表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のグルメ  作者: ミントドリンクwithココア
22/40

第二十七話 宇宙世紀でミミズの砂肝ステーキ

よろしくお願いします。


「最後にもう一度、シートベルトがしっかり締まっているか、背もたれとテーブルが元の位置にあるか、お手荷物がきちんと収納されているか、ご確認ください。」


 特に問題は無い、出来れば窓側が良かったのだが席が空いてなかったのが残念だ。そうすれば眼下に広がる満天の星空を楽しめただろうに。旅客船<カグヤヒメ>は惑星<結び目>へのアプローチを開始したのか、少し船が傾いたような感覚がした。



 第二十七話 砂肝のステーキ



 惑星<結び目>はテラフォーミング中の惑星でサイズは地球の0.8倍ほど。ドーム型居住地が地表に3つ、地中に1つ存在する。地表にある1つは気象監視用だが、残りの3つは採掘用のドームだ。ここじゃプラチナがよく発見されて採掘されている。この異世界では小惑星程度じゃすり潰して全て使い切るのが基本だが、ここはそのうち居住地として利用出来ると目算されているため、開拓民も多い。


 それにしても平和万歳だ。ようやく、本当にようやく宇宙海賊の活動が抑えられている宇宙世紀の世界を見つけることが出来た。異世界、平行世界は文字通り星の数ほどあるからこういう世界を探すのは大変。といっても*抑えられている*だけで海賊は多い。俺の価値換算にしておよそ50万円程度で中型車サイズのワープ機能つきの中古宇宙船が買えるこの世界、海賊も海賊狩りも盛んだ。これでも平和万歳である。


 まったく、どうして宇宙世紀は戦争が大好きなんだよ!これだけ世界は広大だというのに戦争やり過ぎなんだよ……もういっそ全部大膨張したブラックホールにでも飲み込まれてくれ。


 そんなことを思っていると、ガタガタと船が少し揺れた。大気圏に突入したのだ。窓のほうに目をやると赤茶けた大地の姿が見えてきた。あぁ、窓際の席に座りたかったなぁ……惑星の姿を見てみたかったのに通路側のせいで見れなかった。星は赤かったとか言ってみたかった。残念すぎる……今度は絶対窓際の席を取ってやる。


「重力装置を切りますのでご注意ください。」


 そうアナウンスされると同時にエレベーターで上昇した時のような感覚に襲われた。しかも強烈だ。


「うっぷ。」


 これは絶対に慣れないな。そして徐々に全身が下降するような感覚。惑星の重力に血液が引かれ始めたようだ。絶対に慣れないな。悲しいことに酔い止めの薬はここのサービスには存在しないんだ。皆慣れているらしいね。


 奇妙な浮遊感は薄れていき、旅客船は着陸した。皆が着陸に拍手をしているので俺も釣られてゆっくりと拍手をした。そして手荷物を取り、俺の母世界にあるジャンボジェット機と似たような内装の旅客船から薄紫の膜が張った巨大なバスへと乗り込む。この薄紫色のフィールドがこの星に降り注ぐ隕石を弾き飛ばし、環境を人間の生存向けに調整し、大気を内側に整えるものだ。俺の使っている生命維持フィールドよりも上等な物で、これさえあればいちいち防護魔法を展開する必要も無い。


 乗客とスタッフ全員が乗り込んだバスは小さなクレーターがいくつも出来た悪路を通り抜けていく。今度は窓際に座ってやった。荒れて人間の生存に適さない場所に作られた滑走路には牽引用のレッカー車が現れて旅客船をゆっくりと引っ張っていく。防護フィールド同士は反発しあうので、こうやってわざわざ防護外の滑走路に着陸し、人間はバスで、宇宙船はレッカーで別の場所へと動かしていくわけだ。


 バスが走りだして1分後、残念なことに景色を楽しむ時間的余裕は無く、バスはさっさと巨大な倉庫のような場所へと入っていく。ここはまだドーム型居住地の防護フィールド外。ここで一旦バスの防護フィールドを消し、建物の防護フィールドを展開してようやく空港へとご入場だ。


