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ご学友と書いて腐れ縁と読む。

ご学友と書いて腐れ縁と読む。~エリック=ノーティスの苦労な日々~

作者: 大鳥 俊

コメディーのつもりですが、軽く殴ったりするシーンがあります。

苦手な方はご注意ください。







 俺はマジで目の前の二人を殴ってやろうかと思った。

 一人はご令嬢達から「青の貴公子」と呼ばれている口減らずのジェフリーと、もう一人は可憐な容姿とは裏腹の、歩く毒舌令嬢のパトリシア。

 二人は揃って「ニヤリ」と口角を上げて悪そうな笑みを浮かべている。



「だって、なあ?」

「そうですわ、リック」



 二人して顔を見合わせ、俺をからかってやがる。

 いつも悪ふざけが過ぎる奴らだが、今回は俺だって許せない。



「……二人して、俺を騙したのか?」



 低くドスの利いた声で言うと、二人はあっけらかんとした表情を浮かべ笑った。



「騙したなんて人聞きの悪い! ちゃんと、うまくいっただろ? なあ? パティ?」

「ジェフの言う通りですわ。感謝される事はあっても、そんな怖い顔される覚えはなくってよ」

「話を逸らすな! 俺は、あの薬について言っている!」



 俺が怒鳴ると二人は顔を見合わせ、そして、



「あれはただの酒だ」

「あれはお酒ですわ」



 と、悪びれることなく言い放ちやがった。






 事の初めは一週間ほど前。

 俺は悩んでいた。

 与えられた執務をなんとかこなしつつも、身が入らない日々が続き、側近に心配される始末。

 自分自身その原因も分かっていて、でも、解消できずにいる不甲斐なさ。

 そんな心境で窓の外を見ては溜息をついていた。


 外は雲一つない晴天。澄んだ青空が広がっており、俺はその色を見て彼女を思い出す。


 セレスティア。


 青空に愛されたような澄んだ水色の髪に、新緑のような淡い、それでいて活力にあふれるグリーンの瞳。背丈は女性にしては高く、すらっとしている。

 柔らかなイメージのあるドレスより、身体のラインが出る様なシュッとしたドレスが良く似合い、その細い腕で、巨漢を投げ飛ばす……。


 ……失礼。

 先日その場面を見てしまったので、それを思い出してしまった。


 まあ、そんな彼女は儚げで大人しそうな深窓の令嬢とは真逆であり、その職業は女性騎士であった。

 

