第四十二話 其ノ一
ども、ヘタレ作者です。
今回からちょっとサブタイトルでも使用されている『各々の想い』をメインにしていきたいかと思います。また長くなるやもしれませんがお付き合いお願い致します。
中々の味であった夕食を食べた俺達は各々の時間を過ごす。とりあえずまだ疲れが残っている俺は部屋に戻ろうとした。したんだが……浴衣を引っ張る奴が約一名。
「陽さん、出掛けましょ?」
「………無理。」
「はい、レッツゴー!!」
「………はぁ。」
元気いっぱいのパワフルな咲羅に俺は結局折れるしかなかった。
『第四十二話:温泉旅行と各々の想い 其ノ四 side M』
カコッ、ポコッ、……
そんな間抜けな音が周りで響く中、俺と綾子は台を挟んで睨み合う。俺達のは遊びなんかでは済まされない。それは綾子も重々承知だろう。そう、いくら温泉卓球でも。
「行きますよ、誠治さん!!」
「どっからでもかかってこい!!」
綾子の左手から高々と白球が上げられる。落下の速度とラケットの速度を合わせ、回転力の高いサーブが俺の右端に決まる。
俺は強打が打てないと瞬時に判断し、回転をそのまま綾子のコート左端に返す、が勢いが良すぎ長くなってしまった。
長くなればなるほどツーバウンドまでの距離が伸び、相手としては強打が打ちやすい。待ってましたと言わんばかりに綾子がラケットで白球を下から擦りあげ、ドライブが対角線上に放たれる。
並の奴ならこの球を弾いてやられるだろうが、俺は綾子のドライブ以上の回転のドライブを返す。綾子もそれを上回る回転で返す。その後は綾子も俺も意地になっているためコースは関係なくただひたすらドライブの打ち合い。
プロの試合でこういう光景は良く見られるがこんな場所で見られるものではない。いつの間にかギャラリーも出来ている。
かれこれ何時間やったのだろうか。多分時間自体は経ってないだろうが、1プレイが長く感じられる。
だいぶ昔に改正したルールは1セット11点、3セット先取のゲームだが、既に2―2、度重なるデュースのせいで18―19。今は俺のマッチポイントだった。
「兄ちゃん頑張れよー!!」
「姉ちゃん踏ん張り時だよー!!」
観客の声援が響く。
綾子がサーブを打つ。しかし既に体力の限界か、最初の様なキレがない。俺は渾身の力を込めて打ち返した。
「悔しー!!もうむっちゃ悔しー!!」
綾子は汗を拭きながら俺の背中をバンバン叩く。
「う〜ん、卓球もやっぱりいいね〜。」
「それは勝ったからでしょ!!」
綾子は叩く威力を上げた。多分紅葉が背中に咲いているはずだ。
「じゃあもう一回やるか?」
「やりません!!」
プンスカさせながら綾子は部屋に戻ってしまった。やれやれ、お互い負けず嫌いだからな。とりあえず俺も綾子を追い部屋へ戻った。
部屋にはかすれた音だけ。さっきから絵美は窓の外の風景をスケッチしている。俺はベッドの上で小説を読んでいた。まぁいつもの光景っていえばそうなんだけど。温泉に来たわけだから他にすること………ないな。とりあえず小説をサイドテーブルに置き、絵美の背後でスケッチを見る。見事に描写された風景に更に絵美独特の感性が入り混じる。絵美の才能は多分近いうちに認められるはずだと俺は思う。………これってひいきか?
「ひゃっ!!」
俺に気づいた絵美は驚き軽く悲鳴をあげた。
「もー、後ろから覗くなんて卑怯よ!!」
「だって絵美、スケッチ中に絶対見せてくれないじゃん。」
「だって完成してないし……」
「見せて。」
「………まだ駄目。」
「み、せ、て。」
「…………むぅ。」
観念したのかスケッチブックを俺に渡す。受け取ってまたまじまじと見る。………やっぱり上手い。
「やっぱり絵美は絵が上手いねぇ。」
「そんなことないよ、好きで書いてるだけだもん。」
照れている絵美も可愛らしい。なんて思いながらスケッチブックをペラペラとめくる。
「あっ、だめ!!」
絵美がスケッチブックを取ろうとした時には遅かったらしい。スケッチブックには………俺?
「どしたの、これ?」
「愁さんの誕生日に渡そうと頑張ってたのに………」
絵美の瞳には徐々に涙が溜っていく。やがてそれは雨の様にぽつり、ぽつりと絵美の手の甲に落ちる。
「ごめん、そんなことちっとも知らなくて……」
「ぐすっ……ぐすっ……」
参った。こりゃ参った。とりあえず絵美を抱き締めながら頭を撫でてあげ、泣きやむまで謝り続けた。………いつ泣きやむかな?
ちなみにside M は men の略です。多分おわかりでしょうが一応念のためです。ちなみに次回はside W です。全員入りきるまで何回か続きそうです。すみません。