 簡単で無駄に時間がかかる入星手続きを待っている間、俺は待合室から見える外を眺めていた。こうやって見ていると本当に荒れた星だということがよくわかる。草木は一本も生えていない。稀に見える緑色は薄い大気でも育つ苔か何かだろう。それ以外は大きな岩と、黒みがかった茶色のふわふわとした大量の栄養豊富な土だけしか無い。


「あの辺りか?」


 今日この世界に来た理由は新しい防護フィールドの購入だ。一番小さい物でも巨大なバスサイズを覆ってしまうし、本体は冷蔵庫並のサイズになるがこいつをポータル港の技術者に持ち込めば本体はマッチ箱サイズ、人間1人分の小さな空間でもフィールドを安定させることが可能だろう。そしてもう一つは……出てきた!


 赤茶けた大地に存在する一部の黒みがかった茶色の土。こいつはこの星を地球に近づけるテラフォーミング作業の重要な要素の1つだ。その柔らかな土がもぞもぞと盛り上がり、巨大なミミズが飛び出してきた。懐からオペラグラスを取り出し、手早く開いてそいつにフォーカスを合わせた。胴体の太さは……代替2m。長さは…………飛び出したミミズが地面に潜り、そのぬめぬめとした赤みがかった胴体がアーチ状になるが、なかなか尻尾が出てこない。5m、6m………………20m!すごいなありゃ。


 あのミミズはテラフォーミングワーム。なんと正式名称だ。ヤツメウナギ並に恐ろしい口を開き、岩石を食べて口の中で砕いて必要な栄養素を岩石から摂取。そして簡単に消化出来ない物は3時間かけてさらに細かく砕き体内の微生物を用いて消化する。食べた岩石のうち栄養として使えるのはせいぜい1%。残りの99%は植物が繁殖出来るような柔らかな土として排出するという奇妙な宇宙生物だ。なお、主食は肉や植物などであり、岩を砕く行為はそれらを増殖させるためである。


 困ったことに、この世界では地球以外に知的生命体が見つからなかったらしい。生産的な活動を見せる宇宙生物は今のところあのミミズだけのようだ。あのミミズが見つかった惑星は大気が地球並に調整されており、動植物が溢れる綺麗な星だったらしい。その星で知的生命体の探索をした人々はさぞがっかりしたころだろうな……。


 そんなわけでこの世界ではテラフォーミングとしてあのミミズを何匹も繁殖させたものを放り出すとか。宇宙をワープ航法で旅するようになってもあれより安上がりな方法が見つからないようだ。


 しかしすげぇ見世物だ。新たなミミズがまた現れては岩に齧りつき巨大な穴を作ってやがる。これを見るためだけにわざわざ宇宙旅行までしたがそのかいはあったな。


 こうして、ミミズを眺めながら入星の手続き諸々が済むまで30分かかった。そのうち29分は並んでいる時間だ。巨大テーマパークもびっくりだよ。機内食の類も無く……腹が減った。


 俺は空港内を少々歩き、店を物色することにした。免税店はまぁ、プラチナ系のアクセサリーが中心で一部にゃ安物の宝石とかそういう奴。土産物の類はまだ作っていないようだ。飲食店はチェーン店がいくつかといったところ。どこもそんな混んでいるわけでも無いようだ。飯時ってわけでもないしな。だが、俺の目に止まったのは1つの食品サンプルを展示している店。外観の作りはよくあるファミリーレストランといった佇まいでそこまで惹かれるものじゃないが……。

 

「……テラフォーミングワームって食えるのか。」


 ハンバーガー屋でミミズ肉を出しているって都市伝説が俺の若い頃にあったなぁ。豚や牛のほうが安上がりだからありえんって結論に最近至ったんだが、どうやらもう一度都市伝説を信じることになるらしい。まぁ、確かに、荒れた土地だろうと勝手に育つミミズだし、こういう場所なら家畜を育てる土壌や家畜を培養する工場を用意するよりよっぽど安上がりになるんだろうな。


