第二十六話 其ノ二
今日は陽さんと遊園地〜。実は皆を使って今日一日私の願いを聞いてくれるって陽さんを騙しました。いや、実行犯は私ですけど参謀は翔太郎君です。このままじゃ私がなんか悪女みたくなっちゃうし………。ま、まぁ無料のチケットもあるし今日は遊びまくるぞー!!
『第二十六話:願い事 side S』
遊園地に着いたのはまだ早い時間。でも結構人が多い。特にカップル。いや、これは私の目に写りやすいからかな?
私はウキウキしながら歩く。だって陽さんと手を繋いでいるから。これも願い事ってことで許してもらえた。早速私はジェットコースターを見つけた。結構高い所までレールは伸びていて、所々一回転していたりグルグル巻かれてたり、中々面白そうだ。
ふと、後ろを振り返るとそこにはいつもの栞さんはいなくて、まるで小動物のようにちっちゃくなった栞さんがいた。陽さん曰く、絶叫系は大の苦手らしい。可哀想なんだけど………可愛い。ギャップってやつ?
段々と上がるジェットコースター。後ろでは
「もぅ……やだよぉ……」
と女性の私ですら心臓を撃ち抜かれる程の威力を持った栞さんの泣きそうな声が聞こえた。
落ちた時に栞さんは叫び声ではなく小さな悲鳴をあげていた。それがまた可愛いのなんのって。ちょっと反則だって。
私はお決まりみたいな悲鳴をあげるけど陽さんは平然としている。ちょっと陽さんの怖がる姿も見たかったのになぁ。
結局3回もジェットコースターに乗って(翔太郎君がわざと栞さんを乗っけてる疑惑もあるけど)しまい栞さんはダウンした。翔太郎君の言葉に甘えて私は陽さんをひっぱりながら奥に進んだ。
陽さんは中々楽しんでいるようだった。私の我が儘で乗ったコーヒーカップ、だけど陽さんはカップをグルグル回しまくった。私が無理無理と言っても少し意地悪そうな微笑みで更に勢いをつける。……まぁ、そんな陽さんも素敵なんだけどサ。
やっぱり遊園地って言ったらお化け屋敷!!ということで入ることにしたんだけど、私あんまり得意じゃないんだよなぁ。
「ホントに手、繋いでて下さいよ?」
「………はいはい。」
暗闇の中をゆっくり進んで行く。めっちゃ暗いんですけど………。
「キャー!!」
そりゃあ悲鳴も出ますよ、ええ。だって怖いもん!!だけど陽さんがいるから……なんて、ね。
情けないことに途中で腰が抜けた私。
「………大丈夫か?」
「駄目かも。」
「………やれやれ。」
陽さんはゆっくりしゃがんで私を持ち上げた。……お姫様だっこで。
「せっ、せめておんぶに……」
「………もう慣れてる。」
私って……そんなに陽さんに運ばれてたんだ。ヤバい、今絶対顔真っ赤だし!!しかもお化けが出る度に陽さんに抱きついちゃって……。いや、まぁ嬉しいんだけどね。出口の明かりはとても眩しく感じた。
だいぶ乗り物に乗った。だって気付いたらもう夕方近くになってたんだもん。栞さんも回復したらしくいつも通りになってた。そんで今は観覧車に乗るために並んでいる状態。少し混んでたから私達と栞さん達は離れて列に並んだ。一緒にいると四人で入ることになりそうだったし。
この時から私は意識をしていた。今日の最後の願い事を……。
「わーっ、綺麗!!」
観覧車の外の風景はいつも見ている夕日とはまた違う美しさがある。小さく見える町が優しく夕日に照らされている。空は茜色、入道雲が浮かんでいる。陽さんの表情も夕日に照らされて一層穏やかに見える。
「ねぇ陽さん。」
私は窓から目線を陽さんに向けた。
「私の今日最後の願い事を聞いてくれますか?」
「……まぁ無理難題でなければ。」
私は緊張をほぐす為に一度深呼吸をした。心臓が苦しい……けど、聞きたい。聞かなきゃならない。
「私に……陽さんの過去を教えて下さい。」
「………聞きたいのか?」
陽さんの声はいつも通りだった。
「………はい。」
「………そうか。」
陽さんは一回息を吐いた。
「家に……帰ってからな。」
「……わかりました。」
陽さんの瞳に少しだけ淀んだ何かが見えた気がした。