第二十八話
電話を切ってから急いで姉貴と唯一にも事故の事を話した。動揺しながらも唯のお父さんに運転してもらい病院に向かった。唯のお父さんは親父の親友。心中穏やかではないだろう。もちろん俺達も。車は病院に向かい勢い良く走っていった。
『第二十八話:陽ノ過去 其ノ二』
病院についてから急いで親父達がどこにいるのかを聞いた。三階、階段を駆けのぼった。扉を開けて中に入ると、中には二人の姿。しかし、いつもの様な笑顔がない。母さんは……既に……もう……
「うっ………うぅ……」
「親父!!親父!!」
「………陽……か……?」
「そうだよ、俺だよ!!姉貴だって唯だって、誠おじさんだっているよ!!」
「おい!!光一!!しっかりしろよ!!」
「……誠……俺は……ちょっ…と……駄目……みてぇ……だ……わ」
「んなこと言うなよ!!お前はそんなやわな男じゃねぇだろ!!」
「……誠……俺が……駄…目な……ら……ウチの……ガキ共…頼……む……わ」
「馬鹿野郎!!お前が生きて世話すんだよ!!」
「光……女の……子…ら……しく……な…」
「何よ……それ……ねぇ……頑張ってよ!!」
「……陽……お前は……男なん…だ……から……姉ちゃ……んを……守…れ……よ…」
「なに言ってんだよ!!俺は佐倉光一の息子だぞ!!当たり前だろ!!」
「……悪い……な……陽…子だけ……先に……行かせ…ねぇ……から……よ…」
「親父!?おい、親父!!親父!!」
「光一、おい光一!!」
「お父……さん…お父さん!!」
親父と母さんの葬儀はしめやかに行われた。遺影には笑顔の二人。………そんなとこで笑うなよ。
雨上がりの道路、かなり滑ったらしかった。対向車が曲がりきれずに親父達と激突したらしい。向こうの運転手も……即死だった。
葬儀には沢山の人が訪れた。親父も母さんも皆から愛されるような存在だった。毎年来る年賀状の枚数は数えきれない程だった。親父も母さんも幸せ者だよ。俺は葬儀の間、涙は流さなかった。俺は佐倉光一の息子、簡単に泣く訳にはいかない。
その日の晩。姉貴は泣き疲れてもう寝てしまった。俺は遺影を見つめていた。
「陽……」
後ろを振り返ると唯が立っていた。
「……どうした?」
「どうもしないよ。」
唯はゆっくりと俺の隣に座った。
「今日……いっぱい来たね。」
「……そうだな。」
会話が無くなり沈黙が続く。
「………なよ」
「え?」
「泣きなよ。」
「……泣かねぇ。」
「どうして?」
「俺は佐倉光一の息子だぞ。簡単に泣いたら親父にどやされ」
「そんなことない!!」
あまりにも強い口調の唯に驚いた。
「誰だって……泣きたい時はあるんだよ。」
「………」
「私は………無理してる陽の顔は見たくない。」
唯の言葉で俺の緊張の糸が切れた。俺は静かに涙を流した。涙の量は次第に増えていった。唯は俺の頭を抱き締めて一緒に泣いた。その晩は二人の嗚咽が室内に響いていた。
「よろしくお願いします、誠さん。」
「おう、お願いされたぜ!!」
「でも……本当によかったんですか?私と陽がそちらで一緒に住むなんて……」
「まぁ、あいつの遺言だしな。俺に出来るのなんてこれくらいだろうし。」
「これ……親父達の貯金です。少しでも生活費に…」
「陽君はそんなこと気にしなくていいのよ。それは大事にとっておきなさい。」
「でも、おばさん……」
「大丈夫。一人増えても二人増えても何とかなるわよ。ウチが一人っ子でよかったわね、あなた。」
「そうだな。」
「これからよろしくね、陽。」
「……ああ。」
この日から俺と姉貴は中谷家に居候の身となった。