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異世界のグルメ  作者: ミントドリンクwithココア
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第十八話 ファンタジー世界でフルーツドラゴン

よろしくおねがいします

 ガタゴトと馬車に揺られる俺の頭上では青空が広がっている。たまに俺へ影を差すのは頭上に様々なドラゴンが飛び交っているからだ。彼らの1匹には馬の鐙のような物が取り付けられ、誰かしらが乗っていた。鐙の側面には垂れ幕がついており、そこにはドラゴン宅配便という文字が太陽に照らされて銀色に自己主張していた。


 異世界のグルメ 十八話 -フルーツドラゴン-


 異世界には様々な物がある。魔法が発達出来るようにマナがある世界もあれば、石油が存在しないという俺にとっては奇妙な世界もある。俺の世界ではドラゴンが夢物語であるように、この世界ではドラゴンは現実の物だ。


 馬車に寝そべりながらそんなことを考えていると黄色の翼が太陽を遮り、俺の鼻先スレスレをかすめるように翼を広げて滑空し、足を降ろして飛行場へと着陸態勢に入っていった。


「宅配便だけらしいが、そのうち遊覧飛行や連絡飛行もするんだろうかな……。」


 もう何年もこの仕事はしているが、ドラゴンどころかグリフォンにすら乗ったことが無いんだよな。そろそろ乗っておいて話のタネにでもしておくべきかな。


 そんなことをうつらうつらと考えながら馬車に揺られ俺はしっかり石で舗装された道を通って行き、竜信仰の町、ドラゴンタウンへと流れていく。


「信仰してるものを道具のように使うって何考えてんだろうな……。」


 宗教とか、文化とか、そういう奴はほんと俺の物差しじゃ測りきれない。手持ちの奴は3mぐらいは余裕で測れるしフィートでも計算出来るんだがな。


 町の道路は大通り、屋台や宿屋などがある地区は全て石畳で出来ている住宅街や作業場などに繋がる道は土がむき出しだ。建物や屋台なんかは全て木製。城壁や門も無いこの町は見通しがよく入り口から見える大通りの先、石畳が続く先は雲がかかるほど巨大な山へと繋がっている。


 あれはドラゴンの住む山。この町に住む人達は皆あの山に惹かれ、周囲に町を作ったのだ。


「いらっしゃいませー!竜の木彫はいかがですかー?」


 要らない土産第一位に輝きそうな物を売っている女性の背中には巨大なこうもりのような羽、竜と交わって出来た亜人、ドラゴメイド。俺のような交易商人達に売り込みをかけている人達は皆そうだ。


 彼らはドラゴンと交わることを望み、ドラゴンはお断りしたが寝込みを襲われたというのがこの町の始まりである。人間って怖い。そしてそれを伝説として公開してドラゴンが描かれたステンドグラスつき教会まで建てて、彼らの聖書の3ページ目にそのことが絵付きで描かれている。ほんと怖い。


 ケンタウロスとか、ラミアとか、ドラゴメイドを見るたびに思うんだ。人間の繁殖力と適応性って異常だよな……。うつらうつらと考える中、馬車は石畳から少し外れた通りを動き始め、目的地に止まった。


 俺は懐から懐中時計を取り出し、きっちり磨かれた時計の背面で簡単な身だしなみを整えると馬車から飛び降り、竜をモチーフに作られた木の看板が垂れ下がった店の扉を開けた。


「いらっしゃーい!ドラニス唯一の香水店へようこそ!ってゲンタロウじゃないの。」

「どーも、タンナーズ。手紙が来てたから飛んできたよ。」


 異世界にもよるが、俺達のご同類が郵便局を作って運営していることもある。何か配達物があればポータル港のオフィスまで運んでくれる素敵なサービスだ。


「えぇ、ドラゴンみたいに早かったわね。龍涎香の抽出は完璧!ご要望の1ガロン分は詰めておいたわよ。」

「質のほうは万全だろうね?」

「ひどいわねぇ、まるで蛇の目だわ。ほら、ちゃんと試してみて?」


 そういって俺が見上げるほどの大男、女性的感性を持った男にワニの顎並の力で腕を捕まれ、木彫で作られた香水入れから匂いをかがされた。


 バニラと柑橘系の入り混じった香りが俺を包む。俺の世界だと竜涎香はマッコウクジラから取るものだが、この世界だと本当に竜から抽出する物なのだ。とある黄色のフルーツを食べ過ぎて胃の中に出来た結石から出来るものだ。


「間違いないね、タンナーズ。それじゃ竜涎香は全部買わせてもらうよ」

「どーも!あなたってほんと良い客だわ。」

「どーも、荷物はいつも通り勝手に積み込ませてもらうよ。」


 こいつは別の世界の貴族様に売りつけると、数十倍になり、ついでに紹介もしてもらえる液体状の宝石だ。1mlが1gの金と同じぐらいの値段になる。金細工の品物と同じように扱わないとな。


 現金払いで取引は好調。品物の安全性は御者の女性らしき何かが保証してくれている。となると俺は……長旅で腹が減った。


「俺は飯を食ってくる、町の入り口で待機しててくれ。」

「かしこまりました。」


 前回来た時はタンナーズの手料理を振る舞ってもらったが、今回は彼も忙しいようなのでそういうことは無い。この町の食事は初めてだ。


 馬車を見送り、俺は石畳をカツカツと小気味良い音を立てながら付近の屋台を覗いていく。モルモットの丸焼き、パンケーキの豚ベーコン載せ、玉子焼きに豚骨のヌードル。ポトフらしき屋台も存在する。七面鳥の丸焼きを削って食べる店もいいが……この辺りじゃドラゴン料理は無いんだよなぁ、カニバリズムになるらしい。


