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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
出会いは赤と白
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不適な挑戦者との邂逅

 そこで行われていたのは、無謀な挑戦だった。

 翼を持ち、二本足で立ちながら腕を振るう西洋竜(ドラゴン)と戦っていたのは、少女と同じく一人(ソロ)の少年だ。白い毛皮で出来た服の様な防具一式を、ところどころ赤く染めながら戦っている。

 その内容はお世辞にもまともに戦えているとは言えず、おそらく誰が見ても同じ答えが出るだろう。


 ――遅い。


 シューの速度はトップクラスだ。たとえ特化型だろうと、一方的に翻弄されることはないと言えるくらいに。

 しかしそんな彼女自身と比較しないまでも、遅いのだ。具体的に言えば、初級冒険者並に。いや、下手すれば少し成長した彼らよりも遅い。走るのも、腕を振るうのも、現実(リアル)の速度と変わらない。


 代わりに攻撃力が高いのか? と問われれば、答えは否だ。スノードラゴンの懐に潜り、攻撃したのは見えるのだが全くダメージがないように見える。

 ここまで来れば考えうる彼の攻撃手段は魔法なのだが、それを使う素振りも見せない。


 では一体、どうやってダメージを与えているのか?


 その答えは、案外すぐに出た。

 相対する少年に比べて、倍以上の大きさを持つ鋭い爪が振り下ろされた瞬間、少年は手に持った奇妙な三又剣を爪の勢いに合わせて、滑らせるように薙いだ。


 カウンター……それもダメージを見る限り、タイミングを合わせなければ致命傷は必至の、スキル込みの倍加(ダブル)カウンターだった。


「私も人のこと言えないけれど……馬鹿じゃないの」


 カウンター戦法自体はまぁ、いい。シューが知っている範囲でも、使っている人はいる。だが、どう見てもダメージがおかしい。

 通常、スキル込みのカウンター単体で発動した場合、通常攻撃のダメージに合わせて、相手から受けるダメージが上乗せさせる。だから本来シューのようなトップクラスが、例え同じような倍加カウンターを決めたとしてもダメージは少し、といったところだろう。


 しかし目の前の戦闘はどうだ?


 どう見ても一撃で一割の半分近く削っている。異常とも言える威力だ。そして、それが意味することは一つ。


 ――STR(ストレングス)もSPDも、それどころかVITまで低い。装備だけ見れば中堅クラスに見えなくもないけれど、正直ここに来れているだけで奇跡だよね。


 いわゆる紙装甲という奴だ。シューは呆れを通り越して、感心する。

 一撃でも直撃、いや、下手すれば掠っただけでも即死するだろう。見ている限り使われていないブレスなら、装備を見る限りまだマシかもしれない。

 雪兎一式(スノーラビットシリーズ)で固めてある真っ白の防具たちは、防御力そのものはそこまで高くはない。が、代わりに重量の軽さと耐寒性の高さは一般的な火炎猪一式と比べても、遜色ないからだ。

 ブレス耐性がないとはいえ、ダメージはある程度減る。


 それでもやはり脅威になるのか、倍加カウンターを決め、爪を切断した後も少年は離れることなく竜の懐で剣を降り続けている。

 無論それを素直に許すスノードラゴンではなく、飛び立ったり尻尾を使ったりと、様々な手段を講じるのだが、スノードラゴンの頭上に見える赤いバーを見る限り、すでに残り六割ほど……つまり、これらに対応する策があるらしい。


 それはどんな手段か?


 突如スノードラゴンの行った飛び立つ行動に対しては、序盤に行っていたのだろう、足首に付いていたロープを体に括り付けており、そのまま足の甲に登る。

 竜はカウンターを恐れてか暴れることができず、結局何もせずに着地した。

 尻尾攻撃に対しては爪と同じくカウンターを決める。もう何度も行われたのか、切り傷だらけの尻尾はその一撃で切断された。

 そして千切れた尻尾がそのまま勢いよく飛んでくるのを、シューはギリギリで回避する。

 思わず顔を顰めるが、仕方がない。それなりに近くで観戦しているのだ。リスクがないわけではない。

 けれど、気になる。見ていてとても、興味が沸いてくる戦いだった。


 そうして気づけば、スノードラゴンのバーは残り四割。思わず時間を忘れて見続けるシューはふと、視界の右上に見える手紙の絵が光っている事に気づいた。

『そこからだとポータル使ったとして後三十分ほど。残り四十五分で出発時間だけど、大丈夫なの?』

 後十五分……大丈夫だろうとシューは考える。自分は戦えないだろうが、目の前の戦闘は見ていて本当に面白い。カウンターだけで勝てるのか気になって仕方がない。


 なら最後まで見ていよう、と。


 見た限り、カウンターを警戒しているとはいえ、結局スノードラゴンは爪を使って攻撃する。その結果、確実にバーが削られていく。多少のこう着状態はあれど、いずれは腕や足を使わざるを得ない。例え、結果がわかっていたとしても、だ。

 後二、三回カウンターが決まればバーが消える、まさにその瞬間だった。


 スノードラゴンの爪が少年から逸れ、その足と彼を繋ぐロープを切断した。


 それに対して少年が焦るが、もう遅い。

 空中に飛び上がった竜は今までのお返しとばかりに大きく息を吸い込み、極寒のブレスを解き放った。

 確かに、ダメージは低かっただろう。少年の上部にある緑色のバーは、一瞬で消える事はなかったのだから。けれど、それは何の慰めにもならなかった。

 ブレスが一瞬で済むはずもなく、そのままバーを削り切り、少年はその場に倒れ伏した。

 ――わかってはいたけれど。

 終わりは、あっけなかった。

 ブレスに対する予防策はなかったのだろう、倒れた少年を見下ろし、スノードラゴンは勝利の雄叫びを上げる。

 残り時間、十分。

 チラと確認して、シューは一人、頷く。


 ――このまま放置してもまた一から戦わなきゃいけないし、トドメくらいはいいよね?


 そして、一気に駆け出した。

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