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最弱のスキルマスター  作者: 白樺 希連音
出会いは赤と白
11/33

瓦解は一瞬

 半ば刃に引きずられるように走るシューを援護するように、テディ☆ベアが矢継ぎ早に魔法を放ち、銀狐が走り回りながら短剣を投げつける。


「ちっ、やっぱりこの程度じゃ止まらないかっ」

「任せろ。《歯車の壁》!」


 四人の中でもっとも遅いグラサンダーと比べてもさらに遅い刃に、バアルは一瞬で再生した舌を伸ばす。が、駆け出したグラサンダーの合掌と共に、刃の背後に出現した歯車がそれを防いだ。


「《アイアン・フィスト》ォ!」


 歯車が砕けたのを確認すると、彼はそのまま腰を落として正拳突きを放った。

 上、それとも下か?

 否、正面の虚空から鉄の拳が出現し、勢いよくバアルの体を吹き飛ばして距離を作る。


「ナイスよグラ! 《ミドルヒール》!」

「体力残り五割とちょっと……ギリギリ削れてくれるなよ! 《陽の光》、《影縫い》っ」


 テディ☆ベアがようやく合流したシューに回復魔法をかける横で、銀狐が杖を掲げた先から光の玉が飛び出て、まるで地上にいるかのように洞窟内を照らす。

 急な明るさの変化にバアルが目を瞑ると、銀狐は計八本もの短剣をバアルの影に投げつける。

 影の端を片っ端から地面に縫いとめるかのように、短剣は正確に刺さる、と同時に微量のダメージがバアルに与えられた。


「変化は……なし! 時間は少ししかないけど、充分でしょう。銀狐、しばらくお願いねっ」

「そっちも頼むぞ、テディっ」


 着地と同時にその場に留まり、銀狐は手の平を合わせてバアルの前に立つ。

 その様子を前線から離れた位置で見ながら、シューはようやく自分が引っ張られていたことに気づいた。


「は、離して! まだ私は戦えるよっ」

「あ、おいっ」


 そう言ってあっけなく刃の手を振りほどき、シューはバアルに向かって駆け出した。

 どうあがいても刃では追いつけない速度に、彼はテディ☆ベアたちを見るが、彼らはすでにシューに並ぼうと走っており、動いていないのは自分だけだと気づく。


「あー……こりゃダメだな。クソッ」


 悪態をつきながらも、刃はできる限り「勝つ」ための策を考える。


 ……銀狐ははっきり言って俺程度が心配するレベルじゃない。

 テディ☆ベアはシューと話をしようとして少し危なそうだけど、グラサンダーがなんとかするはずだ。

 で、シューは焦ってんのか状況把握ができていない、と。

 ならシューをメインで見るべき、なんだろなぁ。


 そんなことを思いながら、刃はできる限りの最高速で走る。

 目の前では、テディ☆ベアが耳に手を当て、がむしゃらに走るシューに音声通信(ボイスチャット)で何かを話しかけているのが見える。

 が、説得の時間は決して間に合わない。

 なぜならシューはテディ☆ベアや銀狐たちの制止を振り切って、そのままバアルに《スラッシュ》の連続攻撃を放っていたからだ。


『生贄どもが揃って調子に乗りよって……楽に殺してやろうと思っていたが、もう良い』


 バアルの体力バーが五割を下回った瞬間、洞窟内に暗い、霧のような瘴気が放たれた。

 ただでさえ付与魔法と、銀狐の使った《陽の光》による明かりでしか視界が確保できていなかったのが、光すら飲み込む闇に襲われ、何も見えなくなる。

 空間の変化にシューが驚く中、銀狐は舌打ちと共に大きく後ろに下がり、テディ☆ベアは《風壁》を放っていた。


「シュー殿、下がれっ」

「え?」


 グラサンダーが声を上げるがそれは少しばかり遅く、《風壁》が瘴気を払う音に混じって、鈍い打撃音が聞こえた。


「テディ! シューが見え次第もう一度回復!」

「え、あっ、了解!」


 シューの体力が六割ほど削られたのを視界端に見て、銀狐が先ほどの威力をおおよそ弾き出す。


 ――事前に聞いてたシューの防御力と体力的に六割だと……スノードラゴンとほぼ同じか。それにしても、遠くから見れば物理か魔法かわかるかと思ったが、そもそも暗くて見えないな!


