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第四十三話 其ノ一

やっとのことで部屋に戻ってきました。みんな酷いよ、ちょっとジョークで覗きとか言ってただけなのに集団私刑(リンチ)とか。しかし痛みに慣れてしまった俺の方が怖いか?

てか龍太の野郎裏切りやがって。あとでぼっこぼこにしなきゃな。

部屋の扉を開けると栞が立っていた。いわゆる仁王立ち。


「翔太郎、覗きは良くないわよね?」


前言撤回。先に俺がぼっこぼこかも。



『第四十三話:温泉旅行と各々の想い 其ノ五 side M』



「まぁいいわ、ホントにやるわけじゃないしね。」

「さてどうかな?俺だってやるときはやる男だよ?」


ニヤリと笑いながらベッドに腰掛ける。


「はいはい、わかったわよ。」


栞は呆れた様に言い放ち、冷蔵庫からビールを取り出す。投げられた缶を受け取り、プルタブを開いて小気味良い音をさせる。喉に流しこまれたそれは少々の苦味と爽やかさを運んでくれる。


「でも疲れない?そんなことばっかしてて。」

「全然。むしろドンと来いって感じだよ。」

「意地っ張りねぇ。」


栞はビールを一気に流しこみ、また冷蔵庫から取り出す。


「そうやっていつもやられ役に回って、みんなに元気をわけてたら翔太郎の身がもたないわよ。」

「……なんでもお見通しってわけね。」

「そりゃあ長いこと付き合ってますからね。」


確かにいつも馬鹿やって陽とかにやられる俺。始めは陽を元気づけるためにやってたんだよなぁ。


陽の親父さん達が死んでから陽の明るさは薄れていった。俺はそんな陽を見てるのが辛かった。あいつとはガキの頃からの付き合いだ。

あいつはどう思ってるかは知らないが俺は親友だと思ってる。昔から………今も。唯がああなった時も俺はいつも陽を心配してたな。

喫茶店を始めようって言ったのも俺からだったな。唯の家にいればまたいつ思い出すかわからない。誠さん達に土下座してまであいつを無理矢理一人暮らしさせた俺は悪いやつだよな。


こんなこと恥ずかしくて本人には言えないさ。別に言うつもりもないし。

栞はいつの間にか気づいてたのかもしれない。今まで言わなかっただけで。


「まぁ俺はみんなの為に生きてる様なもんだし。みんなが笑ってくれるならそれでいいさ。」

「………翔太郎。」

「ん?」

「私は……あなたの支えになってる?」

「……どうしたんだ、急に。」

「なんとなく、ね。」

「俺は……栞無しじゃ生きてけないよ。」

「そう?ありがと。」

「栞はさ……俺のこと好きか?」

「……どう答えてほしい?」

「え〜、そりゃないよ。」

「安心して、これが答えよ。」


栞は俺に近づき、唇を重ねた。……俺は幸せもんかもしれないな。


「栞がいてくれて良かった。これからもよろしくな。」

「まぁ面倒見てあげるわよ。」


二人してクスッと笑うとまた唇をゆっくりと重ねた。




ふぅ。やっと風呂に入れた。執行猶予が解けたから晴れて俺は自由になった。湯気をたたせながら部屋の扉を開く。中にはテレビをつけたままボーッとしている桃華がいた。


「どしたの?ボーッとしてるよ?」

「えっ?……ちょっと考え事をね。」

「お悩み相談なら聞いてあげるよ。」

「悩みっていうか……ねぇ?」

「ん?」

「言っても怒らない?」

「……時と場合と内容次第だな。まっ、まさか浮気!?」

「違う、違う。実はね、またフランスに戻るかもしれないのよ。」

「な〜んだ、そんなこ……えぇぇ!?」


なんでも向こうで大きな大会があるらしくて以前働いてた店から出てみないかって連絡があったらしい。


「……どうするの?」

「だからそれを悩んでるんだって。」

「あっ、そっか。」

「「…………」」


沈黙が続く中、桃華が口を開いた。


「ホントは行きたい。でも………でも龍太と離れたくないの!!」

「桃華………」


桃華の一言で俺は決心した。


「じゃあ行こうか。」

「……え?」

「フランス。行きたいんでしょ?だから行こう?」

「………行こう?」

「そっ、俺も行くよ。フランス。」

「………えぇぇぇ!?」

「ほら、これで問題無しじゃん。」

「行くって龍太……学校は?」

「休学にしてもらう。」

「そんなっ!!そんなこと……」

「桃華のしたい事は俺のしたい事だよ。だから何も心配しなくていいんだよ。」



俺は涙を流す桃華をそっと抱き締めた。

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