 彼女を彩る青を思えば冷静で物静かなイメージがつくかもしれないが、俺が思う彼女のイメージカラーは赤。

 口は悪いし、すぐ手が出る、怒る時は烈火のごとく。

 仕事は熱心で、真面目で、でも本当は少し泣き虫で。

 強がって人前で泣く事なんてほとんどないのに、昔俺の前で見せた涙が可愛くて、忘れられなくて、今も、時々思い出す。



 俺はセレスティアが好きだった。



 きっと彼女の事を本当に理解しているのは俺だけ。

 あの二人(・・・・)も、知らない……と、いいな。



 そんな中、(うわさ)を耳にした。



 セレスティアに縁談の話がある。と、いう噂を。

 彼女自身に想いを寄せている男性がいるという話は聞いた事がない。

 合わせて、彼女はそういった話にまるで興味を示さない。

 性格がドライというか、サバサバしているというか。

 令嬢達が好むような恋愛話を、欠伸を噛み殺しながら聞く様なタイプなのだ。

 だからこそ、危機感を覚えた。


 縁談の相手というのは、近衛騎士の団長だったのだ。


 セレスティアの家系は代々騎士で、父親も先代の騎士団長で母親も女性騎士であり、部隊長を任される程の腕前だったとか。

 だからセレスティアの相手も必然的に騎士の可能性が大きく、今回の縁談相手はまさに適任といったところなのだ。



 結婚も必要ならする。



 世の中には政略結婚なんてよくある話で、その夫婦に気持ちがない時だって多い。

 恋愛話に興味がないセレスティアが、そういう選択をする可能性は捨てきれなかった。


 当然俺は、大反対。


 いつかセレスと……と、思っていたのに、いきなり自分とこの騎士に(さら)われるなんて冗談じゃない。



 ただ、俺は……勇気がなかった。

 いつも四人で一緒にいたのに、俺だけがそういう風に見ていたと彼女に知られたら。



 笑って断られたら。――俺も冗談だと笑えばいいのだろうか。

 困った顔をされたら。――……立ち直れない。



 何れにしろ、行動を起こしたら今まで通りでいられなくなる。


 その事実が、どうしても踏ん切りがつかなかった原因だ。


 噂を聞いて、ここ数日。

 俺は明らかの弱っていて、そこで……魔が差してしまった。




「珍しいな、リックが酒を用意して俺らを呼ぶなんて」

「ホントですわ。まさか、リックのくせに何か企んでますの?」



『アスタシア産のいい酒が入った』


 そう言って呼びだしたのは、ジェフリーとパトリシア。

 この二人とセレスティア、そして俺はご学友という名の腐れ縁同士だ。

 セレスティアの事を自分と同じぐらいよく知っていて、同時に俺の事も理解してくれている……と、思う。

 俺にはこういった事(・・・・・・)を相談出来そうな友人がこの二人以外に浮かばなかった。


「……あれ、セレスはどうした?」

「セレスが最後に来るのは珍しいですわね」


 いつも四人……なので、当然セレスティアも来ると思っている二人はそう言った。

 そこで俺は、今日セレスティアを呼んでいない事を告げる。

 二人は驚いた顔をしながら、「後でセレスが怒るぞ」「そうですわ、仲間外れなんて」と、口々に言ったが、今日はどうしても彼女を呼ぶわけにはいかなかった。

 俺が神妙な面持ちで黙り込んでいると、二人は顔を見合わせこれ以上責めてこなかった。



「相談が……ある」



 そう切り出した過去の自分に、目を覚ませ! と言ってやりたい。

 ただそんな声など届くはずもなく、俺はセレスティアへの想いを二人に相談した。


 二人はいつになく真剣に聞いてくれていた。


 と、少なくともその時はそう感じた。だから、安心しきっていたのだ。


 俺の話を聞いた二人は考え込み、「告白しろ」と(うなが)してくる。

 そう言われるのは半ばわかっていたのだが、俺は「それが出来たら相談してない」と、なんとも情けない言葉を二人に返す。


 するとジェフリーが助け舟を出してきた。

 いい物があると言ってポケットから何かを取りだした。


 それは茶色の小瓶だった。


 大きさは手のひらにすっぽり収まるほど小さく、その注ぎ口にはリボンが付けられている。

 小瓶にはラベルらしきものはなく、何かの試薬かと思われた。


 なんだそれは。


 そう訊ねる前にジェフリーが「これは正直になれる物だ」と、言った。

 最初、俺が嘘をついていると言うのかと怒ったが、ジェフリーが慌てて違うと言ってくる。



「お前は普段自分の感情を押さえて生活しているだろ?」



 確かにそうだ。

 俺は普段感情を表に出さない様に努力している。

 それはこの国の王子である自分の立場上、仕方のない事だ。


 ただ、それをジェフリーは「もっと正直になれ」と、言う。



「せめて、セレスへの想いだけは許されるんじゃないか」

「そうですわリック。あなたは、十分務めを果たしているわ」



 ジェフリーとパトリシアの言葉に不覚にも感動した。

 こんな風に俺を見てくれているなんて思いもしなかったから。



…………いや、幻想なんだよな。やっぱり。



 どう思い起こしても、胡散臭すぎる。どうして、俺はこいつらの悪だくみに気付かなかったのだろうか。こいつらとの付き合いを考えれば、親切な時ほど何か企んでいるのは定石だったはずなのに。


 かくして俺は二人の言葉を信じ切って、すぐさまセレスティアをこの場に呼んだのだ。






 しばらくして現れたセレスティアは自分が皆より遅い事に驚き「お待たせ」と、言った。

 呼んでからすぐに来てくれたのだろう、今日の彼女は軽装だった。

 

