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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
万能型の悩みと、特化型の悩み
18/33

下手の横好き、教える苦労

今回は短めですー

 料理スキルを覚えるには、とにかく何かしら手のかかる料理を作らなければいけない。

 そのために宿屋の暇な時間を見て厨房を借り、定番中の定番であるカレーライスを刃は教えていたのだが。


 ――包丁の代わりに剣を使うのはまぁ、やるとは思ってたけどさ。


 米を洗剤で洗おうとすることに始まり、じゃが芋の芽を取らない、それ以前に皮を剥かずに切り始める、切った肉やジャガイモを炒める前に水を入れるなど……。


「あのさ、初めて料理したんなら変にプライド持たずに聞けよ。別に野菜を大きめに切るのは男料理でよくあることだし、火も、まぁ《火の矢》を使ったのは驚いたけど焦げないようにするなら理解はできる。普通はしないけどな」

「うぐぅ……」


 刃は飽きれながらチラっとシューを見ると、結構ダメージを食らっている様子で胸を抑えている。


 ――相変わらず、背の高さの割にねぇなぁ……。


 そんな彼女を見てどうでも良いことを思いながら、


「あれだけ自身満々に始めて失敗して、続けることに怖じ気づいたかと思えば気合い入れてそのまま進めちまうし。そもそも、調べてなかったのか」

「か、カレーは簡単だと思って……」

「カレーを、ってか料理を舐めすぎだ!」


 刃はいいか、と人差し指を立てる。


「カレーは確かに簡単そうに見える。けどな、それは誰でもできるようなレシピってもんがあるからだ。実際、一から作ろうと思えばスパイスの調合になるんだけど、カレールーっていう便利なもんがあるくらいだ」


 けどな、


「今回のはそれ以前の問題だろうが! そもそもなんで米洗うのに洗剤入れようとしてんだよっ」

「え、食器とかと同じだと思って……」

「お前は馬鹿か!」


 どこから取り出したのか、全力で振るわれた刃のハリセンは、シューの頭でかなりいい音を立てた。


「ちょ、何するの!?」

「知ってるか、洗剤食ったら体内で炎症起こして最悪死ぬ。米は水分吸い取るから洗剤も一緒に吸い取ることになるんだぞ」

「え、知らなかった……でも、それなら食器がオッケーなのはなぜ?」

「……お前、食器食うのか?」

「食べないよ!」


 そんなシューのあまりの知識のなさに、刃は飽きれてものが言えなかった。


「で、聞きたいんだけどよ。コイツ、リアルでも調理してんの?」

『私が知る限り、シューがリアルで料理したことがある、なんて聞いたこと無いわ』


 唐突な音声通信にも動揺することなく答えたテディ☆ベアに内心驚きながら、刃はやっぱりかと後片付けをしながらため息をついた。


『え、何そのため息』

「いや、まぁ……シューの料理下手、というよりも常識の無さの原因がわかったのと、リアルでは手を出してない安心感が一気に来たっていうか……」

『あー、いわゆるお察し、というわけね。ちなみに一番わかりやすい例は?』

「米を洗剤で――」

『オーケー、シューがベタな料理音痴ということはよくわかったわ。今度リアルで教えてあげる』

「お、お手柔らかにお願いします……」


 刃とテディ☆ベアの会話を聞いていたシューの小さな声に、二人は苦笑した。


 それからというもの、シューは刃とテディ☆ベアの二人に、リアルとゲームの両方でしごかれた。

 リアルでは基本的な調理を、ゲーム内では素材集めを、時間の許す限りやらされる。

 ゲーム内ならともかく、リアルでもさせられるのはさすがに不満だったのか、


「なんでリアルでも料理をしなきゃいけないの? スキルを手に入れるだけならゲーム内だけでいいじゃない!」


 とシューは怒ったそうだが、


「食費、抑えれるわよ?」


 そうテディ☆ベアに言われた瞬間にやる気になったと聞いたとき、刃は少しだけ同情した。




「ねぇ、なんで食材集めるためだけに、ここまで来なきゃいけないの……」


 時に砂漠に、時にジャングルへ、そして挙げ句はダンジョンへ。ゲーム内でもシューは不満だらけだった。

 難易度としてはそこまで高くはないが、大方レアドロップとなっている分、時間がかかる。もう飽きたと言わんばかりにへこたれるシューに、刃はやれやれと首を振った。


「料理スキルのランクもそうだが、材料によって効果の追加だけじゃなくて、完成後の味にも影響があるんだけ――」

「さぁ刃、次々いくわよ!」


 あまりにも早く変わり身をしたシューに、ホントリアルはどんな食生活をしてんだ、と戦慄したのは、決して自分だけではないと刃は思った。




 そして一ヶ月ほどが経ち、


「できたぁ!」


 まともなカレーを作り、シューはようやく料理スキルを会得した。

 そんな彼女をまるで嫁に出した母親のように見ていたテディ☆ベアに、刃はこめかみを揉みながら聞いた。


「なぁ。なんで、たかが料理スキルを取得するためだけに、コイツ一ヶ月もかかってんの……」


 その言葉に、今度は一気にやつれて疲れ果てたサラリーマンのような顔になり、


「刃、毎日ジャンクフードと出来合いの料理だけで生きてる不器用な子に、普通の料理を作らせれるようにすることがどれほど大変だったか、聞きたい?」

「……遠慮します」


 死相すら見えそうな笑顔を向けたテディ☆ベアに、思わず敬語になってしまう刃だった。

現実は中々厳しいですが、頑張れば大体報われるって私は信じたいですw

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