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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
万能型の悩みと、特化型の悩み
17/33

クマとお菓子の気になるもの

新章スタートです!

筆が乗ったのか、若干長めになっております。

 燃え盛る炎の上に置かれた、大きな鉄の内部に広がる液体を見て、彼女は唾を飲み込んだ。

 土のように茶色いそれは、粘度の高さを示すかのように不気味に泡立ち、独特の香りを放ちながら蒸気を立ち上らせている。さらにその目の前には様々な塊が板の上に鎮座しており、中には明らかに原型をとどめていないモノもあった。

 それらをじっと見つめたままの少女を見て、彼女の斜め後ろに立っている少年は不適に笑った。


「どうしたシュー、もしかして怖じ気づいたか?」


 そう言われて彼女、シューはまさか、と首を横に振る。


「そ、そんなわけないでしょ! これくらい、私にだって!」


 そう言ってシューは自らの剣を抜き、正眼に構えた。

 息を大きく吸い込み、ゆっくりと吐きながら目の前にあるものに集中する。


 ――大丈夫、絶対できる。そう、絶対に!


 繰り返し、この後の動きを頭の中でイメージしてきた。

 それらが頭の中でぴったりと、パズルのピースが合わさったかのような感覚を受けた瞬間、


「はぁああああああ!」


 板を蹴り上げて、その上にある物体が宙に浮いてある間に切り刻む。

 慣れ親しんだ《スラッシュ》の連撃。それは一寸の狂いも無く十六分割にしていき、短冊状に切り、細く切り刻む。


「このまま……《火の矢(ファイア・アロー)》っ」


 シューはそれらが液体の中に落ちていくのを見ずに、その容器の下部に向かって魔法を放つ。

 火の矢は元より強かった火をさらに燃え上がらせ、より強く液体を沸騰させた。


「後はこれで!」


 そして最後に液体をオタマでかき混ぜて、シューは完成! と笑顔で少年の方を見やった。


「どうよ刃。私だってできるわよ、これくらい!」


 そして刃と呼ばれた少年はその笑顔を横目に、その液体をスプーンで掬ってから飲む。と、途端に顔を歪めながら言った。


「……シュー、お前、これをカレーって呼ぶつもりか?」

「――えっと……ダメカナ?」

「はっはっは………………ダメに決まってんだろがぁ!」


 自らも味見をした途端、冷や汗をかきながら笑みを引きつらせて言うシューに、同じく笑ってから、そしてすぐさま青筋を浮かべて刃は怒鳴り散らした。




 時は一週間ほど前に戻る。

 刃たちが初めてバアルと戦ってから、約二ヶ月ほど経った。

 あれから能力を上げ、新たに強化された装備を整えることで刃を除いたメンバーは全員、バアルを倒すことができた。

 もちろん刃も一緒にいたのだが、運悪くカウンターを失敗して、死に戻りの憂き目にあっていた。

 それから何度かバアルを倒そうとしているのだが、


「くっそ、まさかカウンターに合わせたかのようにふらつきが出るなんて思わなかったぜ……」

「毎回毎回懲りないわね。どう考えても自業自得よ。たまにはデスペナを完全に治してから戦いなさい」

「だって時間がもったいねぇだろ」

「だったら文句を言わないの」


 もう何度目になるかわからない会話に、テディ☆ベアが飽きれた顔で彼の頭に杖の先端を乗せた。


「普通の人はそもそもデスペナを受けた時点で、狩りなんてしなくなるものよ? 大体、普段はどうしてるのよ。いつもやってるんでしょ、感覚異常なんて日常茶飯事じゃないのかしら」

「いつもなら異常があっても対処できるような動き方をしてんだよ。今回は運が悪かったんだ。多分、きっと」

「……諦めてキャラの再作成してやりなおしたら」

「手に入れたスキルがもったいねぇ」


 うっとうしそうにテディ☆ベアの杖をどけながら、刃は後ろ手で頭を組む。


「んにしても銀狐のヤロー、まだわからないスキルがあるからって調査に一体何ヶ月かけるつもりだよ……さすがに二ヶ月になると辛いんだけど」

「それこそ諦めたら? ああいう性格だ、って最初にわかったのに、その後調子に乗って次々スキルを教えちゃったんだから。しかもその後また新スキル見つけてはしゃぐし」

「うぐ……」

「それに銀狐が予想した取得方法でまた新スキル手に入れちゃうし、堂々巡りよね」

「ごふっ……」

「ま、まぁまぁ。クマさんそこまでにしてあげたら?」


 刃を弄るのが楽しいのか、笑顔でクリティカルな口撃を続けていくテディ☆ベアに、隣で聞いていたシューは苦笑が止まらない。


「そういえば、刃って戦闘関連以外のスキルも揃えてるって言ってたよね」

「んあ? ああ、そうだな。鍛冶に裁縫、細工に料理、サバイバルに大工、って感じで結構揃えてると思うぞ」

「鍛冶と裁縫にはお世話になってるし、細工とサバイバルはわかるけど、大工に料理ってどうなのよ……」


 そこまで聞いたテディ☆ベアが、飽きれたように肩を落とした。


「あー、普通はそうだよなぁ」


 当然、と言わんばかりに刃は腕を組み、


「んじゃ説明すっか。大工はそのまんま家を建てたり、机とかの家具を作成するスキルだ。ま、ぶっちゃけハウジングスキ――」

「つまりマイハウスが作れるの!?」


 勢いよく食いついたテディ☆ベアから少し距離を取った。


「お、おう、作れるぞ。管理者権限の譲渡とかも可能だしな。ただ、大工スキルがねぇと増築や解体は不可能だし、そもそもが作成時にとんでもねぇ量の建材と、場合によっちゃ金が必要になる」


