第十八話 其ノ二
陽さんと手を繋いで歩くなんて……周りの女性が知ったら私はどうなっちゃうのかしら?確実に袋叩きね。でも変装したからって陽さんだって判んないようじゃまだまだ甘いね!!その点私は………どうかな?意外と難しいかも。
『第十八話:波乱の学園祭 後編 side S』
名前を呼ぼうとしたらおもいっきり口を塞がれた。恥ずかしいのと息が出来ないのがダブルパンチになって私の顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。まぁ陽さんが慌てるのも無理はないけど。だって変装した意味がなくなるしね。とりあえず呼び名を決めようととっさに出た『よっちゃん』だったけどこりゃマズイ!!かなりマズイ!!だって………元彼のあだ名なんて………。
何とかうまいこと誤魔化して、今日は『サク』に決定した。なんか陽さんに呼び捨てってなんかいいかも。
「サク、あれ欲しい!!」
「………あれって……熊?」
「めっちゃ欲しいんだけど!!」
「………取ればいいじゃないか。」
「私、射的とかそういうの苦手なんです。」
「………明らかに邪魔になるだろ?」
「取ってくれなかったらバラしますよ。」
「………はぁ。」
陽さんは店員から射的用の銃を渡してもらい、狙いをつける。よくいるギリギリまで的に近付けることはしないで片手で照準を合わせてトリガーを引く。
スパンッ!!パコンッ!!
小気味よい音が二回。コルク栓は『クマ』と書かれた札を見事に叩き落とした。………一回で取っちゃうなんて。
「………ほら。」
ぼ〜っとしていた私にクマのヌイグルミを渡そうとする陽さん。
「持ってて。」
「………は?」
「だって重そうだし。」
「………いや、取れって言ったのはそっちじゃ」
「皆さん!!ここになんと!!あの陽さ」
「………わかったよ。」
しかしクマと陽さんって意外な組み合わせが妙に面白い。私にたこ焼きはまるっきり当てはまるけど。とりあえず陽さんは何も食べてないと思ってたこ焼きを口に運ぶ。拒否したけど私の迫真の演技に渋々食べた。口を開けたときが意外と可愛くて、私はまた上機嫌。
最近は陽さんの扱いに慣れた様な気がする。ペースを握るのって面白い。……陽さんのペース巻き込まれるのもいいけど。
既に陽さんの左手と背中はヌイグルミで覆われた感がある。右手には私の左手。……私もヌイグルミと同じ扱い?
やけにひとだかりが多い所を発見した。中心には翔太郎君。何をしているのか見てみたら………陽さんグッズ?結構な売れ行きらしく、翔太郎君は終始ニヤけている。不機嫌な陽さんはおいといて、写真を買おうとしたら………後ろから恐ろしい程のオーラが。小さい子供が見たら泣き出しそうな感じ。とっさに買うのを止めて、他を回った。
一通り回ったので休憩。陽さんの背中にはヌイグルミが追加。ヌイグルミが羨ましい。あんなに陽さんに抱きついて!!……ヌイグルミに嫉妬する私って。
「………なぁ。」
「はい?」
「………何でさっき俺の写真を買おうとしてた?」
「………ノリ?」
ノリなわけないじゃない!!何で少し納得してるの?まるでウケを狙ったみたいになってるし!!……もしかして……天然さん?まさかねぇ。
そりゃ写真の一枚だって欲しいわよ。まぁいつも顔を合わせてるんだから生意気言うな!!とか言われそうだけど……やっぱり陽さんの心の中には唯さんっていう私の知らない人がいて………そう考えると腹立たしくなった。……おっとわすれてた。
「来週はウチの文化祭ですからね。」
「………行かなきゃ……だめか?」
「駄目です。」
「………はぁ。」
満面の笑みで返事をして無理矢理了承させた。主導権はもう私が支配してる?それとも掌で踊らされている?………どっちでもいいや。今、こうして陽さんと話してられることが幸せだから………。