第二十四話 其ノ一
明日。ついに明日は咲羅のセンター試験の日だ。勉強を教えるのもあっと言う間だったな。大学が改装工事で休講だったのが幸いした。咲羅はよく勉強したと思う。少しスパルタ気味だったのだがよくついてこれた。
「陽さんと同じ大学に行くためですから!!」
との咲羅の発言に少々困惑気味。
『第二十四話:遂に試験開始!! side Y』
夕食。やはりいつもと雰囲気は違う。まぁここ数日段々と空気は重くなってるのだが………
「はぁ。」
さっきから何回目だろうか。咲羅の溜息。いつものように食事も進んでないようだし。………ふむ、どうするか。
「………大丈夫か?」
「………ふぇ?」
「………ちゃんと食べなきゃ。」
「……食欲がないんですぅ。」
いつもの咲羅は何処へ行ったのか、まるっきり元気がない。
「………まぁ、あれだ、センターは本番までの最後の模試かなんかだと思えば大丈夫だ。」
「………模試?」
「……そう、模試。センターでウチの大学に入れる奴らはもう頭がいっちゃってる奴位なんだから。とりあえず滑り止めが確保出来れば御の字だ。」
「……そう、かなぁ?」
「………そう。だからあんまし根をつめるなよ。」
「はぁい。」
どうも上の空だ。………大丈夫だろうか?何だか俺まで緊張してきた………。
夜、俺が寝ようと部屋に戻ると咲羅の部屋はまだ電気がついていた。大丈夫だろうか?
「………早く寝ろよ。」
一応一言残して部屋に戻った。煙草に火を付けたときノックの音が聞こえた。
「………どうぞ。」
咲羅は泣きそうな顔をしていた。………腕に枕を抱えて。
「………どうした?」
「……一人になるとどうしても悪い方向にしかイメージ出来なくて………一緒に……寝て下さい。」
「………いや、一緒にったって……」
「このままじゃ眠れません!!」
………苦悶の時間、約十分。俺の本能をガチガチに固めて、心の中をなんとか理性のみにした。
「………いいぞ。」
「お邪魔します。」
シングルベッドは二人には狭すぎる。スプリングがゆっくりと軋む。離れようとしたがスペースが無い。咲羅は俺の腕の中にすっぽりと収まった。
「陽さん………暖かい。」
「………お前もな。」
「陽さんって……私のこと一回も名前で呼んだことありませんね。」
「………そうか?」
「そうですよ。」
「………気にするな。」
「呼んで下さい。」
「………絶対か?」
「絶対です!!」
………まぁ、仕方ないか。前祝いってことだな。
「………咲羅。」
「…………」
「………人にやらせておいて何で顔を赤くするんだ?」
「だっ……だって……」
「………だってって言われてもなぁ。」
すっかり丸まってしまった咲羅の頭を撫でながら、次第に深い眠りに堕ちていった。咲羅の温もりを抱いて………。
朝、目覚めたら既に俺の腕の中には咲羅の姿は無かった。フロアに降りると朝食を作ってる咲羅を見つけた。元気そうだ。
「あっ、おはようございます。」
「………おはよう。調子はどう?」
「陽さんに元気をもらったから大丈夫です!!」
「………そうか。」
朝食の準備をしながら咲羅は笑顔だった。
出発の直前。いきなり扉が開いた。
「咲羅ちゃ〜ん!!」
「おはよう、お二人さん。」
「翔太郎君!!栞さん!!どうしたんですか?」
「激励よ。」
「そうとも!!」
「………翔太郎は余計だな。」
「仕方ないじゃない、ついてきちゃったのよ。」
「二人共、流石に言い過ぎ……」
「いいんだよ、咲羅ちゃん。所詮俺なんてそんな立場さ。」
「ほら、すねないの。それより咲羅ちゃんに、コレ。」
「わぁ、お守りだ〜。」
「私が受かった時と同じ所のだからご利益はあるわよ。」
「ありがとうございます。あっ、そろそろ時間だ。」
「あら、もうそんな時間?ギリギリ間に合って良かったわ。」
「じゃあ頑張ってきます!!」
「………咲羅。」
「はい?」
「………ほら。」
「……腕時計?」
「……親父の形見だ。お守り程度にはなるだろ。」
「………いいんですか?こんな大事なもの、私に貸したりして………」
「………頑張れよ。」
「………ハイッ!!」
咲羅は笑顔で会場へ向かった。そして背後ではニヤニヤしている二人。
「………何だ?」
「陽、お前いつから咲羅ちゃんを名前で呼んでるんだ?」
「…………あっ。」
「『衝撃!!佐倉陽に恋人発覚!?』ってタイトルにしたら売れるかしら?」
………昨日の流れで言ってしまった自分を恥じた。