「ホットドッグはいかがー?」


 美味そうな匂いがする。今日の腹気分はホットドッグだ。


「お、いらっしゃい!ホットドッグにヌードル、フルーツドラゴンも扱ってるよ。」


 ホットドッグ、フライドポテトに豚骨ヌードルか。ドラゴンフルーツも食べたいところだ。


「ホットドッグ、フライドポテト、ヌードルとドラゴンフルーツを1つずつくれ。」

「まいどありー!すぐ焼くからそこのテーブルに座って待っててくれ。」


・ホットドッグ -2ドッギチ-

 炭火焼きで焼いたソーセージを炭火で軽く炙ったパンに挟んでトマトソースをかけたもの。いい匂いがする。


・フライドポテト -2ドッギチ-

 洗ったじゃがいもを短冊切りし、軽く小麦とスパイスをまぶした後油でカラっと揚げたもの。ややしんなり気味。


・ヌードル -1ドッギチ-

 うどん並の太さの麺を豚骨から取った出汁のスープに突っ込んだ物。マグカップ程度の大きさなので小腹がすいた時には良いかもしれない。


・フルーツドラゴン -1ドッギチ-

 ドラゴンフルーツではない。蜜柑ほどはある分厚い黄色の皮に包まれた白い可食部のある果物。サイズはグレープフルーツ。むしろ見た目は完璧にグレープフルーツ。これを食べ過ぎたドラゴンから竜涎香を取るための石が採れる。香りはバニラと柑橘系の良い匂い。



「いただきます。」


 豚骨のうどんからすごい匂いがするが、まずはアツアツのホットドッグからだ。


 パンは20cmほど、ソーセージはそいつから溢れるほど長く親指より太い。木皿に置かれたホットドッグを手に取ると炙られたパン独特のパリッとした触感にもっちりした感じ、こいつは良いパンだ。トマトソースは大きめにみじん切りされた玉ねぎも乗っかっていてウマそうだ。トマトの無い世界なんて考えたくないな。大きく口を開けてパンごと一口。

 

 パリッジャクッと口の中で小気味良く響いた。破れたソーセージから溢れる肉汁はレモン臭のする良い香り。良いソーセージだ。パンも焼き具合がちょうどよく香ばしさが肉に負けていない。これが2ドッギチか。ってことは400円。


 もう一口。この満足感から考えれば安い買い物だったな。そんなことを思いながらフライドポテトひとつまみ。皮付きで太いタイプだ。こういう世界じゃ珍しいことじゃない。


 口の中に放り込むとちょっとした辛味、そいつを噛むとほっこりした蒸気と芋独特の粒粒感が口の中に現れた。じゃがいもの無い世界なんて考えたくないな。


 ポテトを2本、3本と口の中に放り込んでほふほふと楽しみ、ホットドッグをひとかじりすると今度はヌードルだ。箸をマグカップサイズの椀に突っ込み麺をすくうと……うどんである。やだこの麺……太い……。


 豚骨うどんはちょっと初めてだ。周囲の不評を買わないように音を立ててすすること無くちゅるんと食べる。……こ、コシのある良いうどんですね。どうせなら豚よりも小魚の骨のほうが良かったな……。ガツガツとうどんをすすり、ぐっと豚骨のスープを飲み干した。


 俺はポテトをつまみホットドッグを名残惜しく胃袋へと放り込み、そして最後のデザート、ドラゴン退治だ。


 それにしても不思議なものだ。丸々グレープフルーツをデンと渡されてフルーツドラゴンだよと言われるのは。ドラゴンフルーツのように鱗要素も無いがこれをこの地方のドラゴンが好んで食べるらしい。


 蜜柑のへそをこじ開けるようにドラゴンフルーツの皮に親指を突き刺し、もう1つの親指も穴に入れ、力を込めて真っ二つに引き裂いた。柑橘系の香りが周囲に広がり、遅れてバニラ臭。こりゃうまそうだ。


 金属の付属スプーンを手に取りぎゅっと力を入れてくり抜くと口の中に放り込んだ。そしてバッチリ咀嚼した。


 ……猫の朝一番の小便を発酵させたらこんな味になるんじゃないかな。


「ずいばぜん、水っでいぐらでずか。」

「やっぱりね、ほら、ヤギの乳で中和出来るよ。本当は1ドッギジだが、お客さんは結構頼んでるしサービスでいいよ。」

「どうも……。」


 濃厚な温かいヤギの乳を飲むと震えあがった体が落ち着いた。乳ってすごいな、口の中も完全にヤギになってしまった。


「私達はフルーツドラゴンを日常的に食べるんだけど、外の人はなかなか慣れないらしいね。」

「慣れる人、居るんですか。」

「クセになって住み着いた人も結構居るよ。フルーツドラゴンはもう下げようか?」

「すいません。」

「気にしないで、皆そうだよ。」


 店員は皿を下げると、俺がスプーンを入れていないほうのフルーツドラゴンに別のスプーンを突き刺し、口に放り込んだ。


「美味しいんだけどね、栄養もたっぷりで。」


 苦笑いするしかないや。ま、こんな日もある。俺は店員に礼を言い、町の入り口へ止めてある馬車へ歩いて行った。

えつらんしていただきありがとうございました

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