表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/92

第四十八話

ここは……どこだろう。まるで綿で包まれたように一面真っ白な世界、その中心には遥か高く何処までも続いてそうな桜の大樹。

唐突に思い出した。


「………私、死んじゃったのかなぁ………」


呟きは誰の元へも届かずに消えた。あの小学生は無事だったかとかケーキ絶対崩れちゃったとか………陽さん、何してるかなとか。あ〜もう、頭の中に浮かぶのは陽さんの顔ばかり。普段のクールな顔とか、たまに笑うときの可愛い顔とか、めちゃくちゃたまに怒った時の顔とか……エトセトラ。

いつの間にか私の眼には涙が。


「………陽さんに……逢いたいよぉ………」


うずくまりながらすすり泣いていると不意に何かの気配がした。


「………中元……………咲羅さんよね?」



『第四十八話:愛する人への想い side S』



顔を上げてみると真っ白なワンピースを着た綺麗な人が立っていた。誰だろう………どこかで逢ったことがあるような………


「はじめまして……じゃないけどこうして話をするのは初めてね。まぁあの時は私が寝てたからしょうがないけど。」


クスクス笑いながらこちらに来る。腰まで伸びた黒髪がとても綺麗だった。

私は思い出していた。この人の事を。


「………唯……さん……?」

「せいかーい。」


唯さんは私の隣に座った。私はどうしたらいいかわからずに戸惑っていた。


「どうしたの?そんなにビクビクしちゃって。」

「えっと………だって……その……私……」

「?……ああ、陽と付き合ってるから?」


言われた瞬間にビクッと心臓が跳ねた気がした。


「そんなに元カノと話すのは嫌なの?」

「だって……元カノって言っても……別れたわけじゃないし……」

「まぁそうだけど……まさか私が『このドロボウ猫め!!』ってキレるって思ってるの?」

「いや、流石にドロボウ猫は考えてなかったですけど。」

「大丈夫よ。別に怒ったりしてないわ。むしろ感謝してる。」

「………え?」

「もしあのまま貴方と出逢わなくて、あのままの陽だったら私が困るもの。なんか私が陽を縛ってるみたいじゃない?」

「いや、でも陽さんは……」

「私は陽が幸せなら構わないのよ。でもあのままだったら確実に不幸になるもの。」

「………」

「それにしても……」


唯さんは私の顔とか体とか隅々まで見ている。


「………確かに陽が好きそうな子だわ。よく陽を落とせたわね、私も苦労したのに。」

「私もめちゃくちゃ苦労しました。」

「アイツ恋愛だけは苦手だったのよねぇ。」

「ホント、他の事は何でも出来るのに。」


どちらからでもなく、笑いがこみあげてきた。気付けば二人して笑っていた。唯さんって凄くいい人だなぁ。でも私が同じ立場ならやっぱり陽さんの幸せを祈ってると思う。たとえ私と幸せにならなくてもね。






「ところで……ここはどこですか?」

「ここ?う〜ん、説明が難しいわね。」


ちょっと考え込む唯さん。


「………まぁすごく簡単に言ったら普通の世界と死んだ後の世界の『間』くらいかな?」

「『間』……ですか。じゃあ私も……」

「……大丈夫、貴方は死なせないわ。」

「………え?」

「私ね、実はそこまで長くなかったの。もって5、6年くらいだったわ。でも……」


一呼吸置いてから唯さんはまた喋りだす。


「これからは貴方の中で生きることにするわ。」

「?」

「フフッ、今はわからなくてもいいわ。それとね……」

「なんですか?」

「……陽をよろしくね。」

「………はい。」

「うん、じゃあお別れね。」


すると空からガラスの階段がゆっくりと私の目の前に降りてきた。


「行ってらっしゃい。」

「え……でも唯さん……」

「定員は一名よ。ほら、愛しい彼が待ってるわよ。」

「………はい。」


私は階段を駆け上がる。どこまでも続く階段を。






やれやれ、やっと行ったか。全く世話がやけるわ。咲羅が駆け上がった階段は徐々に消える。私は駆けだしたい衝動を抑えた。


『中谷さん、中谷唯さん。そろそろ戻ってきて頂けませんか?』

「はいはい、今戻りますよ。」



「咲羅ちゃん………陽……元気でね。直ぐに私も生まれ変わるから。」



先程までの真っ白な空間には誰もいなくなり、桜の大樹だけが静かに揺れていた。

次回、最終回です。明日の午後に更新予定ですので最後までお付き合い願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