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― 瑠璃子 ―

※注意※

この小説には、イジメ・身体的な暴力・差別の表現があります。

閲覧する際には充分注意し、問題ない方のみ進んでください。


  和弘は私の初恋の人だった。彼は文武両道で容姿端麗という理想を絵にかいたような人物で老若男女問わず人を引きつけ、周りにはいつも沢山の人がいた。もちろん私も彼の魅力に惹かれた一人だったが、引っ込み思案な私は彼に話しかけることなんてとても出来るはずもなく、遠くから彼を眺めているだけで毎日満足していた。



  ある日の放課後。忘れ物をした私が教室へ行くと和弘と取り巻きの女の子が数人残っていた。


「なんだ、藤野忘れものか?」


  まさか和弘に話しかけられるとは。予想外の出来事に私は肩をビクリッと震わせた。


「あ、うん…」


  取り巻きの女の子たちの視線が痛い。私はさっさと目的を済ませて教室を出ることにした。


「ねぇ、藤野さん」


  和弘と話をしていた取り巻きが話しかけてきた。


「藤野さんてハーフなの?目が青いよね~」


「あら、お父さんが外国の方なんでしょう?どこの方か分からないみたいだけど」


「そうなんだ、ところで黒髪に青って…何だかチグハグね」


  取り巻きは可愛らしい声でとんでもない毒を吐き何が可笑しいのかクスクスと笑う。この目は外国人の父と同じらしいというのは母から聞いていた(らしいというのは私が亡くなった父の顔を覚えていない上に、写真なども残っていないからである)。その事で今までからかわれたりイジメられたので、当時の私は青い目を隠すために前髪長めのもっさりとした黒髪にしてなるべく目立たないようにしていた。


「その前髪鬱陶しいでしょう?私が切ってあげるわよ~?」


「それ名案ね、ばっさり切りましょう。あぁ、失敗したらごめんね?」


  取り巻きは嘲りの視線を私に向ける。その中の一人がハサミを取り出して近づいて来た。


「お願い…やめて」


「遠慮しないで。ホラッこっちに来なさいよ!」


「いやっ」


  取り巻きの二人が私の両脇を抑える。私は唇を噛んだ。



ザクッ!ザクザクッ!



  無情な音と共に黒髪が床に散らばる。前髪だけでなく後ろ髪まで不揃いになり見るも無残な状態となってしまった。


「良かったわね!これでよく前が見えるようになったでしょう?」


「素敵よ藤野さん!…ねぇ、和弘もそう思うでしょう?」


  取り巻きが和弘を見る。彼は眉間に皺を寄せて彼女達と同じ視線を私に向けていた。


「…何だか余計変になってないか?」


「―――――っ」


  居たたまれなくなった私は教室から飛び出した。



  あの日以来和弘は私と目が合ってもフイと逸らすようになった。大好きな彼に嫌われてしまった。その事が世界の終わりのように思えた私は、和弘と同じ教室同じ学校に居るのが辛くなり遂に転校することになった。失恋ぐらいで大袈裟と思われるかもしれないが、当時の私には恋愛相談出来るような友人なんて居るはずもなく、親はあの有様だったのでどうしようもなかったのだ。環境は変わったが、やはり同じような事はどこでも起こるらしく、私は再びイジメを受けた。だが好きな人が居ないということだけが、ほんの少しマシに思えた。




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