第十六話 其ノ一
いつのまにか30越え。作中ではまだ15話しか進んでいませんがこれからも読んで頂けたらと思っております。区切りよく新しい話になったことに驚いている作者でした。では本編をどうぞ。
夏なんて本当にあっと言う間に過ぎ去ってしまう。今年は結局咲羅の勉強に殆んどを費やした気がする。……しかしあいつの目標大学がウチの大学でしかも教育学部とは………受かったら毎日一緒に登校ってことか!?………教えるの止めようかな。
『第十六話:波乱の学園祭 開幕前 side Y』
最近のウチの大学は学園祭の準備で盛り上がっている。学園祭のシーズンになると憂鬱になってくる。理由は俺の前方で呑気に手を振ってこっちに向かってくる奴のせいである。
「お〜い、元気してる?」
「………翔太郎がいなければもっと元気だが。」
「おいおい、そりゃないぜ!!折角こっちの学部にまで顔を出したんだからよ。」
「………で、何の用だ?」
「いやぁ、学園祭だねぇ。」
「………そうだな。」
「いやぁ、学園祭だねぇ。」
「………そうだな。」
「いやぁ、学園さ」
「………用件は?」
「え〜っと………今年も陽のグッズを」
「………売ろうかな、なんて考えてないよな?」
「…………」
「………図星かよ。」
一昨年から翔太郎は人の写真だの何だのを売り捌いていた。勿論無許可である。いや、許可はとりにきたが、俺が断固拒否した。しかし勝手に売り捌いて、その金で打ち上げをしていた。知らなかったとはいえ、不覚にもその金で酒を飲んだ俺も甘かったが……
「………人で金儲けするのはいい加減止めたらどうだ?」
「馬鹿!!一番売り上げがいいんだぞ!!」
………自慢するな。
「それに今年は色々な表情の陽が撮れたからな、こりゃ売れるぞ!!」
「…………止めても無駄なんだろ?」
一度止めに入ったが、その度に新しい場所でやる。三年目の今年はもう諦めた。
「その通り!!この日を待ちわびてる人は少なくないのだよ。」
「…………はぁ。」
更に大変なのはその後、俺を見つけた奴らが寄ってくること。確実に無視しているが。
「あっ、今年は咲羅ちゃんたち来るかな?」
「………さぁ?」
「ふ〜ん(今日でも聞いてみようかな?)。じゃあ俺は製作活動しなきゃならないから戻るわ。」
「………変なの作ったら承知しないぞ。」
「わかってる!!」
そう言って翔太郎は走り去った。売る方も買う方もおかしいのではないか?
「行きます!!何が何でも行きます!!」
咲羅は即答した。何をそんなに気合いを入れてるのかは知らないが。
「咲羅ちゃんの所は文化祭はいつ?」
「え〜っと、丁度そっちが終わった三日後です。」
「………そっちの準備はいいのか?」
「適当に他に任せます!!」
………無責任だな。すると付け加えるように咲羅が言った。
「陽さん案内よろしくお願いします。」
「……ああ、わかっ……はっ?」
「だって私、そこまでそっちの大学詳しくないんですもん。」
「………第一志望なのにか?」
「そっ、そうですよ!!だから案内を……ねっ?」
………上目使いには勝てない。先程の気合いのいれようはこれが狙いか。………そんなに目をキラキラさせるな。と、横から翔太郎が口を挟む。
「でも、危険だよ。」
「何がですか?」
「キャンパス内には陽のファンが沢山いるから二人でいたら襲われるかも。」
「………原因はお前だがな。」
「それは言わないお約束だろ?」
「………はぁ。」
「大丈夫ですよ!!いざとなったら陽さんが助けてくれるはずですから。」
「………どこからそんな確信を……」
「気にしない、気にしない。わ〜楽しみだなぁ。」
俺としては全然楽しみではないのだが、なんて言っても聞いてないだろうし。カップを拭きながらまたため息を吐いた。
「あっ、ウチの文化祭にも来て下さいね。」
「…………何故?」
「いやいや、一回教師をした場所なんだから生徒の行く末を見届けてもらわないと。」
「………行ってもいいが一緒に回らないぞ。」
「え〜!!」
「………当たり前だ。」
「わかりました。じゃあ私が勝手に後ろからついて行きますから。」
「………はぁ。」
………こりゃあ考えもんだな。しかし行かないと何をされるかわからないし………行くも地獄、戻るも地獄、か。