第三十九話 其ノ一
朝から大慌てで支度を済ませる。起きたら一時間しか猶予がないのだから。どうも咲羅と一緒にいると時間のペースが変わってくる。咲羅も少々天然みたいな所もあるし……やれやれだ。
一時間後丁度にやってきたメンバー。これからまた忙しくなりそうだ。
『第三十九話:温泉旅行と各々の想い 其ノ一 side Y』
「………で、何で俺が車を出さなきゃいけないんだ?」
文句を言いながらガレージを開ける。
「しょうがないだろ?誠治の車は二人乗りだし、龍太の車に愁と絵美ちゃんが乗るんだから必然的に俺と栞がお前の車に乗ることになるだろ?」
「……お前が車持ってれば話は早いんじゃないのか?」
「まぁかたいこと言うなよ。楽しい旅行なんだからさ。」
「………はぁ。」
溜息を吐きながらキーを回す。エキゾーストがガレージに響く。
「咲羅ちゃん、栞、もう行くよー。」
自分が運転するわけでもないのにやたらと仕切る翔太郎。二人が乗り込んだのを確認してからアクセルを踏む。とりあえず誠治達の集合場所まで車を走らせた。
待ち合わせ場所で。とりあえず皆と挨拶をかわす。
………ん?待て。とりあえず待て。俺は自分に言い聞かせながらもう一度確認した。有り得ないはずだ、こんな所に………誠さんと歩さんがいるなんて。
「よぅ、元気か陽?」
「………どうしてこんな所にいるんですか?」
「だってお前達が俺達にチケットくれたじゃないか。」
「………は?」
「つまり誠さん達と俺達の行くホテルが同じ所で、それを『面白そう』って理由だけで隠していた、と。」
「……その通りでございます。」
とりあえず俺は翔太郎に土下座をさせながら理由を聞いた。それが今の。タチが悪いのは俺以外皆が知ってたと言うこと。咲羅もさっき聞いたらしい。
「まっ、まぁ気をとりなおしていざ温泉へ!!」
「お前が言うな!!」
車は高速に乗り、快適に進んでいる。
「陽さんガム食べますか?」
「ん?……ああ。」
「はい。口開けて下さい。」
「………は?いや、渡してくれれば……」
「食べさせてもあげられないんですか?」
「わっ、わかった。わかったからその目はやめてくれ。」
「はい、あーん。」
「…………あーん。」
どうも咲羅の潤んだ瞳に弱い俺。まぁ男が女の涙に勝てるわけなんてないが。
「『はい、あーん。』『あーん。』だって、初々しくていいねぇ。栞、俺達も……」
「陽君、翔太郎ここで降ろしていいかしら。」
「……奇遇だな。俺も同じことを考えてた。」
「ちょっ、ちょっと、ここ高速だって!!洒落にならないって!!」
「翔太郎君……ドンマイ。」
「咲羅ちゃんまで……ギャー」
とりあえずパーキングで休憩をはさむことにした俺達。やたらと食っている誠治と龍太。桃華と栞は誠さん達と話をしている。誠さんも歩さんも栞達と一緒にいると年代が同じじゃないかと間違えそうなくらい若く見える。………驚異だ。咲羅は綾子と絵美と買い物してる。そして俺と愁はほのぼのとコーヒーを飲む。あと一人は瀕死状態。
「……なぁ愁。あとどれくらいだ?」
「う〜ん、詳しく知らないけど2、3時間位じゃん?多分今が半分位だし。」
「………まじか。少し疲れたな。」
「まぁ温泉に入ればそんな疲れも忘れちゃうよ。」
「………だな。」
「俺の……疲…れも……取れ…るかな?…高速……30分くら……い…全…速力で…走っ…てきた…ん…だけど……」
「「知るか。」」
(良い子と言うか普通の人は高速を走らないで下さい。)
草津にあるホテルに着いたのは出発してからもう昼をとっくに過ぎていた頃だった。
「……翔太郎、荷物運ぶから部屋番号教えろ。」
フロントから戻ってきた翔太郎から鍵を受け取ろうと手を出す。
「はい、じゃあコレが陽と咲羅ちゃんの。」
「………は?」
「だから二人の部屋だって。」
ちなみに二人ペアで部屋が分かれてるのを知らなかったのも俺だけだった。