第十九話 其ノ一
学園祭から一週間。俺は自宅の前で待たされている。咲羅は既に学校に行った。早く行くなら一人で食事すればいいのにわざわざ俺を起こしてきた。朝五時は少々つらい。すると待たしていた人物がやってきた。
『第十九話:波乱の学園祭 第二幕 side Y』
「お〜、待った?」
「………かなり。」
「だってさぁ、栞が……」
「へぇ、人のせいにするんだ。『あと五分』とか漫画みたいな台詞を吐いておきながら私のせいにするんだ。」
「ごめんなさい!!」
………翔太郎の土下座の速度は日本一と化している。俗に言う『かかあ天下』なるものだ。まぁ自己責任だが。
「ごめんなさいね、じゃあ行きましょうか。」
「………あぁ。」
こうして三人で歩いていった。因みに最近出会わない誠治、愁、特に龍太について話そうと思う。
誠治と愁は多分文化祭に行くと言っていた。誠治はともかく愁があそこまで絵美にハマるとは思わなかった。
龍太は夏休み、補構を受けていたのだが、留学と引き換えに免除されるということで今はヨーロッパを渡り歩いている。この前きた絵葉書にはオランダにいると書いてあった。帰ってくるのは来年の春らしい。
そうこうしているうちに学校の前まで来た。
「お〜!!懐かしの我が母校!!」
「五月蠅いわよ、翔太郎。」
「…………ほんとだよ。」
「いいじゃないか、ホントのことだし。じゃあとりあえず朝井さんのとこでもいくか?」
「………お前にしてはまともだな。」
「雪でも降るのかしら?」
「俺にだって年上を敬う気持ちくらいあるのさ。さぁ、職員室へレッツゴー!!」
「………よくあんなのと一緒にいられるな。」
「要は慣れよ。」
………凄いな。
職員室での簡単な挨拶を終えて俺達は咲羅達がやってると聞いたダーツバー風喫茶へ向かった。
――職員室にて――
「朝井さん久しぶり!!」
「おっ……なんだ翔太郎か。」
「なんだとは酷くない?折角可愛い教え子が三人で来たのに。」
「よく来たな、陽と栞。」
「………うす。」
「元気そうね。」
「元気が無きゃ授業できねぇからなぁ。」
「ねぇ、俺無視?無視?」
「………五月蠅い。」
「そういやさっき誠治が来たぞ。」
「………何か言ってた?」
「校庭でフットサルの鬼になってくるっていってたな。」
「………やれやれ。」
「じゃあそろそろ行きましょうか。朝井先生またね。」
「おぅ、翔太郎以外は大歓迎だ。」
「訴えてやる!!」
見事に無視され、テンションの低い翔太郎をよそに俺達は三年D組に着いた。扉を開けると………
「いらっしゃ……あっ、陽さん!!」
「あらあら。」
栞があらあらと言うのもわかる。たった今話しかけてきた咲羅の衣装だ。俺の口からは表現出来ない。翔太郎のテンションが上がる。
「咲羅ちゃん可愛ー!!」
「そっ、そうですか?」
咲羅は満更でも無さそうな顔で頭を掻いている。そしてこちらを向く。反射的に顔を背けてしまった。何故か直視してはいけないような気がしたからだ。
「似合って……ますか?」
「………別に。」
……何故か咲羅含めて三人が俺の方を見て笑いを堪えている。
「クックックッ、陽君は純情ですなぁ。」
「…………翔太郎、何が言いたい。」
「陽君の顔、真っ赤よ。」
「陽さん可愛い。」
「…………」
………いじめられた。精神的にまいるな、こりゃ。そこにまた厄介な奴が来た。
「真っ赤なお顔の〜陽くんは〜いっつもみ〜ん〜な〜の〜人気者〜。」
「あっ、愁さん。絵美呼びますか?」
「頼んだ。」
「………その前に死ぬか?」
「やだな〜ジョーク、ジョーク。」
「………笑えないな。」
いきなり歌いながら登場した愁。というか愁はこんなキャラではない。よく見れば俺の後ろからカンペを出している翔太郎を発見した。勿論、磔。栞は呑気に紅茶を飲んでいる。
「陽さん、陽さん。」
「………何だ?」
「後で一緒に回りましょうよ。」
「………またか?」
「ちょっとだけでいいから!!」
「………少しだけな。」
「わかりました〜!!」
何故かやたら機嫌の良い咲羅。この時の俺は知らなかった。咲羅の仕掛けた罠に。