第十四話 其ノ一
何を隠そう俺は今不機嫌だ。当然と言えば当然だ。それはそうだろう、誰だって彼女とデートの写真をいきなり撮られて友人達に出回ってたらキレて当然だ。俺にしては女性にクリームを塗るなんて、そのレベルを圧倒的に上回っている。………後が怖い。
『第十四話:お約束?海パニックの延長戦 side Y』
空も段々と赤から藍色へと変化していく。先程の罰として愁と誠治に夕食の準備を命じて俺は一人砂浜に立って海を眺めていた。煙草に火をつける。紫煙は藍色の空へ混ざり消えてゆく。
「ど〜ん!!」
ぼふっ!!
後ろからの衝撃にそのまま砂浜に倒れこんでしまった。煙草は………見事に砂で消火されている。うつ伏せ状態の俺の上に乗っているのは………まぁわかるだろう。
「何ぼーっとしてるんですか?もうすぐバーベキューですよ。」
「…………とりあえず降りろ。」
「へっ!?………ごめんなさい!!」
慌てて降りる咲羅。俺は体にまとわりつく砂を払いながらそのまま座った。咲羅も隣に座る。
「あの……ごめんなさい。」
「………」
「怒って………ます?」
「…………別に。」
「………怒ってるし。」
しばらく沈黙は続く。確かに少しは怒ってるかもしれない。実行犯が咲羅だったことに。しかし俺にも非があるからそこまで怒りきれない。
「機嫌直して下さいよ〜。」
困った顔で俺に訴えかけてくる咲羅。
「………どうしようかな。」
少々困らせてみたくて、わざと不機嫌そうに言った。
「………わかりました。」
はて………何がわかったのか。
同時に頬に柔らかな感触。少し熱を帯ている。触れたのは………咲羅の唇。僅かな時間だが、時が止まったような気がした。唇を離して咲羅は微笑む。顔は赤い。
「これで機嫌直してください。ほら、バーベキュー始まりますよ!!」
咲羅は立ち上がり皆が待つ場所へ駆けていった。残された俺はそっと頬に触れた。頬の熱は伝染して俺の全身を熱くさせた。
食事の後は花火もしたが、量はそこまでなかったので直ぐに無くなった。
食事中、運転してきた為に俺と誠治は酒が飲めずに、代わりに愁達が飲み会を開いていた。ちなみに俺は教師を目指しているわけで、未成年に酒を飲ませるのはどうかと思うのだが、よくよく考えてみると俺らも飲んでたからおあいこだろう。誠治と俺はウーロン茶で済ませた。………帰ってから飲もうと心に誓った。
帰り道の運転中。誠治達は先に車を走らせていた。俺の車はそこまで速くない。スポーツカーには勝てないだろ。酒の入った後ろの二人は既に夢の中。………羨ましい限りだ。手なんか繋いで……。
咲羅の方に視線を向けるとコックリ、コックリしながら眠気と闘っている。見ていて面白いが、少々酷だと思う。朝四時過ぎから起きているのだ。眠いのだろう。
「………寝てもいいぞ。」
「………寝ませんよ!!」
「………起こしてやるから大丈夫だよ。」
「い〜え!!絶対寝ません!!」
「………何で?」
「だって!!陽さんが運転してるのに私が寝るなんて失礼です!!」
「………」
「ただでさえ泳げないのに海に無理矢理連れて行っておまけに運転までさせて、お酒も飲めないなんて可哀想じゃないですか!!」
「…………気にするな。」
「でもっ!!」
「………ゆっくり眠りな。」
咲羅の頭を撫でるとまるで魔法がかかったかのように咲羅の目は閉じていった。……咲羅は咲羅なりに気を使ってるんだな。自然と笑みが溢れながら、車は高速を走っていく。
家に着いたのは日付が変わる前だった。
後ろの二人を家に送り、車をガレージにしまう。まだ寝ている咲羅を抱えて咲羅の部屋のベッドへ連れていき、ゆっくりと降ろす。寝息を立てて寝ている咲羅は綺麗だった。頭を撫でてからホールまで戻り、冷蔵庫からビールを取りだし、適当につまみを探して椅子に座る。ビールを飲みながら音楽をかけていると咲羅が起きてきた。
「あ〜っ!!ズルイ!!私に隠れてお酒飲んでる!!」
「…………いや、別に隠しては…」
「おともします!!」
俺の隣に座り、お酌をしてくれる咲羅。そして自分も飲んでいる。
しばらく飲んでから俺は聞いてみることにした。
「………なぁ。」
「なんですか?」
枝豆を口に放りながら答える咲羅。
「………どうしてあの時キスを?」
少し考えた後から咲羅は呟いた。
「…………で…よ。」
「…………え?」
「そんなの………好きだからですよ。」