 真っ白なシャツに、黒のスラックス。

 腰まで伸びる水色の髪は後頭部で団子のように結われており、その先端が白いうなじへと垂れる。

 まるで男装の麗人のような姿だが、それも良く似合うのでいいと思った。


 今から剣術の稽古をするところだった。


 この格好の理由は、そういう事らしい。


 ついセレスティアに見惚れていると、彼女が俺の視線に気付きこっちを見た。

 思わず恥ずかしくなって、顔をそむける。

 子供か! と、言われそうだが、こういう反応は何も子供だけの特権ではない! と、声高々に言ってやりたい。


 そんな言い訳がましい事を考えていると、セレスティアは俺の隣に腰かける。

 もちろん席がそこしか空いてなかったのだが、そんな事は関係なく嬉しかった。


 ただ、同時に緊張した。


 以前にも増して美しくなったセレスティア。

 最近は直視できなくなり、折角こちらを見てくれても先程のように顔をそむけてしまう。

 話をしていても、顔をあまり見る事も出来ず俺が見るセレスティアは横顔ばかり。


 気付くと俺はセレスティアから距離を少し開けていた。

 近くにいると彼女のさわやかな香りで、自分の考えが見透かされそうな気がして怖かった。


 さっぱり、はっきりとした彼女と、ごちゃごちゃと考えて、そして思い悩むという俺。


 どちらが乙女なのかと聞かれたら……正直自信がなくなる。

 ……っとまあ、これがいけない事もわかってはいるのだが。



 俺は意を決して席を外した。

 それは二人に対して、始めてくれ、の合図でもあった。

 自分が戻った時に例の薬が入った酒が席に置かれている予定だ。


 手順は二人に任せてある。

 俺はあとその薬を飲むだけ……。

 そう思い、情けないと、心底思った。


 俺はそんな薬の力を借りないと、好きな女性に愛を伝える事もできないのかと。

 受け入られるかどうかはわからない。

 もし断られたら、今まで通りでいられるかもわからない。

 でも、俺は今日彼女に想いを伝える。そう、決めた。

 決めたからには必ず実行する。

 例え、それが情けない方法(・・・・・・)だとしても。



 俺は部屋に戻り、席につく。

 チラリとセレスティアを盗み見て、また彼女に気付かれる。

 慌てて視線をそらし……こんな事をするのは、今日までだと自分に言い聞かせた。


 いつもよりセレスティアとの距離が近い――


 そう感じて俺は少し離れる。

 今から取る行動を考えると緊張して側にいられない。

 すると、彼女の方から間を詰めてきた。

 折角離れたのに。そう思ったが、その事実が嬉しい。


 ふと、床をみると彼女の手があった。

 自分が手を伸ばせば、すぐに届く場所に。

 大人になってからは触れる事さえ躊躇われたその手は、白くてしなやかだった。

 剣を握るのに手入れは欠かしていない。

 そんな柔らかそうな手に思わずそっと自分の手を重ねた。


 細くて長い指に吸いつく様な柔らかい肌。

 その手は繋がなくなってから久しい、愛する女性の手。

 彼女が俺の手に気が付き、視線を下へと落とした。


 もう後には引けない。


 俺はゆっくりと彼女の手を握りしめる。

 正面に座るジェフリーとパトリシアを見て、そして、空のグラス(・・・・・)を倒した。


 彼女が顔を上げる。


 少し驚いたような顔で目を丸くし、こちらを見つめてくる彼女は可愛かった。

 目を逸らすな、彼女から視線を外すなんてもったいない――


 俺は自分に言い聞かせ、彼女を見つめた。

 顔が熱くて心臓は早鐘のように鳴り続ける。

 だけど、大丈夫(・・・)

 

 俺は両腕を広げ叫ぶ。



「好きだ!! セレス!」



 そう叫んで力の限りセレスティアを抱きしめた。

 俺は薬を飲んだ(・・・・・)。そう飲んだ、だから大丈夫。


 まるで事実のように自分に言い聞かせる。

 酒の勢いもあってか、思った以上に大胆に想いを告げる事ができ、満足する。


 彼女は少し首を動かしたようだが、腕の中から逃げようとはしない。

 その事実に俺は酔い、ふわりと香る柑橘系の香りがこの時ばかりは甘く感じた。



 ……が、それは一瞬で吹っ飛んだ。



 それは比喩(ひゆ)とかではなく本当に。


 次の瞬間には俺はあらぬ力でセレスティアから引き離され、宙を舞った。

 その時、足が机に引っ掛かりグラスや酒も一緒に舞う。



「ごめんですむかっああ!!」

「パティ! リックより酒だ! 酒を床に落とすなぁ!!」

「無論ですわ!!」



 セレスティアの叫びと、俺より酒を心配するジェフリーとパトリシア。

 酷すぎやしないか。そう思うが、無類の酒好きなのでしょうがないか。と、ここまで考える自分の冷静さがにくい。

 ただ今の俺に冷静さはいらない。


 俺はすくっと身を起こし、肩で息をしているセレスティアを後ろから抱きしめた。

 普段の自分からは想像もできない甘い声で囁く。


 慌てるセレスティアが可愛い。


 何かのスイッチが入ってしまったように俺は甘い囁きを続け、彼女の耳にそっとキスをする。



 ……足元をすくわれた。



 そう気付いた時には、俺はまたもや吹っ飛ばされていた。ただ、受け身を取る余裕はあったので、ちゃんとそこは準備をする。


 二人の声が「「酒!」」とハモり、セレスティアは「うるさい!!」と、怒鳴った。


 もう、セレスティアが何をしていても可愛かった。

 俺はもう一度セレスティアに好きだと伝え、手を伸ばす。

 

