第三十四話 其ノ一
波乱のきっかけなんてほんの些細な事だと最近になって思う様になってきた。………ていうか今。
「ねぇねぇ陽さん。」
「……なんだ?」
「誕生日っていつですか?」
「……3月21日だけど。」
「ふぇ?」
「……どうかしたのか?」
「……私も……3月21日……デス……。」
『第三十四話:お誕生日はいつですか? side Y』
「………は?今なんて……」
「だから……私も同じ……」
「………マジ?」「マジ。」
………マジらしい。世の中は偶然が重なって出来ているとは思っていたけど……。
「………ところで、」
「なんですか?」
「……何で誕生日なんて聞いたんだ?」
「えっと……興味本意って言うか何て言うか………」
何故か咲羅の声は小さくなっていく。
「……私の……誕生日も……聞いて……もらいたかった……なんて……」
さらに小さくなった咲羅は更に顔を真っ赤にしていた。既に完熟トマトみたいだ。
「………つまりあれか、『私の誕生日を祝って下さい。』そう言いたいのか?」
「あぅぅ………」
そろそろ咲羅の頭から湯気が出そうなのでいじるのは止めておこう。
「………何がいいんだ?」
「………へっ?」
「……だから誕生日。」
「お祝いしてくれるんですか!?」
「………して欲しいんだろ?」
「うん!!」
咲羅の笑顔が満開になる。それにドキッとする俺も重症か。
「………で、どこ行きたいんだ?」
「う〜ん………そういうの決めるのは男の人の役目じゃないんですか?」
「………むぅ。」
「私は何でもいいですよ。」
「………何でもいいが一番困る答えなんだが……」
「何着てこうかな〜。」
「………聞いてねぇし。」
溜息を吐きながら俺は本屋へ行くことにした。情報誌を買いに行くために。
本屋でペラペラと本を捲る。
『都心のイタリアン特集』
だの
『お洒落なフレンチの店』
だの、その他もろもろ、書いてあるのだがどうもなぁ……
「咲羅ちゃんには似合わないんだよねぇ。」
「そうそ………」
慌てて後ろを振り向くと翔太郎が立っていた。
「熱心に何してるのかな?陽君は。」
「………別に。」
「ほらほら、お兄さん達が協力してあげるよ。」
「………別に協力なんて要らな………達?」
ハッとした俺は周囲を見回す。………なんでいつもの面子が揃ってるんだよ。
「いやぁ、陽を誘って久しぶりに皆で飲むかって事になったんだけど、咲羅ちゃんがここにいるからってて痛てててて!!」
喋り終わる前に翔太郎の両頬をつねりあげる。この前咲羅にしたのの軽く百倍程の威力である。
俺が手を離すと真っ赤になった頬をさすりながら少し涙目になってる翔太郎。
「……携帯に連絡しろ。」
「へ、へい。」
愁
「まぁまぁ、翔太郎も悪気があったわけじゃないんだし。」
誠
「そうそう。」
龍
「ほら、とにかく行くぞ。俺の帰国パーティだろ?」
愁、誠、翔
「いや、違うけど?」
龍
「てめぇ等ぁぁぁぁ!!」
「………五月蠅ぇな。」
とは言え、久しぶりに五人で飲みに行くことにした。………おっと、その前に。
『もしもし?』
「ちょっと翔太郎達と飲んでくるから。留守番頼んだ。」
『大丈夫ですよ〜。こっちも盛り上がってますから。』
「………も?」
『実は皆来てちょっとしたパーティを……』
その後騒がしい声が何重にも聞こえたため、電話を切った。帰ってきたら惨状になってるとか……止めて欲しいな。
「ちゃんと女房に電話なんて偉いじゃいたたたた!!」
「………さっきから挑発するのはこの口か?」
再度翔太郎の頬をつねりあげる。そろそろ伸びたゴムみたくなりそうだな。
龍
「ほら、二人とも置いてくぞ!!」
誠
「何で龍太が仕切ってるんだ?」
愁
「さぁ?」
こうして男五人、居酒屋へと流れ込んだ。
で、帰り道。なんで俺が翔太郎を背負わなきゃならないんだ。愁と誠治が龍太を抱えていったからとは言え………てか普通誠治が一人で十分だろ?
「ぅわぁ、俺、宙にぃ浮ぃてるょおぉ。」
何だか、ろれつが回っていない。飲んでも人に迷惑かけるな。教訓にしよう。
「よー!!」
「………何だよ。」
「咲羅ちゃんと、幸せになれよ〜。」
「………いきなり何を言うかと思えば。」
「俺はホンキやぞ〜。」
「……本気って言われてもなぁ。」
「お前も好きなんだろ〜?長年一緒にいりゃ分かるさ〜。」
「………」
「お前にはそろそろ幸せになってもらいたいんだよ〜。」
「………」
「自分に素直になれよ〜、よー!!」
「………言われなくてもわかってるさ。」
「それなら、いいんだ。」
「………翔太郎。」
「んあ?」
「………サンキュな。」
「……気にすんなよ。」
喋り疲れた翔太郎はそのまま俺の背中で寝てしまった。
「……ただ今………あ〜あ。」
「おきゃえりなしゃ〜い、陽さ〜ん。」
結構ボトルを空けてやがる。そして皆酔い潰れている。……栞以外。……てか桃華も来てたのか。
「ごめんね、陽君。その馬鹿助けてもらって。」
「………まぁ日常茶飯事だ。」
「それもそうね。」
栞は翔太郎を引きずりながら家へ帰っていった。とりあえず俺は皆に毛布を掛けながら回る。咲羅も俺に挨拶した後、すぐ寝てしまった。俺はそっと頭を撫でて毛布を掛けてやった。
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