーガーに奪われた水分をダイエットコーラで補給し、ポテトを2、3つまみつつ今度はチキンにかぶりついた。手羽先風に見えるチキンではあるが、やっぱりというか、骨なしチキンだった。手羽先の先が手のひら大だったので別に驚くところじゃない。皮はパリパリで胡椒がきつい。中の方は……肉汁がじわっと出てきた。不自然だ。そして肉のほうはややぱさつきながらも簡単にホロホロと崩れていく。
ピンクミートに肉汁のゼラチンを混ぜ込んだ物だろうな。まぁ、こんなもんって味である。ポテトをつまみながらむしゃりむしゃりとチキンを削っていき、適度なところでチキンを紙の箱に降ろしてコーラで水分を補給、次はポテトをつまみながらバーガーを食べるというちょっと行儀が悪いかな?という食べ方で一気に平らげていく。
4分後、バーガーが半分とポテトが少々、そして手付かずのホットケーキを目の前にして俺は後悔していた。全部……全部腹にぶち込むのはやはり……間違っていた。主にチキンを頼んだのが間違いであった。さすがアメリカンだぜ、などと思っていても仕方が無い。
俺はマーガリン&蜂蜜を手に取り、ディスペンパックを親指と人差し指ではさみ割って、ホットケーキの上にぶちゅーと垂らした。これは給食を思い出す……。ホットケーキの半分に塗りつけ、ディスペンパックを戻したらその指でこんどはマーガリン&蜂蜜を塗りつけたホットケーキをつかみ、塗ったところだけパクリと食べた。
蜂蜜……じゃないな。人工甘味料の味がする。人工甘味料ってどこかスーッとする甘みなのですぐわかるよな。ホットケーキのほうは……なんだろうな、多分小麦粉じゃない気がするのだが小麦粉っぽい味だ。これもやっぱり何か別の物質で作られているのだろう。
しかし、これで俺の胃袋は限界だ。俺は鞄の中から紙で出来た潰れた紙袋を取り出した。茶色で、1リットルのペットボトルが2つ入るようなサイズの紙袋である。その中に食べ残したバーガーとポテト、そしてホットケーキを放り込んだ。この紙袋はこの世界で作られたお持ち帰り用の紙袋だ。こうやって持って帰って、家に戻って食べたくなったら紙袋の底にあるヒモを引っ張ると紙袋の中に蒸気が発生し、1分で温めが完了するというスグレモノである。ポテトはしわしわになるが、この世界に来てこれを使わない手は無いだろう。
ディスペンパックは別にジッパー付きのミニ袋に入れて保存である。いや、しかし食べた食べた。ちょっと腹が膨れるんじゃないかというぐらいだ。……誇張抜きにちょっと腹が膨れている。それほど食べたわけではないのにこの満腹感はどういうことだろう。
ダイエットコーラをストローで啜りながら軽く店内を見渡すと、先ほどは数名だったのに今じゃ半分以上の席が埋まっていた。20人ぐらいかな?その誰もがバーガーを大量に貪っていた。貪るほど食べてもカロリーオフ。店内に居る人は全員細身なのは良いのだが、ちょっとガリガリすぎる人も居て怖い。そもそも、これは一体何で出来ているのだろうな……。
ストローを加えたまま軽くPDAでネットサーフィンをし、ダイエットフライドポテトで検索してみた。どうせ、安定の発がん物質がどうだの~という文字が出るのを期待したが、結果は全く違っていた。
・ダイエットフライドポテトの食べ過ぎにはご注意を
本社のダイエット製品は人口脂質などを使用しており、安全には配慮しておりますが食べ過ぎは非常に危険です。1日に1kgを超えて摂取すると腸閉塞を引き起こす危険性があります。1人1日1セットまでに抑えてご利用ください。
病気になるとわかってて食うやつと売るやつとそれを公的に喧伝する企業が居るらしい。利益至上主義の未来は暗いな。
閲覧していただきありがとうございました
次回四十話はR-18Gなので下記URLで投稿します
http://ncode.syosetu.com/n8353cx/




