第三十話
姉貴は更に晩飯の当番と引き換えにデートコースを何種類か教えてくれた。ちなみにおじさんもおばさんも仕事で帰りは遅いから俺達で晩飯を作っている。おばさんは専業主婦だったのに……本当に感謝している。
そして12月24日を迎える。
『第三十話:陽ノ過去 其ノ四』
「おまたせ〜!!」
待ち合わせ場所に来た唯はいつも見ている人物ではないように見えた。薄くだがメイクもしている。高校生に見えないんだが……。だから待ち合わせから1時間も遅れて来たのか。
「待った?」
「だいぶ。」
するとスパンと頭を叩かれた。
「こういうときは嘘でも『いや、俺も今来た』って言うべきでしょ!!」
「てか家が同じなんだから待ち合わせしなくてもいいだろ?」
スパン!!……二回目。
「馬鹿!!待ち合わせしないとデートっぽくないでしょ!!」
「そりゃまぁそうだが……。」
「ほら、のんびりしてないで早く連れてってよ!!」
「はいはい。」
スパン!!……三回目。
「はいは一回!!」
「………はい。」
何だか行く前から疲れるな。溜息を吐こうとしたけど唯に睨まれてるので止めておこう。あまり叩かれると脳細胞が破壊される。
「いらっしゃいませ。」
タキシード姿のボーイに席に案内された。
「(ねぇ、ここ結構高そうだけど大丈夫?)」
俺の耳元で囁く唯は不安そうな顔をしていた。
「(大丈夫、任せておけよ。)」
ここらへんの抜かりはない。姉貴に教わった場所で一番オススメを選んできたから。値段も外観や店内からは意外と思われるくらいリーズナブル。あまり金がなかった俺にも好都合だった。
次々に運ばれる料理。一品一品は少ないが味は絶品。更に料理にあわせたワインも美味。唯も普段はお酒は飲まないのだが(というより未成年が飲むのがおかしいのだが)今日は
「美味し〜い。」
と喜びながら、ワインや料理を口に運ぶ。幸せそうな唯の笑顔は俺の表情も和らげた。
「美味しかった〜!!」
「そうだな。」
店を出てから俺達は公園のベンチに腰掛けた。少し遠くでイルミネーションが輝いている。
「あぁ、そういえば。」
「どうしたの?」
俺はポケットから小さな袋を取り出した。
「ほら、プレゼント。」
「えっ、何だろう。」
唯が袋を逆さまにして掌にそれを落とす。
「わぁ、ネックレスだ。」
「気に入ってくれるといいんだけど。」
「ねぇ、付けて。」
「ん?ああ。」
唯は少し長めの髪を上に持ち上げた。唯のうなじに一瞬とらわれてしまったがゆっくりとネックレスを付けてあげる。首、細いな。
「ほら、付けたぞ。」
「どう?似合う?」
「いいんじゃないか?」
へっへーと笑いながらネックレスを見つめる唯。ロザリオが綺麗に輝いている。
ピリリッピリリッ……
俺の携帯が鳴った。画面の表示は姉貴だ。
「どした?」
『今日ちょっと友達と飲んでて帰れないかもしれないからおじさん達に言っておいてくんない?』
「家には電話しないの?」
『まだ帰ってないみたいだから。じゃあよろしくね〜。』
電話を切って俺達は帰路に着いた。家には留守電。姉貴が残したのかな?
新着メッセージ二件。
『えー、ちょっと仕事が長引きそうだから今日は帰れません。戸締まりよろしくね〜。』
『会社の打ち上げに誘われて終電無くなりそうだからこっちに泊まります。ちゃんと留守番しとけよ!!』
………今、家には俺と唯しかいない。これは少しマズイのでは?そんなことを思いながら椅子に座る。
「じゃあ私からのプレゼントで〜す!!」
そう言って冷蔵庫からケーキを出す。唯の手作りらしい。とりあえず一口。
「うん、美味い。」
「ホント?よかった〜。」
自信が無かったのか安心したように笑みをうかべる。
「ねぇ。」
「何?」
俺がケーキに舌鼓をうっていると唯が真剣な眼差しで見つめてきた。
「私の事好き?」
ケーキが気管に入った。
「ねぇ、ちゃんと言ってよ。」
「………好きだよ。」
「ホントに?」
「嘘なんてつくかよ。」
「じゃあさ。」
「ん?」
「私を抱いて。」
ケーキが気管に入った。二回目。
「なっ、お前なに言って」
「私真剣だよ。」
唯の目には俺の顔が写されている。
「私は………陽と一つになりたいの。」
「………唯。」
「私が……プレゼントだったりして。」
照れながら笑う唯を思わず抱き締めた。……柔らかくて暖かい。俺達はそのまま深い口づけを交した。
「これで……私達は一つになったよね?」
「……そうだな。」
二人でベッドの中で見つめ合う。お互い初めてで探り探りしていながらも愛し合うことが出来た。
「陽。」
「ん?」
「好きだよ。」
「………俺もだ。」
この時は二人の未来が明るく、幸せが待っている……そう思ってた。そんな幻想は脆くも崩れ去った。唯が倒れたのはそれから三ヶ月後だった。