「ここでいいか。」


 記帳して待ち時間を待つ場所には<ご自由にお好きな席へお座りください>という掛札。じゃあ、好きな場所に座らせてもらうとしよう。窓際で、ミミズの動きが楽しめるような場所が良い。絶対楽しい。


 幸いなことに窓際の席は空いていた。ふっと座り込み、軽くメニューを眺めてみる。この手のレストラン特有のハンバーグ攻め。全部ミミズで、他にはサラダセットにライス。こんなもんだろうかと思って呼び出しボタンを押そうとしたが、1つの奇妙な物に気がついた。


「砂肝のステーキ……。」


 これにしよう。そんなデカイ砂肝とは面白そうだ。




・砂肝のステーキ

 巨大ミミズから取った砂肝をさらに切り取って成形したもの。ソースはデミグラスソースらしきものがかかっているが果たして美味いものだろうか?付け合せは安定のとうもろこしとジャガイモにブロッコリー。


・クルトンのシーザーサラダ

 惑星の野菜工場で作られたレタスとかいわれ大根にクルトンと粉チーズがちょいと乗っかった物。


・ライス

 よくある定番の培養米を炊いた物。味は悪く無い。


・オニオンコンスメスープ

 特筆することは何もない普通のオニオンコンソメスープ。



「いただきます。」


 まずは木の枠とアツアツな金属の器が乗ったステーキ皿にデンと鎮座しているステーキ様へナイフとフォークの捧げ物だ。フォークで固定し、ナイフで肉を一口大に……硬いなコレ。ナイフに力を込め、ようやく皿の底にナイフが当たる感覚がした。


 硬いなあ……。もう一度ナイフを引き、一口大にようやく千切りきった。そして口の中に放り込み、咀嚼する。もっぎゅもっぎゅ……もっぎゅもっぎゅする。レバーというか内蔵独特の味。硬い割に噛み続けるとボロボロと崩れていく。


 砂肝だなぁ。ソースは……こんなもんだろうか。ブロッコリーは何百年も変わらないただの温野菜。品種改良も進んでいないのか、それとも昔から完成されていたのか。ちょっとほっとする。


 やや硬めに炊きあげられたライスをもぐもぐと食べ、コンソメスープを飲みライスの硬さを緩和する。顔をしかめるほどではないがこの惑星の人達はどうやら野菜も肉も硬めが好きらしい。


 フォークを2回転ほどさせて弄び、透明な器に入れられたレタスを2、3枚ほど突き刺して口へ。シャキシャキしていて良いレタス。クルトンと紫玉ねぎの切れっ端も口に放り込み、野菜の味を楽しんでおく。


 もう一度砂肝を切り取った。ミミズの肉なんだよなぁ。もぐもぐと1cmほどの厚みがある砂肝を食べていく。メインで食べにいくには少々キツイ気もするけどコリコリしていて結構癖になる食感じゃないか。


 じゃがいも、とうもろこしの味は大差ない。オニオンスープで口を潤し、ライスをパクつく。ピラフとかそういうのが食べたくなる米の味だな。


「ふぅ……。」


 ランチは大体食べきった。まぁこんなもんか。窓の外でリボン状に踊っているワームの姿を見れば上等な肉といえるだろう。食べたのは砂肝だけど。しかしあのミミズすごいな、荒れ地がぼっこぼこじゃないか。ドーム型居住地とか滑走路とかよく破壊されないもんだ。


 紙ナプキンで口を拭き、懐からPDAを取り出して帰還用ポータルの予約を入れておく。帰りの航宙機は必要ない。行方不明者が1人増えるだけだが、ミミズに食われたとでも勘違いしてくれるだろうな。


 俺は金を払うと店を歩き出て、さらに空港の外へ出た。ドーム型居住地の中には植物が溢れ、灰色の町は飾り付けられている。そして地鳴り。


「……真下でミミズが岩でも食ってるのかね。」


 いくら土壌が改良するとはいえ、足場をこうも食わせるのはゾッとしないね。そんなことを考えながらその辺をタイヤで走っている普通の黄色いタクシーを呼び止め、目的地へ向かうのだった。

閲覧していただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