第二十五話 其ノ一
今日で咲羅の受験は終わる。
今日がウチの大学の試験だから。咲羅はセンターで中々の成績だったらしく、調子が上がっていった。既に滑り止めの合格通知が届いている。今朝も朝御飯をちゃんと食べて俺の時計を付けていった。あの時計、ご利益は中々のものらしい。………そういえば親父、死んだ日に限ってあの時計付けてなかったっけ………
『第二十五話:試験終了 結果は如何に!? side Y』
しかし………今、試験中の咲羅が大丈夫なのかやたら気になってさっきからフロアを行ったりきたりしている。
「落ち着きなよ、陽。」
「………愁、お前に言われたくないな。」
愁も店のフロアを行ったりきたりしている。端からみればおかしな二人組だ。それを見て笑う人物………試験とは無関係なコイツ、かなりムカつく。
「陽はいつからそんなに咲羅ちゃんにお熱になったのかなぁ?」
「………翔太郎、死ぬ覚悟は出来てるのか?」
「じょ、冗談だって!!だからとりあえずフライパンは置きなさい、な?」
「………はぁ。」
翔太郎はただ俺たちを見て笑っている。それが一番ムカつくが………。
「ほら、そろそろ最後の英語が終わる時間だぞ。」
翔太郎の台詞に俺たちは時計を見る。確かにもう終わりの時間。………咲羅は大丈夫だろうか。
「「ただいま〜!!」」
咲羅と絵美が帰ってきた。
「おかえり、咲羅ちゃんと絵美ちゃん。どうだった?」
翔太郎の質問に二人で顔を見合わせる。そして一言。
「「微妙〜。」」
「微妙かぁ。でも微妙ならいけるんじゃん?何しろ俺が入れたんだから。」
「………確かに。」
「あの時は地球が滅ぶんじゃないかって心配してたっけ。」
翔太郎を除く笑い声がフロアに響いた。
「………お疲れ。」
「本当に疲れた〜。」
皆帰るとフロアは静かになった。咲羅にコーヒーを淹れて渡す。久しぶりにのんびりとした時間が流れる。
「終わっちゃいましたねぇ。」
「………あぁ。」
「受かりますかねぇ?」
「………どうだろうな。」
「いやいや、そこは『大丈夫!!』ってはっきり言って貰わないと。」
「………そう言われてもなぁ。………まぁ大丈夫だろ。」
「本当にそう思ってます〜?」
「………さてね。」
「ひっどー!!」
頬を膨らます咲羅も久しぶりに見たような気がした。
「でも受かったら温泉だし。」
「………忘れてた。」
「逃げようったってそうはいきませんよ!!」
「………時計渡さなきゃ良かった。」
「何か言いました?」
「………いや、別に。」
「あー楽しみだなぁ。ちなみに混浴らしいですよ?」
「………は!?」
「いや、だから混浴。」
「………で?………まさか一緒に入るつもりか?」
「私と入れるなんて光栄に思わなきゃ。」
………どうにか逃げられないだろうか?
あれから一週間。
今日は合格発表日。
結果は主に三種類で確認できる。一つは現地での張り出し。一番オーソドックスなタイプである。次にネット確認。パソコンや携帯のウェブで自分の受験番号を入力すると合否が出るというもの。昔では考えられないようなシステムである。そして最後は一番楽だが、合格通知が届くかどうか。信頼性でいえばあまりあてにならないが。
俺はネットでいいと言ったのだが、咲羅がどうしても大学に行きたいと言うので翔太郎に留守番をさせて見に行くことにした。
会場に行くまでさすがに会話は少なかった。途中で絵美と愁にも会って、一緒に行ったのだがやはり静かだった。
会場は人でごったがえしていた。俺達は人の波をかきわけながら進む。中々掲示板まで進まない。既に結果がわかった受験生は胴上げされたり涙をながしたりうつ向いたり様々だ。
やっと辿り着いた教育学部の掲示板。咲羅の受験番号は04502S。咲羅は『サクラのSだー!!』とよくわからないことを言ってたっけ。だんだんと数字を確認していく。
04490B
04493E
04498J
もう少し……
04500P
………駄目だ、緊張する。しかし最後まで見届けなければ。
04502S
数字を見た時に手が震えた。