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第十五話 其ノ一

海に行ってから早くも一ヶ月が経とうとしていた。夏休みなんてものはあっという間に過ぎてゆく。

俺は海の時に言われた告白をまだ少しだけ引きずっていた。本人は酔ってたから何を言ったかわからないと言っていたが、本当の所はどうなんだろう。………胸にモヤがかかったような変な感じだ。



『第十五話:思わぬ帰省者との出逢い side Y』



夏休みの後半は基本的に店は閉めている。理由は客が少ないからだ。夏休みの為に旅行だの何だの理由は様々だろう。俺と咲羅は例の如く勉強に励む。


「暑いですねぇ。」

「………全くだ。」


暑さのせいか会話もだらけている。それもこれもクーラーが壊れて修理まで一週間もかかるせいだ。


「も〜っ!!何でこのタイミングで壊れるのよ!!」

「………どっかの誰かが出力最大で放置してたせいだな。」

「うっ!!……だって〜。」

「………ほら、文句言わずに手を動かせ。」

「陽さんの鬼!!悪魔!!」


咲羅がブーブー文句を言っていると店の扉が開いた。

そこに立っていたのは知らない男女。

男はスーツ姿でオールバック、少し髭を生やしたダンディな方だ。

女は男とは違いジーンズにタンクトップというラフな服装、スタイルがよくて美人である。今のはあくまで一般論、つまり客観的視点なのであしからず。そんな美男美女がウチの店に何の用だ?しかも何故か笑ってるし。


「お父さん!!お母さん!!」

「…………はぁ!?」


にこやかに降りてくる咲羅の両親。俺は硬直していた。


「久しぶりね、咲羅。」

「背が伸びたんじゃないか?」

「久しぶりだね、二人とも元気にしてた?」

「久しぶりに新婚に戻ったみたいだったぞ。なぁ咲希(さき)?」

「そうかしら?」

「いやいや、そこ認めようよ。」

「………二人とも相変わらずで。」


………全くついていけない俺はただ座っているだけだった。


「ところで咲羅。ルームメイトの陽さんってどんな人?」


母親の問いに咲羅は何故か

「しまった!!」

みたいな顔をしている。………嫌な予感。


「………え〜っと、陽さん……です。」


沈黙。空気が重い。本当なら今すぐにでも飛び出していきたい気分。


「………陽さんって……男性よね?」

「…………はい。」

……やばい。父親はなんか震えてるよ。まさかこんなとこで俺は生涯を終えてしまうのか!?そんなことを考えていると父親が口を開いた。


「……凄いぞ、咲羅!!」


「「はっ?」」


俺と咲羅が声を出したのはほぼ同時だった。


「咲羅はお父さんの知らないうちにこんなカッコいい男性と大人の階段を登っていたのか!!」

「いやいや、大人の階段なんて登ってないし!!てかお父さん怒らないの?」

「何を?」

「何をって………その、男の人と……一つ屋根の下で暮らすこと。」


咲羅の言うことは当たり前だ。しかし咲羅の母親はさも当然の如くサラッと言う。


「変わった人だから。」


………変わりすぎだ。




「改めて、はじめまして。咲羅の父親の(けん)です。」

「咲羅の母親の咲希です。」

「……佐倉 陽です。」


しかし咲希さんが咲羅の母親だとは……一体いくつだ?どう見たって二十代だろ。


「陽さん、二、三質問してもよろしいかしら?」

「……どうぞ。」

「咲羅と何処まで行きました?」


手に持っていたグラスを危うく落としかけた。咲希さんはサラッと危険なことばかりついてくる


「………何処までというと?」

「もちろん男女の中ですわ。」

「お母さん!!私達はそんな関係じゃないし!!」

「じゃあまさかセフ」

「……断固として違います。」


危ない。危うく放送禁止用語が飛び出してしまうところだった。


「じゃあ質問を変えて。キス位はしたかしら?」

「………質問の内容があまり変わってない気が。」



この後の質問は全てそっちの系統のものだった。咲羅の両親は変な人達だった。予想以上に。




「……家族での話もあるでしょうから、少し席を外します。」

「陽さんそんなに気をつかわないでもいいですよ。」

「いいじゃないか、咲羅。陽君がそう言ってくれてるんだから。」

「ごめんなさいね、陽さん。」

「………お気になさらずごゆっくりどうぞ。」


席を外して、俺は久しぶりに『ある場所』へ向かった。多分咲羅が少し羨ましかったのかもしれない。『家族』というものが。時期はお盆。丁度いいだろう。




帰ってきたのは夕方過ぎ。咲羅達は盛り上がっている。


「ハハハ。……じゃあそろそろ帰るか、咲希。」

「そうね。」

「え〜っ、もう帰っちゃうの?」

「日帰り旅行だからな。飛行機の時間もあるし。あっ、陽君。」

「……はい、何でしょう。」

「咲羅の事をよろしくお願いします。」


賢さんからの真面目なお願いに驚き(これはこれで失礼)、それでも俺は答えた。


「………わかりました。責任持ってお預かり致します。」

「ちゃんとする時はゴムつけるのよ。」


最後まで咲希さんは方向性がおかしかった。というか変な両親だった。咲羅は案外まともなのかもしれない。


「………なぁ。」

「何ですか?」

「………変わって両親だな。」

「ま、まぁ。」


そこで何故か曖昧な返事をする咲羅。不思議だ。………不思議と言えばもう一つ。


「…………お母さんおいくつ?」

「えっ?確か36ですよ。」


逆算すると咲羅は18の時の子供………。すげぇ。

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