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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
出会いは赤と白
3/33

不可避の勘違い

2015/6/24 一部修正しました

 その赤色にドラゴンが気づいたのは、足を剣で切り刻まれた瞬間だった。ほんの少しだけバーが削れると同時に、ドラゴンは怒るように咆哮する。

 対してシューはあくまで冷静に、素早く剣を振るう。


 すでに刻み込まれている数々の傷をなぞり、拡げ、抉る。表面の鱗や皮と違い、比較的柔らかい肉をこれでもかと切り裂いていく。

 そして、連続攻撃にスノードラゴンが大きく仰け反った瞬間だった。


「おまっ、横取りかよ!?」

「――えっ?」


 確かに倒れたことを確認したはずの少年が、怒りの表情でシューを指差していた。

 思わず追撃の手が止まった上に背を向けたシューの隙を、ドラゴンは逃さなかった。


「ちぃっ!」


 一瞬惚けたシューの前に踊り出た少年は、繰り出された爪の勢いをそのままに、剣の表面を滑らせる。

 その行動で我に返ったシューは、そのまま少年の腰を引っ掴み、続く二撃目の爪を避けて距離をとった。

 そのまま追撃のブレスが来るか? と身構える中、スノードラゴンは何かを警戒しているのか、距離を保ったまま睥睨(へいげい)するだけだ。

 そこで少し落ち着いたシューが胸を撫で下ろした瞬間、隣の少年が視線だけスノードラゴンを向きながら唸った。


「ったく、この時間だから誰もいないって油断した俺も悪いんだろうけどさ……だからって死体が消えるまではこっち来んなよ! せっかく全財産使って用意した計画が全部水の泡だ!」

「それは……ごめん。まさか復活アイテムを持ってるなんて、思ってなかったから……」


 戦闘中だからか静かに怒る彼に、シューは謝るしかない。

 けれど、それは仕方がないことだろう。復活アイテムなんて持っているのは普通、攻略組と呼ばれる人間達だけだからだ。まして、ステータス的に恐らくネタプレイヤーだと思っていたこともある。

 それを彼自身も分かっているからか、ため息をつくだけだ。


「それで、俺のソロ討伐計画はパーになっちまった訳だが……アンタはどうする気だ? このまま横取りか?」

「まさか。けれど攻撃をした以上、あなた一人に任せるわけにもいかないわ」

「ってことは固定ドロップの掠め取りか」


 凄く嫌そうな顔をする少年に、シューは思わず呆れた。


「なんでPT(パーティー)組むって選択肢がないの……」


 そんなことするわけないじゃない、というシューに少年は虚を突かれたようで、一瞬彼女の方を見る。


「は? PT?」

「そうよ」

「誰と」

「あなたと私以外にいないじゃない」

「倒した瞬間にPKとか――」

「なんで好き好んで犯罪者(レッド)にならなきゃいけないのよ!」


 その叫びと同時に、スノードラゴンが空中に飛び上がる。


「――っ! 突進!」


 言うが早いが、シューは少年の胴を抱えてその場から離れる、と同時に小声でPT申請、と呟く。

 先ほど自分たちがいたところを巨体が衝撃波と同時に抜けるのと、目の前に現れた小さな画面に書かれている文字を見て、少年は抱えられながらため息をついた。


「本気でPT組む気かよ……つーかアレ避けれるのに俺と組むなんてやっぱ――」

「つべこべ言わずに、早くっ」

「――あーもー、こうなりゃ自棄だ! PKでもなんでも来いやぁ!」


 叫び、PT申請と書かれてある画面のうち、〔YES〕と書かれたボタンに少年が意識を向けた瞬間、シューの視界の左上に小さく名前とバーが出てきた。


「読み方は……(じん)、であってる?」

「合ってる! それよかどうする、また突進が来るみたいだぞ!?」


 彼の視線の先には、再び突進をしてくる巨体が見えている。だが、シューは不敵に笑って彼を持つ手に力を込めた。


「多分、突進のキャンセルはできるわ」

「……は? キャンセル?」


 んな無茶な、と呟く刃にシューはただ、と続ける。


「成功しても危ないのは変わらないわ。けれどあなたの足じゃ避けれない。だから――」

「ちょ、ちょっと待て。なんか嫌な予感がす」

「頑張って受け身をとって、ね!」

「るって、てっめええええええぇぇぇぇぇぇ――!」


 そして、刃はボールのように投げられた。

 竜の突進に対して直角であるため、この後シューが彼の方向に何かをしない限りは、安全のはずだ。

 だがそれとは別に彼の体はそこそこの勢いで空を飛び、しばらくしてから雪の積もった地面に落ちる。

 受け身は、取れなかった。


「痛っ、ぐっ! このっ!」


 それでもなんとか体を丸め、ダメージを最小限に抑えたのはたまたまだ。

 恐る恐る彼は左上に目線だけ向けると、バーは残り一割ほどしか残っていなかった。


「あっぶねぇ……死に戻りするところじゃねぇか」


 とはいえ、あのままであれば突進してきた竜が刃を直撃していたのは変わりなく、その場合は何があろうと確実に死ぬ。

 なら、まだ死なない可能性のあったこちらを選択されたのは間違いではない。間違いではないが――


「納得いかねぇ!」


 そう叫びながらシューの方を見た瞬間、彼は言葉を失った。


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