(罵倒)会議
「よし、こんなものね。それじゃみんな、注目!」
テディ☆ベアが手を叩いて、全員の視線を集める。
「まだ時間があるから先に済ませておくわ。銀狐、グラ。こんな深夜なのに集まってくれてありがとう」
「ま、テディの頼みだし、オレもバアルはもう一回検証してみたかったからな。気にするな」
「テディベアが己らに頼む事も珍しいしな。普段の礼だ」
笑って答える二人に合わせて、シューも頭を下げた。
「クマさんもありがとう。私のわがままに付き合ってくれて」
「それこそ気にしちゃダメよ。今度例のパフェ、ご馳走になるし」
けど、とテディ☆ベアは少しだけ困った顔をして、
「まさかバアルに挑みたいから手伝って、なんて言われるとは思わなかったけどね」
「そ、それは……動画で検証とかはしたけれど、やっぱり実際にやってみないとわからないから……」
少しだけ小さくなったシューに、刃は苦笑する。
「そんな理由だったのかよ。まぁでも、俺みたいなのも参加できたし、感謝は感謝だな」
「本当、シューに感謝しなさい? 私とあの子だけなら、例えシューが許可しても私が許可しなかったから」
「へいへい。俺の復活アイテム分、働いてくれたらもっと感謝するさ」
「ぐぬぬ……」
「まぁ落ち着けって。とりあえずお礼合戦はここまでにして、話を進めようぜ」
歯ぎしりするテディ☆ベアを宥めながら、銀狐が改めて画面を出す。
「オレとテディは一回挑んで死に戻りしてるから、五割の急変までは大方いけるはずだ。一応ある程度の情報はまとめてあるけど、何か気になるとことか質問あるか?」
その言葉に、グラサンダーが手を挙げた。
「己は今回が初めてなのだが、この扉を抜けた直後に防御スキル、というのは?」
「ああ、扉を抜けた直後に、恐ろしく早い速度で攻撃が飛んでくるんだ。何人かが《受け流し》やら《完全防御》を試そうとしてたけど、攻撃の大きさもタイミングも不明で失敗してる」
《受け流し》と《完全防御》は、簡単に言うとダメージを無効化するスキルだ。
対象に対して軌道をズラす、または威力を相殺するなどの技術が必要なため、発動条件としては難しいものだが、対象のサイズやタイミングさえわかれば、案外誰でもできるものだ。
しかし、銀狐が一緒に行くPTとなると、まるで改造行為でもしているかのように見える実力者がほとんどだ。それを理解しているグラサンダーは己の実力と彼らの差を想像し、
「最低ダメージと種類は?」
「VIT400超えてる奴が鉄製の騎士の盾で受け止めて300だな。種類は不明だけど、あれは 十中八九、物理だろ。オレも初見で食らった時は四桁入って死に戻り寸前だったんだが、受けた時の感覚が物理的だった」
「VITがそこまであってもそのダメージなんだ……」
呆れた様子のシューに、銀狐は苦笑する。
「現状最強ボスの一体だし、仕方ないんじゃないか? まぁスノードラゴンと違ってこの部屋はレイド戦を行うには狭いし、今回勝てるか、って言われたら多分無理だけどな」
「私も勝てない確率が高いのは理解してる。けど、勝てるかもしれないとも思ってる」
シューの言葉に、グラサンダーと刃が頷いた。
「上手くいけば初撃はなんとかなるやもしれん。万が一攻撃が抜けたとしても、ある程度は減らせるだろう」
「検証動画と道中見て判断した限りは、下手踏まなきゃ勝てる見込みは高いPTだと思うぞ」
続けて、第二段階がなけりゃな、という刃の冗談にテディ☆ベアはため息をつく。
「足手まといのアナタがそれを言わないの」
「そりゃごもっとも。今回は戦うどころか、アドバイスすらできそうにねぇしな」
肩をすくめた彼に、グラサンダーは眉をひそめた。
「さっきまでの動きでVITとAGIが低いのはわかっていたが……STR極ではないのか?」
《パラレル・ユニバース》において、ステータスの伸ばし方はともかく、伸び代はキャラクター生成時に与えられるポイントを振ることで、ある程度決めることができる。
これをSTRにひたすらつぎ込み、敵に与えるダメージを高めやすくするのがSTR極振り、というものだ。
だが、これは他の能力がおろそかになる、というデメリットがある。
例えば、《パラレル・ユニバース》では初期に10ポイント与えられるのだが、これを平均的に振った序盤のプレイヤーが素振りをすると、一時間ほどでSTR、HPがそれぞれ少しずつ上がる。
だがSTRに全てつぎ込んで同じことをした場合、十分もしないうちにSTRは増えるが、HPは五時間、六時間ほど続けてようやく、といったところだ。
グラサンダーたちがそう思っていたのに気づいたのか、刃は気まずそうに目を逸らす。
「あー、いや。俺は……」
「そういえば私も気になってた。スノードラゴン相手に、普通に攻撃した時は全然ダメージなかったし」
「は? なんだそれ? それでよくスノードラゴン相手に戦えてたな」
話を聞いていた時は細かい部分は端折っていたため、まさかSTRも少ないとは思っていなかったのだろう、銀狐が馬鹿だこいつと腹を抱える。
「ということは何、アナタMP極かスキル極って真性のドMなの?」
「んなわけあるか!」
テディ☆ベアの言葉に刃は勢いよく突っ込み、
「MP1、スキル9振りだ」
「どっちにしろ馬鹿よ、アナタ本物の馬鹿よ!」
流石に予想外だったのか、銀狐は勘弁してくれと大笑いしながら転げ回り、グラサンダーは頬を引き攣らせた。
「初期スキルと合わせてスキル十二個も取っておいて、魔法はないの?」
「いやあるぞ。ただ倍加カウンターの方がダメージ高いから、そっちしか使ってねぇだけだ」
刃の言葉に、シューは驚きを通り越して呆れていた。
「スノードラゴンの時、よくMP保ってたわね」
「一応これでも四桁いってるからな。それに倍加カウンターもレベル最大だし、二十発はいける」
「MP1振りで四桁とかほぼ常にスキル使ってる状態じゃない。言葉の綾でもなんでもなく、本当に最弱カウンター馬鹿よ……」
「HPは一応500ちょっとあるけど、他は全部40以下だからなぁ」
「馬鹿だ! ここに本物の馬鹿がいる!」
「うっせぇ!」
相変わらず笑い転げている銀狐を尻目に、グラサンダーはなんとも形容しがたい顔をしていた。
「では刃殿はどうするのだ? バアル相手に守り続けることは不可能だ。見学と言っても、それすらできないかもしれん」
「もう《旗指定》はやったからな。死んでも問題ねぇし、初手さえなんとかしてくれりゃ後は放置でいい」
「……了解した。死ぬなよ」
と、ようやく笑いが止まったのか、目尻に涙を少し溜めながら銀狐が起き上がった。
「あー、笑った笑った……さて、他に質問はないか? ないなら、そろそろいこうか。もうすぐ三時だ、頑張って早めにケリをつけようぜ!」
サブタイトル、毎度どうするか悩みます……