 ハウジングという単語に目を輝かせていたテディ☆ベアは、しかしその言葉で我に返ったようにおずおずと片手を上げる。


「その、具体的にいくら?」

「そうだなぁ。一番小さい豆腐タイプの家を作るとして……」

「豆腐タイプって何よ」

「石材オンリーで作るとして、五百くらいあれば十分かな」

「ごひゃく!?」


 想像よりもはるかに多かったのか、テディ☆ベアは驚いて少し固まった。それを刃はそうなるよな、って苦笑した。


「未だに続いてるあのクラフティングゲームに比べりゃマシだろ。んで、それくらいの規模で、一日で完成させようとか思ったら多分復活アイテム買うのと同じくらいだったはずだ」

「それって上位ギルドとかでも手が出しづらいと思うんだけど……」


 唖然とするテディ☆ベアを横目に、シューはふと違和感を感じた。


「一日で、って言うことはつまり、時間をかければもっと安くできるの?」

「おう。やろうと思えばタダまで抑えれるぞ」

「いくら時間がかかってもいいわ私に家を造ってお願い!」


 タダという単語を聞いたテディ☆ベアが目を輝かせながら飛びつくのを、刃はひらりと避けた。


「このクマ、人の話を最後まで聞きやがれ! 第一時間がかかるってことは、何かしらのデメリットがあるってわかるだろがっ」

「だ、だからって避けなくてもいいじゃない!」

「うっせ、ステータス差を考えろ! てめぇに押し倒された時点で俺の体力はゼロ確定だろっ」

「んなっ、女の子に向かって筋肉バカみたいだなんて言わないでよ!」

「魔術師タイプだろうが関係ないレベルってこと忘れてねぇか!? つうかここまで聞けば、少し考えたらわかるだろ! 時間かけていいってことは、その分プレイヤーが作るってことだっ。剣の強化もスキル強化もしたいのに、んなことに時間なんかかけてらんねぇよ!」


 そこまで言われて、テディ☆ベアは渋々と言った様子で下がった。


「……で、料理スキルの方だけど」

「あ、それは私が気になる」

「料理ねぇ。そういえば最近してないわ」


 リアルでもするタイプなのか、と少しだけ驚きながらも刃は自分のポーチを叩いて、インベントリを開く。


「簡単に言えば、回復薬と同じだな。決定的に違うのは、食うのに時間がかかるところと、スキルレベルだけじゃなく、実際の手際とかで料理のランクが変わるってところか」


 そう言いながらとりだしたのは、どこにでもありそうないわゆる焼き魚だった。


「焼き魚?」

「ああ。これは単純に串に刺して火で焼いて、後は塩をかけただけのやつだ」


 そう言われて、シューとテディ☆ベアは受け取りながらアイテムの効果を調べる。


「HP少量回復に……三分間自動回復……」

「こんな単純なものなのに……」


 驚く二人に刃はさらにインベントリを漁る。


「もちろんやりこもうと思えば、リアルと同じでいくらでもやりこめる。例えば、これとかな」


 そう言ってとりだしたチャーシューを見て、テディ☆ベアは思わず目を疑った。


「体力回復はともかく、STRとDEF三分間上昇、それに合わせて自動回復!?」

「わざわざリアルと同じ手間暇かけて作ってみたチャーシューなんだけど、予想外に上手くいって俺も驚いたやつだ。オークの肉を使ってるけど、食ってみろよ。美味いぜ」


 そう言いながら刃はチャーシューを切り分け、シューとテディ☆ベアに渡した。そして、二人が口の中に入れた瞬間だった。シューは何故か、目の前に羽の生えたオークの姿が見えた。


 柔らかいお肉を噛んだ途端に、味がしっかりと滲み込んだ肉汁が口の中いっぱいに広がってくる……!

 入れたアイテムの時間が停止するインベントリの中に入れていたからか、ほとんど出来立てそのもので体が暖まる。それに硬すぎず、柔らかすぎず、まるで舌の上で溶けるような感じで……ああ、今なら空も飛べそう!


 そんなトリップ気味のシューを横目に見つつ、テディ☆ベアも若干の驚きと共にチャーシューを咀嚼する。


「なるほど、確かにこれは凄いわね……」

「だろ? 流石にプロの味には劣るけど、一般家庭で作ってる中じゃかなり美味い。それに、ある程度スキルレベルが上がれば、一度作った料理を短縮して作れる」

「それは便利ね」

「代わりに当たり前だけど、初期投資が結構かかる。材料費、調理道具一式、それに時間もな」


 そう言いながら、未だ変わりない様子のシューを見て苦笑した。


「今のシューを見たら、この後なんていうか想像がつくな」

「お願い刃、私に料理スキルを教えて! ってところかしら」


 同じく苦笑するテディ☆ベアの予想通り、トリップから戻ったシューは一言一句違わず刃を拝み倒し、なんとか彼に教えてもらうことになった。


 しかしこのとき、刃は全く想像していなかった。

 彼女が準備を終えた一週間後に、ある意味で地獄を見ることになる、などと。

個人的な話になりますが、私は中華全般が大好きです。あ、和食や洋食も大好きです。でもやっぱり中華を優先的に選ぶと思います。コッテリコテコテ。

特に飛びぬけてこれが好き、というものはないのですが、どれか一つだけと言われたら散々迷った挙句におそらく天津飯を選びます。チャーハンの上に卵と餡かけ、いいですよね……じゅるり。

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