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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
出会いは赤と白
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待ち人の心を知らず

 《パラレル・ユニバース》――それがこの世界……いや、仮想現実(バーチャルリアリティ)、通称VRゲームのタイトルだ。

 数多のVRゲームが稼動している中、いわゆるオンラインゲームに分類される《パラレル・ユニバース》は、正式稼動してから一年ほど経ってはいるものの、攻略が中々進行していないことで有名だ。

 その理由として、難易度の高さが挙げられる事が多い。


 まずHP、MP、STR、VIT、AGIといった、RPGゲームなどによくありがちなステータス群。これらを鍛えながらゲームを進行するのだが、まずこの鍛える方法が面倒だ。

 HPは長時間継続して行動を行う、MPならスキルを使い続ける、STRなら筋力を使う運動をするなど、ステータスにあった行動をすることで少しずつ成長していくのだ。

 どれも軽い運動などでは伸びず、激しい運動などをしなくてはならないため、攻略組と呼ばれる先駆者たちにとっての効率の良い上げ方などは、大方参考にはならない。


 次に、敵NPCの強さがシビアと言われる。

 最初の街周辺はともかく、少しでも先に進めばモンスターたちは徒党を組み、連携を取ってくる。

 先に進めば進むほど数と練度が上がっていき、現在攻略中のダンジョンはレイドと呼ばれる多人数PTでもないと攻略不可とプレイヤー間で言われており、運営死ね、と言われる所以(ゆえん)でもある。


 最後にスキル取得の難しさと全体的な情報の少なさだ。

 特定の行動を取ることでスキルを取得できるのだが、これが確実ではない上に、どんな行動を取ることで、どんなスキルが手に入るかが全く公開されていない。しかも最初にスキルを手に入れた大半のプレイヤーは、それらの取得条件を秘匿するため、新スキルの発見は後手に回っている。

 無論スキルの話だけでなく、新フィールドや新ダンジョン、未知の敵なども同じだ。


「そんなゲームなのに、何故遊び続ける人間がいるのか、ねぇ」


 フィルギャの街にある酒場。その一角で青い三角帽子を揺らしながら、外部のブログ式情報サイトを閲覧しながら呟く女性がいる。

 ところどころ黒い模様が入った白色のローブを揺らしながら、彼女は向かいに座る偉丈夫に声をかけた。


「一体なんでかしらね、グラ?」

「誰も知らない未知があるから、であろう。わかっているのに聞くな、テディベア」


 黄色いプロテクターの隙間から見える体が、ところどころ金属のように銀色の光沢を放つ高身長の機械人(ギアーズ)、グラサンダーは、真っ黒いグラサンをメガネのように押し上げながら、魔術師風の女性、テディ☆ベアに答える。


(ほし)をつけなさい、☆を! テディ☆ベア!」

「……かっこ悪いと思うのだが」

「えー、可愛いじゃない」

「……どう思う、狐殿」


 困ったようにため息をついて、松ぼっくりのような形をした大きな腕を組みながら、グラサンダーは側で聞きながら、黙々とエールを飲んでいる中性的な顔立ちの獣人(ビスティ)に話を振った。

