第二十一話 其ノ一
今回のみ編集上の都合により咲羅サイドから始まります。二十二話には戻ると思います。
では本編をどうぞ。 ―鶉―
時が経つのは早いってもう何回思っただろう。季節は冬。最近また寒くなってきた。そろそろ私の受験も始まる。あと一ヶ月もしたらセンターの結果が出てるし。最近はずっと勉強。絵美も愁さんにつきっきりで勉強中。綾子は既に決まった。だから私の代わりに店の仕事をこなしている。私も早く戻らなきゃ。そのためには勉強、勉強!!
『第二十一話:突然の来訪者は美女!? side S』
この時期になると学校にもろくに行かず、家でひきこもりがち。単位はとりあえず大丈夫だし、やっぱり今は受験が大事ね。私が過去問を解いてる間、陽さんは暇らしく欠伸をしたり煙草を吸ったりしてる。最近は陽さんが私の前でもゆったりとしている。良い傾向だ。
「………煙草切れた。ちょっと買ってくる。」
「行ってらっさ〜い。」
陽さんが出てった後、フロアに響くのは暖房の音とシャープペンをカチカチする音くらい。耳を澄ませば時計の秒針の音も聞こえる。
集中して解くと時間はあっと言う間に過ぎて私は最後の問いに入った。するといつもの
カラン。
と、扉のベルが鳴った。陽さんが帰ってきたのかな?と思いながら横を向くと、知らない女性が立っていた。凄い美人。背も高いしスラッとしてる。美人さんはハイヒールを鳴らしながら降りてきた。
「えと………どちらさまですか?」
「あなたこそ………どちらさま?」
あれ?質問を質問で返されちゃったし。
「私は中元 咲羅って言います。」
「………知らないわね。」
「そりゃあ多分初対面でしょうし……。」
「それもそうよね。ところで陽は?」
「陽さんですか?今煙草を……」
あれっ?この人………どっかで見たような……。
「あの〜。」
「何?」
美人さんは私の二つ隣のカウンター席に座っている。
「……お名前は?」
「私?」
「いや、だって他にいないし……。」
「それもそうよね。私は……」
言う前に扉の開く音がした。陽さんが袋をぶら下げて帰ってきた。
「………ただい……まぁ!?」
陽さんが珍しく驚いている。ぶら下げてた袋を落とすくらい。
「陽ー!!」
直後に陽さんの元に駆け寄り、陽さんに抱きつく美人さん。陽さんは硬直している。てか話がよくわからない。と言うわけで聞いてみよう。
「陽さん、誰ですか?」
「………あぁ、これは……」
「陽の彼女でーす。」
その瞬間、私は持っていたシャープペンを落とした。……彼女?てことは……まさか……唯さ……ん?
「………いつから姉弟が恋人になったんだよ。」
………姉弟?ってことは………義姉さん(私って気が早すぎ)!?やっぱりお姉さんって言った方がいいね。
「まぁいわゆるアメリカンジョークってやつ?」
お姉さんは陽さんから離れるとまた戻ってきた。
「てかさっきから我慢してたんだけどぉ、」
そして私の頬をつっついた。
「ヤッバ、めっちゃ可愛いんだけど!!陽、あんたいつからこんなに可愛い娘連れてきたのよ!!」
陽さんは溜息をついている。やたらとハイテンションな感じ、翔太郎君と似てるなぁ………。
「どうも〜、姉の光でーす!!」
光さんは外見とは裏腹にテンションはかなり高め。でもさっき陽さんに聞いたところでは珍しいらしい。なんたってこの姉弟、三年近く会ってなかったらしい。そりゃあテンションも上がるよ。
「ごめんね〜、勉強の邪魔しちゃって。」
「いえ、気にしないで下さい。」
ていうかさっきから気になるのは光さんが私を抱えながら話している事。いくら可愛いと言われても流石にこれは……
「………姉貴、放してやれよ。」
「え〜、だって抱き心地よくない?」
「………何故俺に同意を求める?」
「だって抱いたことくらいあるでしょ?」
「なっ、ないですよ!!」
「………皆無だ。」
「嘘だー!!あんたそこまで奥手だったの!?」
「………いや、そういう問題じゃなくて。」
「べっ、別に私と陽さんはそんな関係じゃ無いですよ!!」
「え〜、今流行りのプラトニックってやつ?まだまだ若いわねぇ。」
「………はぁ。」
陽さんは諦めたらしい。光さんは意外と強敵らしい。
「………ところでいつ帰ってきたんだ?」
「昨日の夜よ。」
「………何で?」
「仕事の関係でね。私だって忙しいのよ?」
「………そうは見えないが?」
「うるさいわねぇ!!ウチの会社で佐倉光を知らない人はいないのよ?」
「凄いんですね。」
「でしょ〜?咲羅ちゃんもっと褒めて〜。」
「………図に乗るな。」
悪態をついてはいたけど、陽さんもどこか嬉しそうだった。
「ところで陽。お願いがあるんだけど。」
「………何だ?」
「一週間ここに泊めてくれない?」
「…………はぁ!?」
………波乱が起きそう。