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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
出会いは赤と白
15/33

反省会は運動の後で

「それにしてもなんでここで待ってたの? もっと簡単な場所とかでもよかったんじゃないの?」

「ああ、ちょっと時間はかかるだろうって思ったからな。どうせ待つなら、欲しかった素材でも探してみようかと思ってよ」

「素材って言うと……銀熊の毛皮?」


 そう言ったシューに違う、と刃は首を横に振った。


「じゃあ何なの?」

「月の刃熊の毛皮と爪」

「昨日のアレでステータスペナルティもらったのに、よくネームドと戦おうなんて思えるね……」


 熊の森にいるボスのレアドロップであると言う彼に、シューは飽きれたようにため息をついた。

 《パラレル・ユニバース》においてプレイヤーが死亡すると、ゲーム内合計時間が一日経つまで能力値低下のペナルティを受ける。合計ステータスの何割かが全能力から一時的に引かれるため、戦いに行くプレイヤーはなるべく死なないように心がける人が多い。

 昨日のような様子見を行うプレイヤーたちは、死に戻りした場合は翌日からなるべく街で行動し、次に備える準備をするのが一般的だ。


「いつものことだからなぁ。昨日のスノードラゴンの時もそうだったし」

「……はい?」


 能力値が低下した状態での戦いは、不利なことしかない。

 風邪を引いたときのような軽い気怠さがあったり、急に力が抜けたりなど様々だ。

 一瞬のミスが大きく影響するボス戦など、普通は行ったりなどしない。


「ああ、言っとくけどスノードラゴンの時はともかく、バアルの時は変なミスでやられたんじゃねぇからな」

「いや、それ以前の問題よ! 普通はただのフィールドボスですら挑まないわよっ」

「ステータス値が下がるって言っても、俺の場合だいたい一桁だぞ? HPでも50くらいだ。だからあんまり関係ねぇよ」

「感覚異常もあるのに……」


 無茶苦茶すぎる。そう飽きれるシューに、刃は頭の後ろで手を組んで、


「あのな……俺のステータス、オール40以下だぞ? 能力値低下しても初期値とあんま変わんねぇし、最初から死に戻りが絶えなかったから感覚異常なんていつものことだぜ? もう慣れちまったよ」

「バカじゃないの!」


 あっけらかんと笑って、シューに思い切り頭をはたかれた。




「おっと、そろそろ反省会の時間だな……」


 途中からカウンターに切り替えて戦っていた刃が、銀熊を切り倒しながらそう呟いた。

 結局目当ての物は出なかったが、彼は仕方ないとばかりに頭を掻く。


「俺はもちろん行くけど、シュー。お前は結局どうすんだ? 昨日の今日だろ?」


 来なくてもいいんだぞ? という刃に、しかしシューは首を横に振る。


「行くだけ、行ってみる」

「いいのか?」

「うん、まだちょっと怖いけど……」


 でもね、とシューは続ける。


「刃が心配してくれたみたいに、銀狐さんやグラサンダーさんにも心配かけたかもしれないから。だから一応、ね」

「……ま、お前がそう言うなら、俺はこれ以上何も言わねぇよ」


 ぶっきらぼうにそっぽを向いて言う刃の耳は、少しだけ赤かった。




「刃、それにシューもか。忙しいのに来てくれて感謝するぜ!」

「シュー殿、昨日はすまなかったな。つい厳しく言ってしまった」

「い、いえ! 私も周りが見えてなくって……ごめんなさい」


 向かい合って頭を下げるグラサンダーとシューを横目に、刃はつまらなさそうにコーラが入ったジョッキをあおる。


「で、テディ☆ベアはどうした? 姿が見えねぇけど」

「ああ、テディは遅れるって話だ。出さなきゃいけない課題が終わってなかったらしい」

「あー……そりゃ悪いことしたな」


 肩を竦める銀狐に、刃は頬を掻いてから再びコーラをあおった。


「ま、先に始めておいていいって話だから、まずは昨日撮ってた動画の拝見だな。テディの分は預かってるから、まずはこれから見るか」


 そう言って、銀狐は手元にウインドウを表示すると、それを全員の見える位置に移動させて固定した。


「道中は省くぞー。ボス戦だけでも二十分はあるんだ、全部見てたらキリがない」

「一応認識阻害かけとく。《幻影迷彩(ファントム・カモフラージュ)》」


 動画がバアル戦から再生されたと同時に、刃がスキルを発動させる。

 その名前に一瞬銀狐が反応するが、すぐに思い直したかのように目を動画に戻した。


 動画の中では刃とテディ☆ベアを除いた全員が撮影されており、動き回っている。

 全員がかなりの速さで、銀狐に至ってはトリッキーな動きで翻弄するかのように動いているのだが、しかし動画の中で拡大、縮小が目紛(めまぐる)しく行われて常に同じ人数が映っている。


「なぁ、もしかしてこれ全員分の動きと状態を把握してんのか?」


 それを見て若干引きつった顔で銀狐の方を向いた刃に、銀狐は首を縦に小さく振った。


「マジ?」

「本当だ」

「ありえねぇ……」


 銀狐の代わりに答えたグラサンダーは、苦笑した。


「慣れてくれば三、四人ほどであればできるようになる。もっとも、テディベアの場合は十数人まで可能と聞いたがな」

「もう変態としか言いようがねぇ……どんな処理能力してんだよ……」


 飽きれたように言う刃に、グラサンダーは見ろと言わんばかりに動画を指す。


「だが、それも冷静でいられれば、だ。テディベアは一度形勢が崩れると、立て直すのに時間がかかることが多い。今回もそれが見えているな」

「けどこればっかりは仕方ないさ。シューが暴走したからな」

「ご、ごめんなさい」

「ああいや、怒ってるわけじゃないんだ。オレも未だにやらかす時あるし。それにオレはそこまで効率とかを求めてるプレイヤーじゃないからさ」


 縮こまるシューに、銀狐が慌てたようにフォローする。

 その様子を見て珍しいものを見たような笑みを浮かべながら、グラサンダーが腕を組んで再び動画に目を向ける。


「それでもあの《ミドル・ヒール》のタイミングは完璧だったと思う。その後、即座に二回目の回復を行おうとしたのも通常なら間違いではないだろう」

「けどあいつにゃそのタイミングも意味が無い、と。厄介だな。ああも魔法攻撃が多いと、ゾンビアタックしてもソロ討伐はできそうにねぇな……」


 刃が悔しそうにしたのと、動画が終わったのはほぼ同時だった。


「じゃあ、次は誰の動画を見る?」

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