 しかし、その手は掴まれる事はなく。

 彼女は脱兎のごとく部屋から逃げ出したのだ。




 後はあまり思い出したくない日々が続いた。

 俺は薬を飲んだつもりで、セレスティアに愛を囁き、そして殴られる。

 薬を飲んだつもりで愛を囁くなんて情けないと思うが、本当に薬の力に頼るよりはきっとマシ。そう、自分に言い聞かせつつ、それが五十歩百歩だと心のどこかで気付いていた。

 

 こんな風に言い寄っても、セレスティアの心は動かない。

 

 おフザケの延長だと思われているのか、全く相手にしてもらえないのがいい証拠。


 日に日に俺を見る彼女の表情がうんざりとした、面倒くさそうなものに変わってゆく。

 その様子を見て、やっぱり駄目なのか。と、心が折れそうになる。

 でも俺は諦めきれずに彼女に言い寄った。



 そして六日目。

 今日は隣国からの訪問があり、その相手をする為セレスティアのところへは行けない。

 その事実にホッとした自分がいた。

 彼女をうんざりさせなくて済む。そう思ったのか、彼女のうんざりした表情を見て、自分が傷つかなくて済む。こう思ったのか、もう解らなかった。



 もう、止めよう。



 あと一日……あと一日だけ、想いを伝えて断られたら。

 その後どうすれば……なんて、その時の俺には何も考えられなかった。



 最後にしようと決めた七日目。


 俺はセレスティアの元へ向かった。途中、何故かジェフリーとパトリシアに会い三人で向かう事にした。

 道中元気がないのがバレたのか「今日もちゃんと好きだと伝えろよ」と、ジェフリーに言われる。

 わかってる。そう答えた声に覇気(はき)がないのが伝わったのかパトリシアに「あら、リックの想いはそんなものだったの?」と、(あお)られすぐさま「違う!」と、語気を強める。


 そんな俺をニヤニヤ笑いながら眺める二人。


 そろそろ気付けよ俺。そう過去の俺に言ってやりたいが、やはりその願いは届かない。



「セレス! 会いたかった!」



 俺の言葉にセレスティアは「はいはい」と返事をする。

 やはり俺の相手は面倒のようでそれ以上の言葉はない。

 好きだと伝えても、答えは「はいはい」。

 その態度につい「どうして、いつも『はいはい』なんだ!!」と、声を荒げてみたが、やっぱり答えは「はいはい」。


 もう限界だった。

 相手にしてもらえないのがこんなに辛くて、苦しいものだなんて思いもしなかった。



 自業自得。

 そんな言葉が頭を(よぎ)る。

 これは薬の力を借りて想いを伝えようとした罰なのだ。

 どんなにカッコが悪くても、自分の力で言うべき愛の言葉を薬のせいにして(つむ)いだ罰。

 こんな言葉じゃ、セレスティアの心に届くはずがない……。



 俺は情けない気持ちで一杯になりながら、最後にもう一度だけ――――

 そう思って「…………セレス、結婚して」と、小さな声で言った。


 ホントに情けない声だったと思う。誰の耳にも届かず、そのまま消えてしまう様な声。

 でも、臆病な俺はそれ以上の声を上げる事も出来ず、ただ独り言のように呟いた。


 しかし。



「はいはい」



 俺は思わず顔を上げ、セレスティアを凝視した。

 気のせい……じゃなければ、今、セレスティアは俺の求婚を……

 そう思ったら体内の液体が沸騰したかの様に熱くなった。


 いや、冷静になれ俺。


 セレスティアはいつもの通り「はいはい」と、言っただけで、俺の声なんて聞こえていないのかもしれない。だから、もう一度だけ。



「セレス……あの、結婚して?」



 今度は聞こえると思われる声が出せた。

 ただ、情けない求婚である事には変わりないのだが。

 しかし、そんな事はセレスティアから発せられた「はいはい、いいよ」と、いう言葉で完全に頭から吹っ飛んでいた。



 側にいたジェフリーやパトリシアが何か言っていたが、聞こえたセレスティアの声で我に返る。

 一声叫んだ後、セレスティアの瞳から涙が零れた。



「は? な、なんで泣くんだよセレス……」

「泣いてない。ゴミに決まってる」

「おい、リック。セレスを泣かせるなんて、お前も命知らずだな」

「セレス、ちゃんとお代は頂くのよ。それで三人で飲みに行きましょう」

「わかった。三人で行こう」

「…………なんで、俺は仲間外れなんだ?」



 そんな事をしゃべりながら、俺はセレスティアを盗み見る。

 泣いているのはゴミのせいというけれど、本当にそうなのか?

