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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
出会いは赤と白
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上には上がいる

 悪魔の森。薄暗く、また多数の悪魔型と呼ばれるモンスターが出現する、最近になって発見された自然型迷宮(ダンジョン)の一つだ。

 オセ、マルコシアスなどの比較的有名な悪魔から、ウィネ、シャクスといったあまり聞かないような悪魔も出てくる。

 ボスを含めた全てのモンスターが何かしらの状態異常攻撃を持ち、かつ物理、または魔法のどちらかの威力が高いという仕様なのだが、全七十二種類のモンスターがランダムで徒党を組んでうろついているため、必ず一人は検索役を用意することが推奨されている。


「ハゲンティ、魔法特化の物理・炎弱点、(ひづめ)の後に後ろ蹴り! ハルパス、物理特化、スラッシュ三連続っ」

「本当にサイト見ながらなのか!? 全部覚えてるみたいだぞ、刃。お前ってすごいな!」

「《炎の矢(フレイム・アロー)》! 物理攻撃系モンスターとの戦闘以外は役に立たないと思ったのにっ」


 そんな迷宮を、一つのPTが高速で駆け抜けていく。

 出会い頭に体術で敵を攻撃してから離れる銀狐を先頭に、油断なく周りを見ながら三又剣を構え、外部サイトに指をかける刃と、彼を抱えて走るシュー。そんな二人を護衛するかのように並走しながら、機械人特有のスキルを放つグラサンダーに、悪態をつきながらも、彼の後ろを追いかけるテディ☆ベア。

 本来ならPTの最大人数である六人でも進行するのが難しい迷宮を、しかし彼らは難なく突破していく。


「次は……おっと、ボス戦前の安全地帯(セーフティエリア)だ」


 と、敵が出るまでは地図を出していた銀狐が、入った通路の反対側に大扉がある部屋で一息つこうと提案する。

 刃たち三人は頷き、部屋の中央に集まった。


「いや、なんていうか驚きだな。前にボス情報を調査しに来た時は今回の倍以上かかったのにな」

「己も危うい攻撃を持つモンスターは覚えているが、他のモンスターは覚えていなかったな」


 予定よりも早く着いたことに驚くと同時に、笑顔で刃に緑色の液体の入った中級魔法薬(ミドルエーテル)を銀狐は投げた。

 ありがとうと小さく言う刃に、グラサンダーもその(いか)つい顔を崩す。

 そんな二人の対応が納得いかないのか、テディ☆ベアは無言で刃を睨み、普段は中々そんな態度を出さない彼女が、こうも長く続けていることにシューは驚きつつも、先ほどまでの戦闘を思い出していた。


 銀狐が速攻で敵に一撃を加え、かつヒットアンドアウェイで連れてくる敵をグラサンダーが一箇所にまとめ、それをテディ☆ベアが比較的威力の高い小規模範囲の魔法で倒す。

 流れだけを見れば簡単だが、実際に実行するとなるとそれは非常に困難なことになる。

 銀狐が当たり前のようにやってのけるヒットアンドアウェイは、当てるだけなら誰でもできる。しかし、追撃がある以上ノーダメージなど、シューであっても難しい。

 それにも関わらず銀狐は心底楽しんでいる笑みを浮かべながら拳や剣といった攻撃だけでなく、魔法攻撃までも躱していく。


 そして彼が引きつけてきた敵をまとめるのは、グラサンダーの役目だ。

 気合の雄叫びと共に地面に向かって両手の平を叩きつけた瞬間、地面から突如大きな歯車が現れ、モンスターを引き倒していく。

 しかし彼はそれを見届けることなく、即座に両手を合わせて今度は巨大な岩の手で歯車ごとモンスターをまとめる。

 スキル無詠唱自体はそこまで難しいことではなく、動きや発動の感覚に体が馴染めば自然と動作一つでできるようになる。だが、中距離とはいえ操作型スキルを手足のように扱うのは、それはそれで難しい。


 そしてその中心に、走りながら詠唱していたテディ☆ベアが魔法を放つ。

 これがまたチートとも思えるような処理能力で、放つ魔法は現状わかっているスキルの中でも威力が高いことで有名な単体用(・・・)魔法が多い。

 《炎の矢》は対象に当たってから比較的大きな炎を上げる魔法で、消費するMPに対して威力が高く、対人戦の一対一で言えば、近づかれない限りは確実に勝てる、とまで言えるレベルだ。

 単体用、とは言っても多少の大きさがあるので、当てることさえできれば複数にダメージを与える事は可能だ。だがまとめられているとはいえ、動いている敵全員に同時に当てるのは流石実力者というべきか。


 もちろんシューも何もしなかったわけではない。

 お荷物()を抱えながらも隙を見て《瞬間創造》による行動の阻害や、中級魔法薬による支援を行っていた。

 だが、それだけだ。

 ランカーになって、自信が付いた。スノードラゴンですら一人(ソロ)で倒せると確信できるほどに。

 だが、それだけだ。

 彼らは恐らくそんなレベルではない。刃というお荷物を抱えながらも、今のシュー以上に戦えるのは間違いない。そう思えるだけの動きだった。


 ――もし刃を抱えていなかったら、クマさんたちみたいに戦えた?


「シュー、何難しい顔してるの」


 テディ☆ベアが心配そうにシューの顔を覗き込む。


「え、い、いや別に。なんともないよ」

「ならいいんだけれど……」


 だが、未だ心配そうに見る彼女に、シューはあえて笑って手を振る。


「本当に大丈夫だから。それよりこの後ボス戦だよ? ちゃんと作戦考えないと!」

「おう、そうだぞテディ! シューの言う通り次はボス戦だ。気合入れないと負けるぜ?」

「せっかく普段一緒に戦わない面子で挑むのだ。どうせなら、勝って終わりたいものだろう」


 そういう二人は笑いながらも、空中に画面を出してボス戦の情報を整理している。


「うーん……そう、よね。うん、わかったわ」


 まだ納得はいかないものの、テディ☆ベアはシューから少しだけ離れて同じように画面を出し、自分の役割を見直していった。

 ほっと胸を撫でおろしたシューに、突如後ろから肩に手を叩く人間がいた。


「ひぅ!?」

「シュー、気にすんな」


 刃がぶっきらぼうに、けれどわかっている、とでも言わんばかりに首を横に振っていた。


「な、何を急に――」


 その問いに、しかし刃は何も言わずにただ大扉の前に向かっていった。


「なんなのよ、もう……」

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