第四十四話 其ノ一
土曜日更新かなり遅れそうですが(てか今遅れてますが)やりたいと思います。一応本日中にやりたいと思いますのでお付き合い願います。
これは散歩と言う名の拉致ではないのか?俺の浴衣の袖を握りながら上機嫌で歩く咲羅。笑顔を振り撒くその姿は……まぁ……可愛いのだが……。
「陽さん陽さん、あっちで何かやってるよ!!」
確かに少し遠くで光る何かがある。咲羅のペースに合わせながら、というか無理矢理合わせられながら進んで行く。
『第四十四話:温泉旅行と各々の想い 其ノ六 side Y』
「……縁……日?」
縁日といえば夏のものだと思っていた俺には少し驚かされた。でもここでは毎月一回はやってるらしい。
「じゃあ……射的やろっ!!」
「………またか。」
射的は文化祭の時に嫌というほどやったのだが……
「陽さん、あれ取って下さい。」
咲羅が指差した場所には……嘘だろ?あの時の恐怖が再び俺を襲う。巨大ヌイグルミ、本日は猫です。
「………無理。」
嫌だってか無理だ。あれ以上咲羅の部屋を動物園にして何になるんだ?
「じゃあ私がやろっと。」
咲羅はおじさんに100円渡して銃を構える。……まぁ当たんないってわかったらあきらめ……
カコッ
………ん?全身から冷や汗が溢れてるのはなんでだ?
「やったー!!陽さん当たったー!!」
………ビギナーズラック恐るべし。
親切なおっちゃんは紙袋に入れてくれた。次に訪れたのは金魚すくい。
「陽さん、勝負!!」
「……ほう、俺に勝てるとでも?」
「そんなこと言ってもいいのかなぁ。」
やたら自信満々に言う咲羅。まぁやってみればわかること。
「……ばっ、馬鹿な……」
「私の勝ちー!!」
俺、18匹。咲羅、24匹。
「地元じゃ『店泣かせの咲羅』って言われてたくらいだもんね〜。」
それが自信の理由か。ネーミングセンスは無いがそんなのは負け犬の遠吠えに過ぎない。
「………悔しいが負けを認めよう。」
「イエーイ!!」
咲羅は更に上機嫌。浴衣を引っ張る手に力が入る。
「陽さん焼きそば食べます?」
「……さっき夕食食べたばっかだろ?」
「じゃあラムネ飲みましょ、ラムネ。」
「……いいけど?」
「あっ、綿菓子だ。陽さんラムネ買ってきて下さいよ。私、綿菓子買いますから。」
返事を待たずに綿菓子の屋台まで走り出す。やれやれと思いながらラムネを買いに行く俺も甘いな。
おっきな綿菓子をちぎりながらこちらにくる咲羅。ラムネを渡してやると
「こっちこっち。」
と言いながら駆け出す。俺はまたゆっくりと咲羅の後を追った。
山道に入ったらしく草むらをかきわけて進んで行く。
「………どこまで行くんだ?」
「もーちょいで……うわぁ!!凄い。」
「……何が凄いん………凄いな。」
やっと咲羅に追い付いたと思ったら、目の前の景色に釘づけになってしまった。ホテルの眺めとはまた違い、町の光が綺麗に光っている。
「座りましょ?」
「………ああ。」
腰を降ろした俺達はラムネを飲みながら景色を見つめていた。
「……そろそろかな?」
「………何が?」
「えっ?なっ、なんでもないですよ!!」
それで隠してるつもりなのかどうかはわからないが何かあるらしい。咲羅の顔を覗き込むが反応なし。
その時咲羅の顔が照らされた。……照らされた?何に?
ドーン!!
「………花火?」
「綺麗ー!!」
これか、さっきから待ってたのは。確かに綺麗だ、カラフルな花は夜空に咲き誇る。そのたびに俺達も照らされる。
「実はさっきおじさんが教えてくれたんだ。ここも、花火のことも。」
「……そっか。」
花火の量は次第に増えはじめる。冬の花火も中々なものである。花火一つ一つに表情を変える咲羅も花火みたいだ。陽と言う名前は咲羅の方があってるな。
「なんですか?人の顔ばっか見て。」
「………別に。」
「照れなくてもいいですよ。私は陽さんのですからね。」
咲羅はにっこりと笑いながら俺に口づけた。花火に照らされた二つの影は綺麗に伸びていた。