第二十話 其ノ一
本編ではようやく二十話です。展開が遅い気もしますが気のせいでしょう。そういうことにしておいて下さい。
毎度の作者の戯言はさておき本編をどうぞ。
咲羅の衣装には参った。激しく参った。隣にいるのだが直視出来ない。不覚にも動揺してしまった俺はいつの間にか校庭に連れてかれてる事にも気付かなかった。………不覚過ぎるだろ、俺。何時からこんなに情けなくなってしまったのか………勿論、咲羅が来てからだろうな。
『第二十話:波乱の学園祭 最終幕 side Y』
咲羅は着替えの為に行ってしまった。………説明?何の説明だ?
「ほい、これ陽のな。」
「?」
渡されたのは………服。少し薄めの生地の……スポーツ用みたいな。
「………なんだこれは?」
「……まだ咲羅から聞いてなかったんですか?」
綾子の質問にも俺は『?』を浮かべるしかなかった。
「お前はこれから俺達とフットサルをやるんだよ。」
「………はぁ?」
なんだ?なんで俺がフットサルをしなきゃならないんだ?てか強制なのか?
そんな事を考えてたら制服に着替えてきた咲羅が戻ってきた。
「………どういうことだ?」
「だって、綾子が困ってたし………」
「………だから勝手に決めたのか?」
「……ぐすっ………」
「………同じ手はくわないぞ。」
「いいじゃん、いいじゃん!!やってやってやって!!」
「………逆ギレかよ。」
「出てくれないと店の衣装、あれにしようかなぁ?」
「………それは止めろ。」
「じゃあよろしくお願いします。」
「………はぁ。」
俺はどうあがいても咲羅には勝てないらしい。仕方なく着替える。なぜ周囲の人間が殺気を放っているのかわからなかった。文化祭のフットサルの大会にどうしてこう熱くなるのだか。
大会が始まった。基本的には誠治が突破してくれるから俺はあまり動かなくて済んだ。少なくとも攻撃だけは。
誠治の野郎、攻めるだけ攻めて守らねぇ。綾子だけに任せておくわけにもいかずに中盤でボールをカットして戻り切れてないディフェンスの間にパスを通して誠治と綾子で得点を決める。
これがやたらツボにはまったらしく楽々決勝まで駒を進めた。途中やたらラフプレーが目立った。避けたからいいものを何故にそんなに熱くなってるんだ?負けた奴らもめちゃくちゃ悔しそうな表情をしてるし。………わからん。
決勝の相手は高校のユースの代表選手がいるらしい。………いや、無理だろ。
「陽さ〜ん、頑張って〜!!勝たなきゃ店の衣装あれにするよ〜!!」
………なんとしてでも勝たなければ。
ホイッスルが鳴ってキックオフ。
ちなみにこの変則フットサル、キーパーはいなくて、ディフェンスだけで上手く守らなければならない。相手はゆっくりとボールを回す。全くと言っていいほどスキがない。……どうするか。向こうのシュートを上手くトラップして切り込む。一人抜いたが前からダブルチームでかかってきた。……狙い通りだ。俺は抜くふりをして綾子にバックパス。綾子はワンタッチで二人の頭の上をふわりと浮かせるパスを出した。フットサルに基本、オフサイドはない。綺麗に通ったパスを誠治が上手く決める。先程俺が抜いた奴がゴール前まで戻ってきたが間に合わなかった。
一点を取ったものの、やはり若さとは素晴らしく、鮮やかなミドルシュートで同点となってしまった。綾子も上手くシュートコースを削ったが、弧を描いたボールはネットを揺らした。
膠着状態が続き、終了間際。俺は最後の賭けでハーフラインからループシュートをうった。ふわりと浮かんだボールはポストと相手の頭のちょうど間を通りゴール内に転がった。2対1。接戦を制した俺達が優勝した。
『おめでとうございます。こちらが優勝商品です。』
………そういうことか。やっと理解できた。皆が必死にフットサルをしていた理由が。
「ほい、じゃあこれが陽達のな。」
「…………俺、達?」
「陽さんありがとうございました。じゃあ私達はまたフットサルしてきますんで。」
誠治と綾子はまた走って行った。………俺達って何だ?
「おめでとうございます、陽さん。」
「…………ありがと。」
「ところで商品は?」
「………知ってたのか?」
「まっ、まさか〜、今、ほんの今知りました。」
………知ってたな。
「そっ、そんなことより中開けて見ましょうよ。」
「………あぁ。」
封を開けて中身を取り出すと………旅行券?
「あっ、温泉旅行じゃないですか。」
「………知ってたな。」
「まっ、まさか〜!!今、今知りました!!」
…………絶対知ってたな。