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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
出会いは赤と白
14/33

元気そうな顔が見たくて

『《パラレル・ユニバース》へ、ようこそ!』


 ログインアナウンスが聞こえる。ゆっくり目を開けると、そこは昨日ログアウトしたフィルギャの街の噴水前だった。

 昼間とはいえさすが休日というべきか、周囲には比較的多くのプレイヤーが見える。彼らは突然現れたシューを気にすることなく、それぞれが好きな行動をとっている。

 NPCからアイテムを購入する猫耳獣人や、同じギルドメンバーで話しているのだろう機械人の集団、座り込んで露天を開いているだろう人間……。


 ――き、気のせいだってわかってるけど……。


 シューはそんな、自分には決して向いていないはずの彼らの視線を感じてしまう。違うとわかっていても心配は収まらない。

 どこかゆっくりできる場所は、と視線を動かしていると、


『ったく心配させやがってこんのバカシュー! 生きてんならせめてメールに返事くらい寄越しやがれっ』

「ひゃう!?」


 道のど真ん中で突如悲鳴を上げた少女に、周囲が一瞬何事かと視線を集めるが、彼女が耳に手を当てながら走っていくのを確認すると、何事もなかったかのようにスルーした。


「ちょ、刃、いきなり音声通信で大声はやめて!」

『うっせぇバカ! 人を無駄に心配させた罰だ、ありがたく受け取りやがれっ』


 走りながら小声で反論するシューに、しかし刃は反論を許さない。


『そもそもシュー、お前がとっとと俺にメッセ返せばよかった話だろうが』

「うぐっ!」

『テディ☆ベアに連絡入れてもらった後も、お前からはやっぱり連絡なかったし』

「はう……!」

『どうせその調子だと、俺が送ったメッセもまだ見てねぇんだろ』

「ごふっ……そ、その通りでございます……」


 心に次々と刺さる口撃にシューの脳内体力が順調に削られていく中、刃は思わずため息をついた。


『Exactly(その通りでございます)、じゃねぇよ! ったく、あの程度のミスで簡単に折れるんじゃねぇよ……』

「だ、だって!」


 それまで駆けていた足を止めて、シューは俯く。


「だって……手伝ってもらったのにあんな失敗して、迷惑かけて……それに、晒されないか心配で……」

『心配性乙』

「なっ」


 そんなシューに、刃はアホらしいと再びため息をついた。


『お前、それを言ったら俺なんかどうなるよ? 参加したいって言うだけで晒されるぞ』

「え」

『雑魚敵と戦ってても晒されることあるし、迷惑かけないようにって思って、ソロでボス戦してても晒されるんだぞ』

「そんな程度で……?」


 唖然とするシューに、刃はそんなもんだと苦笑する。


『だから、んなこと気にするよりも、とっととこっちに来いよ。場所はメッセで送ってるだろ』

「……うん、わかった」


 そして耳から手を離して、受信した刃からのメッセージを開く。


「場所は……え?」




「やっと、来た、か!」


 目の前で大きな熊の爪を全てカウンターで返す刃に、シューは半ば飽きれた顔になった。


「一応、ここって最低でも能力値の平均が100はないと無理って言われてる狩り場だよね……」

「それが、どうしたっ……うお!?」


 急に放たれた足払いをジャンプで避けた、直後に再び爪が振るわれる。それを三つ又剣で受け止め、しかし勢いを殺せずに距離をおかれてしまう。


「しかも銀熊(シルバー・ベア)なんて相手に、なんで戦えてるの……」

「動きは比較的単純だからな。こっの、《火の矢(ファイア・アロー)》!」


 突き出された左手から放たれた小さな火矢は、しかしさほどダメージを与えることはない。

 目くらましにすらならないその魔法を、刃は何度も放っていく。


「《火の矢》! おいシュー、PT組んでこいつ抑えててくれ!」

「来て早々にいきなりねっ」


 片手で《火の矢》を放ちながら、刃は器用にシューへPT申請を飛ばす。

 若干怒りながらも申請を許諾したシューは、今にも刃に爪を当てようとしていた銀熊の爪を、一瞬で抜いた長剣で受け止める。

 そうして動きが止まった銀熊に、刃はしつこい程に《火の矢》を放ち続け、


「お、来た! 《炎の弾丸》っ」


 突如、それまでの小さな矢と違う、勢いがついた炎が放たれた。

 《炎の弾丸》――銀狐が牽制代わりによく使う魔法の一つで、文字通り大きめの炎が弾丸のように対象に飛び、燃え上がらせるものだ。

 PvPにおいてはほぼ避けることができない程の速度を誇るが、威力自体はそれほどでもない、いわば単体ではあまり意味がないものと言われている。

 そんな《炎の弾丸》を、しかし刃は何度も詠唱しては放っていく。


「刃、炎が怖いからそろそろトドメ刺していいかな!?」

「いいぞ……なぁんて言うとでも思ったか? まだだ、多分後少しっ」

「ひどっ!」


 刃に向かおうとする銀熊の爪を受け止め、流し、勢いをつけられないように距離を保ったまま、シューは周囲の状況を確認する。


 ――他に敵影はなし、刃は無傷で私も大したダメージはなし、と。


 バアルの時と違って冷静に状況を見ながら、銀熊の攻撃を確実に捌いていく。

 そして、


「あれ、予想外のもんが……ま、いっか」


 唐突に刃が手の平を無言のまま銀熊に向けた、と同時に《炎の弾丸》らしきものが放たれた。

 そのとき、刃がしまった、と顔を歪ませるがそれも遅く、魔法を受けた銀熊の体力がゼロになり、その姿を粒子に変えていった。


「ああ! まだ付与系スキル解放されてねぇのに!?」


 銀熊の残した毛皮を手に取りながら、刃はなんで発動ミスったよ、と嘆きながら心底残念そうに肩を落とした。

 そんな様子を見ながら、シューは何となく笑ってしまった。


「……なんだよ?」

「ううん、なんでもない。それよりも、昨日言ってた、行きたい場所ってここなの?」

「おう。この熊の森で会ってるぞ」


 そう言って、刃は三つ又剣を肩に担ぐ。


「まぁ要件としちゃ、なんだ……昨日のお前の様子を見てて心配になってさ」


 そう言って刃はそっぽを向いた。


「スノードラゴン相手にしてる時とかすっげぇ楽しそうだったのにさ、悪魔の森に挑み始めてからずっと辛そうにしてて……なんていうか、変に気負ってんじゃないかなって、思ったんだよ」

「それはまぁ……」


 わかるけれど、といった顔のシューに、刃は少しばつが悪そうに頭を掻いた。


「昔、ちょっとあってから、変に意識しちまうんだ。結果的にはおせっかいになっちまったみたいで、悪かったな」


 そう言う刃に、シューはなんとも言えないでいた。

 心配してくれてありがとう? 気にしないでいいよ?

 なんて返せばいいのだろう。

 黙り込んだシューを見て、刃はもう一度悪かったなと言いながら、頭を下げた。


「そ、そこまでしなくてもいいよ!」

「ん……でも見た感じ最初に戻ったみたいで、本当に良かった」


 そう言って顔を上げて笑った刃は、本当に嬉しそうだった。

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