第四十六話 其ノ一
……ここは、どこだ?どこまでも果てしなく続く一本道。道の両側には満開の桜が花びらを散らしている。
突然目の前に人が現れた。
――親父、お袋………
二人はそのまま果てしない道を進んで行く。俺とは反対側に。動こうとしても動けない。段々と離れて行く二人。
――唯……
唯もまた突然現れ、そして親父達と同じ道を辿る。動けない、そして声も出ない。最悪の状態で現れた人は………
――…咲……羅……
咲羅は少し悲しそうな表情を見せ、徐々に、徐々に離れてゆく。
――やめてくれ!!行かないでくれ!!………咲羅ー!!
『第四十六話:悪夢 side Y』
目が覚めたのは深夜だった。体中が汗で服を湿らせていた。
春になるとよく見る悪夢。それはいつも俺を奈落の底へ突き飛ばすもの。今日は今までで一番苦しかったかもしれない。
咲羅を失う?……そんなことあるはずがない!!俺は頭を振ってイメージを振り払い、またベッドに倒れこむ。しかし考えようとしないほどに悪夢は徐々に俺の中で膨らみ続けた。
「大丈夫ですか?」
登校中に咲羅が心配そうな顔をして尋ねる。
「………ああ。」
「そうですか?顔色悪いですよ。」
「………寝不足、かな。」
「一人で寝れないなら私と寝ますか?」
「………エロいな。」
「なっ!!そういう事を言う陽さんがエロいんでしょ!!」
プンスカ言いながら怒る咲羅。………大丈夫、悪夢なんてもう起きないさ。俺は自分に言い聞かせながら、先に行こうとしてる咲羅の後を追った。
「おはよー、よー。」
「……久しぶりにつまらない挨拶をしたな、翔太郎。」
「翔太郎君……ドンマイ。」
「さっ、咲羅ちゃん!!そんな『あの人痛いよね〜』みたいな目で見ないでくれよ!!」
「実際痛いし。」
「栞まで……結局俺はやられ役かよ!!」
自分でもわかってるくせに……と思いながら俺達は学校へ向かう。
「あっ、陽さん。」
「……どうした?」
「今日は私用事がありますから先に帰ってて下さい。」
「………用事?何の?」
「フフフ、秘密で〜す。」
「………浮気?」
「んなわけないでしょ!!と言うわけだから、よろしく!!晩御飯の材料もついでに買いに行きますからちゃんと待ってて下さいよ!!」
「………はいよ。」
言うだけ言ってまた校舎まで走って行く咲羅。……元気だな。
学校が終わってから店の開店の準備をしていると絵美が来た。絵美はさっそく制服に着替えてテーブルを拭いたり砂糖を追加したりしている。
「………なぁ。」
「はい?」
「………咲羅の用事って知ってる?」
すると絵美はニヤニヤし始めた。
「気になる?気になる?」
「………別に。」
「ホントは気になってるくせに〜。」
痛い所を突いてくるな。
「知ってますよ。」
「………何?」
「やっぱり気になるんだ。」
「………すいません。」
「でも秘密〜。帰って来てからのお楽しみってやつですね。」
「こんちわー!!」
続いて綾子が入ってきた。
「何何?何の話?」
「聞いてよ綾子。陽さんってめっちゃ咲羅ラブなんだよ。」
「………別に。」
「赤くなってますよ、陽さん。」
「……いいから着替えてこい!!」
「は〜い。」
………俺の立場も弱くなったな。
そろそろ店を片付ける時間なんだが……咲羅はまだ帰ってこない。
「………遅いな。」
「準備に時間がかかってるのかな?」
「………準備?」
綾子の呟きを聞き逃さなかった。
「べっ、別に何でもないですよ!!」
「………知ってるな。」
「なっ、なんにも知りませんからね!!」
「………誠治の好きなものでも教えようかな……」
「せ、誠治さんの?」
「綾子!!甘い誘惑にかかっちゃ駄目よ!!」
「………え〜と、愁の好きなのは……」
「うっ、……恐るべし、佐倉陽。」
「………さぁどうする?」
大分悩んでいるようだ。
「しっ、仕方がない。背に腹はかえられないし……」
「言っちゃうか?」
二人で内緒話をしているつもりだろうが丸聞こえだ。意を決したように振り返り、深呼吸をする。
「咲羅には、私達が言ったって内緒にして下さいよ。」
「………ああ。」
「実は………」
ジリリリリ、ジリリリリ……
会話の途中で電話が鳴り響く。話を聞きたいが仕方がない、電話に出る。
「………咲羅が……事故に………?」