第三十八話 其ノ一
朝、目覚めたらそこに咲羅がいた。実に気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている。毛布から少しはだけた白い肌に少しドキッとした。
「あっ………」
咲羅が起きてこちらを見ている。しかしなぜか硬直したままである。だからとりあえず言ってあげよう。
「……おはよう。」
『第三十八話:忘れていたこと side Y』
「………おはようございます。」
毛布を口まで被りながら、物凄く小さな声で挨拶する咲羅。まるで小動物のようだ。
不意に何かに気付いたかのように目線をずらしている。そして
「ひゃっ!!」
と叫び体を起こす。毛布を被りながら。
「よっ、陽さん!!もしかしてずっと腕枕してたんですか!?」
「ん?……ああ。」
確かに腕枕をしてたな。てかいつのまにか頭を乗っけられただけだが。……まぁ内緒にしとくか。
「ごっ、ごめんなさい!!そんな失礼なこと……」
「……構わないさ。彼女にしてやるのは当然だろ?」
「今……何て……」
「?だから気にするなっ」
「その後!!」
「……彼女にしてやるのは当然ってところか?」
「私……陽さんの彼女になったんだ!!」
「………何を今更……」
「私にとっては大問題です!!」
なぜか少々ご立腹の様子だ。
「あっ、朝ご飯作らなきゃ。」
そう言って毛布を器用に体に巻いて立ち上がる。明らかに長すぎるのは気のせいではないだろう。
「あっ。」
咲羅が向いている方へ視線をずらすと、昨日咲羅が初めてではなくなった痕が残っていた。
「……洗わなきゃな。」
「そう……ですね。」
顔を赤らめた咲羅が頷いた。昨日は夢ではなかったことがこの痕で証明された気がした。
「キャッ!!」
バタンッ!!
凄い音がしたので振り向くと咲羅が毛布につまずいていた。つまり……裸で。
「プッ、」
「あー、笑わないで下さいよー!!」
今度は半分に毛布をたたんでから巻いた。
「あれ?」
「……どうした?」
「コレ……忘れてましたね。」
咲羅が見せたのは温泉のチケット。そういえばカラーボックスの上に乗せたまま忘れてた。
「ああ!!」
「……今度は何だ?」
「これ……期限が今週まで……です。」
「……チケットに期限!?まさか……ホントだ。」
咲羅に渡されたチケットは確かに今週末までだ。今日が木曜日……で二泊三日……明日から!?
「もったいないから行きましょうよ!!」
「……う〜ん。」
ジリリリリ……
そんなとき店に電話がかかってきた。俺を地獄へ誘う電話が……。
電話の応対は咲羅がしていた為に俺には分からない。でも咲羅が慣れ親しんだ感じだから俺の知り合いかもしれないな。電話が終わった咲羅が受話器を置く。
「……誰?」
「翔太郎君ですよ。」
なぜか咲羅がにやけている。俺の中の警報が鳴り響く。
「翔太郎君が商店街の福引でなんと一等を手に入れたんだって!!」
「………ふ〜ん。」
「そんでぇ、その商品が!!なんと温泉旅行ペアチケットのセット!!」
「………セット!?」
「何でも余っちゃもったいないからいっぺんにまとめたらしいです。」
いやいや、普通に混ぜろよ。
「しかも五セット!!」
「ブッ!!」
おもいっきりコーヒーを噴いた。なんだ、その作為性の雰囲気満々な話は。
「ってことで、そのチケットはお義父さん、お義母さんにあげて……」
「漢字変換間違ってるぞ。」
「皆で温泉旅行ってことで!!」
「……無視かよ。」
そんなこんなで俺の意見なんかは一切無視で話はすすんでいくことになる。……おかしいだろ?
そしていつの間にか出発前日。てかその日に全てが決まってしまい3月22日が出発日前日。……作為の塊だ。トランクに荷物を入れている(もはや諦めムードで)と咲羅が入ってきた。
「ん?どうした?」
「……おやすみのキスが……欲しいです。」
「………しょうがないな。」
軽く触れるだけのはずだったのに咲羅が無理矢理深くキスしてきた。昨日の仕返しのつもりか?
そしてそのままベッドに押し倒される。咲羅の目の色が少し違っていた。まさか……今日もか?てか普通襲うのは男だろ?
そのまま朝を迎えたのは言わずもがな……なのか?
もう70回越えましたか……なんだかやたら長くなっているくせ文章力も上がらない駄目な作者ですが読んで下さっている読者様、本当にありがとうございます。
最近ランキングに入ってから読者数も増えてきました。泣けてきます。
もう少し続きますがそれまで見ていただけたら幸いです。
PS、まだメッセージの返事を返せず申し訳ありません。近日中には返事、書かせて頂きます。