 ジェフリーやパトリシアの言う通り、俺は君を泣かせるような事を言ったのか?

 答えはまだ聞いていない。

 だって――――








「ホントに、三人で飲みに行くかなっ!」



 俺はその後、本当に置いてけぼりを食らったのだ。






 そして、俺はマジで目の前の二人を殴ってやろうかと思った。

 こいつらは俺に見せた茶色の小瓶に、薬なんて入っていなかった事を笑いながら白状したのだ。



「だって、いくらリックと言えど王族に薬を盛るなんて恐れ多い」



 恐れ多いなんてジェフリー(こいつ)の口から出れば慇懃無礼(いんぎんぶれい)という言葉を知っているかと聞いてやりたい。



「リックは一度決めたら必ずやる男。だから、背中を押すだけで十分ですわ」



 現に薬なんていらなかったじゃないと、笑うのはパトリシア。

 一見褒められているように見えるが、本心は「決めるまでが面倒なリック」と、言っているのが分かる。


「大体、ラベルも貼らずに何の酒を入れて持ち歩いていたんだ……」


 冷静に考えれば、その時点ですでにおかしい。

 何かを企んでいたのは間違いなかった。しかし。



「酒好きは、いつでも酒と共にだからな」

「そうね、ジェフリーなら持ち歩いていてもおかしくないわ」

「はっ! 何言ってやがるパティ、お前だってそのドレスの中に隠してんだろ!」

「まあ、レディの秘密を暴こうなんて下種のする事ですわ」



 話がズレて何故そんな物を持ち歩いていたか結局わからない。

 ただ俺自身も初めに(いだ)いた怒りがだんだん呆れというか、いつもの事か。と考えるようになり、結局、済んだ事だからまあいいか。と、思うようになっていた。 


 俺は二人の言い合いを眺めながらそう考え、次第にどっちが言い負かすのかという事に興味が移っていった。

 口減らずと毒舌。

 両者の勝負は気になるところだ。

 


「なあ、リック。お前今日はセレスのとこ行かないのか?」

「そうよ。あんなにしつこくプロポーズしておいて、OKが出たら次の日から放置ですの?」

「い、いや、そう言う訳では……」

「だったら、もう行けよ! 俺らは、テキトーに飲んで帰るから!」

「いい案だわジェフ。さあ、早くお行きなさいリック」

「…………ってか、ここ俺の部屋だって忘れてないかお前ら……」



 俺のご学友はこんなのばっかりだ。

 王子である俺に何の遠慮もなくズケズケと物を言うこいつらは多分親友なのだろう。

 人の部屋で酒を飲み散らかすこいつらは、昔っから変わらない。

 ただ、少し変わった事といえば俺とセレスティアが一応婚約状態にあるということだろうか?


 それでも、俺たちの根幹は変わらない。


 ジェフリーやパトリシアが誰かを好きになって、その相手を大切にしたとしても。

 きっとかわらず、その相手も巻き込んでこんな事をやるに違いない。



「……って、パティ!! それはダメだ! 今度セレスと飲むつもりの――――」

「まあ、王子のくせにケチですわね。そんな度量が狭くてはセレスに愛想をつかされますわよ」

「じゃあ、変わりにコレのしようぜ、パティ!」

「あ、そっちの方がいい物じゃない! よくやったわジェフ!」

「お、おい待て!! それは、大事に取っておいた――――……」



 前言撤回!

 こいつらは親友なんかじゃなくて、ただの腐れ縁!

 人の部屋で秘蔵のワインを開けるなんてありえない。



「いいかげんにしろ! もう帰れってば!!」

「いやよ、折角開けたのに」

「そうだぜ、リック。お前も飲むか?」

「馬鹿言え!! それは、初めっから俺のだ!!」



 今日も俺は腐れ縁どもを怒り散らす。

 その怒りが続くのはパトリシアに呼ばれたセレスティアがこの部屋に入ってくるその時まで――――






ご学友シリーズ? 第二弾です!

第一弾から時間が空いてしまい、お待ちいただいている読者様がいらっしゃるのか正直不安でしたが、少しでもお楽しみいただければ幸いです(*^_^*)


第三段もキャラを変えて(又は、その後の二人)など、書きたいと考えておりますので、お時間がありましたらよろしくお願いいたします!


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