第二話 其ノ二
私は今真剣にメモしている。なぜって仕事を覚えるため。確かに簡単な作業だけどこういうのは基本が大事だからね。そんな時、扉が開いた。
『第二話:同居人 side S』
「………またか。」
微かに陽さんが発した言葉、多分無意識だと思う。その人物は沢渡 龍太さん。ここで一つ疑問が。何で翔太郎君の友達って皆かっこいいのよ?ここだけホストみたい!!でも皆キャラは違うんだ。
「ねぇねぇ咲羅ちゃん。」
「なんですか?」
「……アイツと仲良くしてやってね。」
驚いた。さっきまでゆるゆるな顔をしていた龍太さんが凄い真剣な顔をしていたのだ。
「アイツはね、普段『別に』とか『はいはい』とか、冷めた感じだけど、昔はそこまでじゃなかったんだ。」
「えっ、それって……」
「……アイツは重い過去を背負って生きている。時が来ればもしかしたらアイツの口から話してくれるかもしれない。」
「…………」
「出来たらアイツといるときは笑顔でいて欲しい。………迷惑かな?」
「……いえ、わかりました。」
「……ありがとう。」
そう言ってまたゆるゆるな笑顔に戻った。
「あっ、いじる分には全然構わないから。」
………さっきまでの重い話しはどこ吹く風といったところである。
龍太さんは出されたコーヒーを飲んだら直ぐに帰っていった。
九時になった時、陽さんが食事を作ってくれると言う。普段は自分で作るのが主流だけど、人に作ってもらうのってなんかいいね。気分が乗ってきたので手伝うことに。私の手際の良さに
「………へぇ。」
と、なんか少し誉められた気がして調子に乗ってサラダまで作ってしまった。
食事中。陽さんにさっきの話しは何なのか聞かれた。とりあえずはぐらかしたけど、大丈夫かな?
食後には部屋決めをした。といっても部屋は二つだけだったんだけどね。
まだ荷物が届いてないということで、陽さんがベットを貸してくれた。その時の台詞がめちゃくちゃ紳士っぽかった。思わず固まってしまった。
一度ここの簡単な間取りを聞いた。先ずは喫茶店の入り口。ここが私達の入り口でもある。ポストは扉の右に付いていて、中に入れると筒を伝ってキッチンに届くらしい。なんでも翔太郎君の伯父さんが面倒という理由で改造したらしい。
入り口を開けて中に入ると螺旋階段になっていて下に降りるとホールが広がる。
右手側にはカウンター、その右奥にキッチンがある。ご飯とかも基本ここで作ってるらしい。
左手側にはテーブルとソファが多数並んでいる。ソファの色は黒で統一、テーブルの色はカウンター含めてコゲ茶で統一されている。
真っ直ぐ奥に進むと左手に広めの部屋がある。昔伯父さんたちが使ってた部屋らしい。今は飲み会とかでたまに使われてるらしい。右手には階段があり、そこを上がると扉が二つ。ここが私達の部屋になる。部屋は結構広く十畳くらいはある。
「……簡単に話すとこんなかんじ。質問は?」
「トイレとお風呂は?」
「あぁ……トイレは君の部屋の隣、お風呂は二階だ。」
「二階って………ありましたっけ?」
「………一階の廊下の突き当たりの左側に階段がある。」
「見に行ってもいいですか?」
「いいけど……少し驚くよ。」
驚く?お風呂で?疑問に感じつつ階段を上がる。
驚いた。天井が無い。
「……周りに高いビルは無いから見られることはないよ。」
「………」
「………どうかした?」
「星が……綺麗。」
「……湯船につかりながら見ると気持ちいいよ。」
「すっごいじゃないですか!!これも伯父さんが作ったんですか?」
「………らしい。」
感動した。久しぶりに。天然のプラネタリウムだよ、これ。凄すぎて絶句しちゃったよ。
早速入らせてもらうことにした。言ってた通りめっちゃ気持ちいい!!ふと横にはビールの空き缶。お風呂中にビールを飲むとは………いい趣味してるわ。次は私も持ってこよ〜。
「お先で〜す。」
お風呂から上がると陽さんはパソコンをしながら煙草を吸ってた。ホントにかなりかっこいい。
「何してるんですか?」
「………」
「別に、は無しですよ。」
「……教育実習があるんだ。それの内容の確認。」
「陽さんって教師目指してるんですか?」
「………まぁ。」
「どこですか?実習の場所。」
「……さぁ、まだ決まらないらしい。」
「じゃあ勉強でも教えて貰おうかな?」
「………暇ならな。」
「やった〜。ついでにビール飲んでいいですか?」
「あぁ………あ?」
カシュッ!!
ゴクッ、ゴクッ……
「ぷはぁ、お風呂上がりはやっぱりこれで……あぁ!!私のビール〜。」
「………仮にも教師を目指してる人の前で堂々と飲むとはな。」
「まぁまぁ、堅いこと言わずに………よっ、ほっ、」
…届かない。陽さんは185cmくらいあるらしい。私は160cm。ジャンプしても中々届かない。
「お願いします、今日だけ見逃して〜。」
「………はぁ。」
観念したのか私に缶を渡して自分も冷蔵庫からビールを取り出す。
「じゃあ私の引っ越し祝いに乾杯!!」
「………乾杯。」
でもさすがに二本目は駄目だった。