「グラサンダー、全員の位置は?」

「把握している。もっとも、動いていなければの話だが」

「範囲内には?」

「入っていない」

「ならよし。じゃあいきますか。《陽の光》っ」

 瘴気が晴れた場所が、再び地上のように照らされる。

 それによって少しだけ見えたバアルの羽を見て、銀狐は薄く笑った。


「いくぜ……《光の爆発ライト・エクスプロージョン》!」


 その言葉に呼応するかのように光が瞬き、かと思えば縮小し、そして大きな爆発を巻き起こした。


 《光の爆発》はエフェクトが派手な割に、威力が低いことで有名な魔法だ。

 使いどころとしては不意打ちや、相手の光魔法に対する迎撃が主だと言われているが、爆風を利用して大きな風を巻き起こすこともできる。


 銀狐としては風魔法より有用だと思っており、現に《風壁》以上の威力を持って、瘴気を一気に払っている。

 そうして見えたシューは壁にめり込んではいるものの、壁から抜け出して、すぐにでも攻撃に入ろうとしていた。


「見えた! 《ミドルヒール》!」


 テディ☆ベアの魔法で全回復するものの、瘴気が一時的に払われて見えたバアルは、すでに何かの攻撃準備に入っている。


「もう一回っ」


 それを確認したテディ☆ベアが再び魔法を使う準備をした、と思った瞬間だった。


【Your Dead】

『……え?』

 何かに貫かれたテディ☆ベアの視界が若干暗くなると同時に、文字が現れていた。


「一撃だと!?」


 驚くグラサンダーとは対照的に、銀狐は何かを確信したように唸った。


回復役(ヒーラー)狙い、ってか。チッ、前回の回復役四人の場合の差を考えるなら、回復量が高いやつが狙い目か?」


 そう言いながら、銀狐はグラサンダーに駆け寄る。


「グラサンダー! 《歯車の壁》をオレの周囲に展開! シュー、お前が攻撃役(アタッカー)をやれっ」

「応っ」

「言われなくても!」


 歯車の壁に囲まれたのを確認し、銀狐はバアルとシューがいると思われる方向を見る。


「これで見えるとありがたいんだけどな……《暗視(ナイト・ビジョン)》っ」


 ――さてどうなるか……っと。


 そうして少しずつ銀狐の視界に見える闇が薄くなっていくと、バアルの舌を避けつつ、《スラッシュ》でダメージを与え続けていくシューが見えた。


 ――たまに舌の一撃が入るけどダメージは微量。それよりも、何もしてない時ですらダメージを受けているのは……まさか。


「シュー、一旦バアルから離れろ!」

「なんで!」

「回復だ、急げっ」


 悔しそうに飛び退いたシューを舌が掠める。が、それでも距離をとった途端に体力の減りがなくなった。


「予想通りか……《ミド――》!?」


 シューの体力を回復しようとした瞬間、銀狐は鋭い殺気のようなものを感じた。

 詠唱を中断し、間髪入れずに飛び退くと同時に、銀狐は何かに貫かれた。


 ――《歯車の壁》をすり抜けた……ってことは魔法か。それでいて飛び退くことで威力減衰、オレは生き残っていることから即死攻撃じゃないっ。


 そう思い、銀狐は貫かれた勢いに任せて後方に退く。

 そしてバアルから充分に離れた位置で自身に《ミドルヒール》を発動させる。


 ――回復魔法に対する反応範囲は最大でもおおよそ五十メートル未満。《ミドルヒール》が射程二十メートルほどが限界。だったら後方支援に徹する人間は、最低でも魔法攻撃に対する対策が必須か。


 そこまで思考し、銀狐は体を動かそうとして気づいた。

 体が、重い。

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