 クリーム色の動きやすそうな冒険者服を身につけた、狐の耳と尻尾を持った比較的背の低い獣人、銀狐(ぎんぎつね)はその尻尾を抱きながら、面倒臭そうに手を振った。


「オレに振らないでくれないかそんな話題。答えづらいじゃないか。それにそれ、記号だろ? 読み方なんて人に任せればいい」


 女性的な声の高さ、それでいて男のような口ぶりに、テディ☆ベアは相変わらずねぇ、と笑う。

 そんな様子の彼女に、狐は時間を見てからジト目を向ける。


「それにしてもテディ、お前の言ってた相方は間に合うのか? まだ二十分以上残っているけど、場所が場所なんだろ」

「え、えぇ。連絡は来てないけど、今急いで走ってるんじゃないかしら……」

「多少遅れても、明日は日曜日であるし、問題あるまい」

「オレとしては、普段の生活リズムをあんまり崩したくないんだけどなぁ」


 苦笑するグラサンダーに、銀狐は頭の後で手を組んで、背を反らした。


「んー、今フレンド画面で確認中……きた! 場所はグリーズ山みゃ……え?」

「どうした、変な顔して。まさか死に戻りでもして変な場所にでもいるのか?」


 唖然と自身のフレンド画面を見るテディ☆ベアに、からかうように銀狐は笑いかける。

 だが、普段なら何か言い返すはずの彼女が、唖然とした表情のまま彼らを見て、


「もう、この街に着いてる……」


 現状では決してありえない話に、二人とも思わず顔を見合わせた。




 目の前がぼやけて、宙に浮くような感覚が襲ったと思ったら、気づけばシューはどこか知らない部屋の中にいた。

 質素な部屋で、小さなベッドとクローゼットが置かれた部屋だ。

 慌ててシューは現在地を確認すると、【フィルギャの街】となっている。


「本当に、着いちゃった……」


 思わず感心する彼女に、刃は軽く肩を竦める。


「さっきも言ったけど、スキルの事はむやみに言うんじゃねぇぞ」

「わかってるわよ。ところで……ここってフィルギャのどの辺りなの?」

「今日俺が泊まる(ログアウト)する予定だった、宿屋の部屋だ」


 行く前に払っておいたんだよ、と言う彼に、シューはあれ? と首をかしげる。


「確かに宿の前払いはできるけれど……別にここに戻ってきてからでもよかったんじゃないの? 確かに疲れた状態だったら面倒だとは思うけど」

「あー、それはスキルのためだ」

「《転移術》の?」


 そうだ、と刃は頷いてから目を瞑って意識を集中する。


「《範囲解呪(サークルディスペル)》……《風索敵(エア・サーチ)》……《聞き耳》にも反応なし。なら問題ないか」

「え、な――」


 戸惑った様子のシューを気にすることなく、刃は説明を始めた。


「まず《転移術》は、他のMMOにある種類と同じで、転移先を指定できる。で、その転移先は一度でも行ったことがあり、かつホームポイントが設定可能な場所に限定される」


 一度訪れたことのある街は、自身が死んだ時に戻る場所――すなわちホームポイントに設定できる。それはほとんどのゲームに通ずることであり、《パラレル・ユニバース》も例外ではない。


「だけど一つ問題がある」


 右の人差し指を立て、


「《転移術》で街に直接飛んだ場合、出現するのは死に戻りと同じ、街のシンボル前だ」

「えっと、それのどこが問題なの?」

「死に戻りした奴らは、HPが一で戻る。けど《転移術》の場合は転移前のHPのままで戻る。つまり、誰でも死に戻り以外で帰った、というのがわかるんだよ」


 その情報から、新しいアイテムかスキルを手にいれた、と推測するのは容易だ。

 月額制である《パラレル・ユニバース》において、課金アイテムは存在しない。よって、例えどれだけ稀少でも、情報さえあれば時間をかけて手に入れることは可能だ。

 そして、その情報源には大量の質問……場合によっては無理やり聞き出そうとするプレイヤーもいるという。

 どちらにせよ面倒には変わりないため、多くのプレイヤーは隠し通そうとするか、掲示板などで匿名のまま自身のわかる範囲で、取得条件になりそうなことなどを書いていく。


「だから、宿屋に事前に払ってこの部屋をホームポイントに設定したってわけさ」

「なるほどね。それにしても、《範囲解呪》に《風索敵》って……《聞き耳》はともかく、その二つは《転移術》と同じで聞いたこともないんだけど」

「そんなわけねぇだろ。攻略組の何人かが使ってるの、見たことあるぞ」

「嘘!?」

「いやホント」


 驚く彼女に、刃はやれやれと再び肩を竦めた。


「そんなことよりほら、とっとと待ち合わせてるとこに行くぞ」

「うん……うん?」


 彼の言葉に、シューはそのまま頷きかけ、けれどその意味をなんとなく把握して驚いた。


「え、一緒に行く気なの?」

「フィルギャの街から行ける範囲のボスって、見たことないからな。どうせだし、見学させてくれないか」

「それは、多分いいと思うけど、そんな装備で大丈夫?」


 比較的明るい部屋の中で見るとわかったが、彼の服が赤く染まっているように見えたのは、どうも白い服のところどころにある、赤い宝石が光っていたからのようだ。

 それになんの意味があるのか、と問われるとわからないが、おそらく耐寒性を高める処理ではないかと思われる。実際、宝石類にはそういった副次効果がある。

 けれど、それでも結局刃が使っているのは中途半端な防具だ。シューが今から行く場所は、環境的には問題ないが、防御力的には心配になる。


「今更だろ? 俺の能力じゃ、最初の街――ミズガルド周辺を除けばどこ行っても同じ、つまり大丈夫ってことだ。問題ない」


 ぞうやって苦笑しながら言う彼にシューは呆れながらも了解、と返す。


「それよかシュー、お前こそ大丈夫かよ?」

「私が持ってる中での最高装備だから、このままでも問題ないわ」


 そう言って、彼らは宿屋の個室から出て、街の外に出た。

 その際、高度AIを持ったNPCである宿屋の女将(おかみ)に冷やかされたのは、ちょっとしたアクシデントだったが。

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