第十二話 其ノ一
「お迎えご苦労様〜。」
愁を乗せて、アクセルを踏む。先程絵美を拾って、やっと海に行くことになる。幸いにも渋滞はしていない。時間が早いから。ていうかコイツらうるさいな………。
『第十二話:お約束?海パニックの中編 side S』
「そ〜いえば。」
「どうしたんですか、愁さん?」
後ろでは絵美と愁が話している。咲羅も体を傾けて後ろを向いている。
「この車の助手席に女の子が座ったのって初めてじゃないの、陽?」
………なんつー余計な事を喋りやがるんだ、この馬鹿は。その言葉に目をキラキラと輝かせている咲羅。敢えて視線を外しまくる。運転できるギリギリまで。
「そ〜なんですか!?いや〜私ったらなんて幸運な女の子なんでしょ!!じゃあこれからは私専用の席ですね!!」
「…………何故?」
「やだな〜、そんなに照れなくてもいいじゃないですか〜!!」
「………別に。」
「陽さん、顔が赤いですよ。」
絵美のいらんツッコミに爆笑の二人。地獄だ、地獄絵図だ。元来俺はいじられるキャラではなかったはずなのだが………最近いいように扱われてる気がする。
俺が頭の中で愚痴をこぼしている間に車は最寄りのパーキングに着いた。一応ここで誠治と待ち合わせをしている。
「お〜い!!コッチコッチ!!」
誠治と綾子は既に到着していた。アイツらも早いな。
誠治の車は真っ赤なスポーツカーである。ローンで何回払いかわからないくらい分割したらしい。本人曰くあと四、五年かかるらしい………誠治も大変だ。
「さて、皆あつまったし行くかぁ!!」
「「お〜!!」」
誠治の一言に俺を除いた全員が答えた。
海に着いたのはまだ九時過ぎだった。多少先客はいるが、気にせずにパラソルを立てる誠治。海に似合う焼けた肌が更に焦げる。既に奴は海パンだ。俺と愁はTシャツを上に着ている。特に泳ぐわけではない俺は海パンでなくてもいいのだが、無理矢理買いに行かされた。その時に咲羅も水着を買ったらしいが、
『楽しみは後にとっといて下さいよ。』
と言われた。………楽しみか?
裸足で砂浜を歩く。焼けた砂は予想以上に熱く、すぐさまシートの上に逃げ込んだ。
仰向けに寝転がる。誠治は何処からか椅子を持ってきた。ビーチでよくみる寝転がれる椅子だ。愁はイルカかシャチかわからない物体にポンプで空気を入れている。と、視界が少々暗くなる。そのまま背を反らせて後ろを見る。見事に逆になった視界。その中心にはタオルをすっぽりかぶった逆咲羅がいた。頭に血がのぼる。丁度いい。下半身に血が流れるより全然いい。
「見たい?」
「………別に。」
「言うと思った。全く素直じゃないねぇ。」
「………いたって素直だが?」
「むぅ、その余裕剥ぎ取ってくれるわ!!とうっ!!」
バスタオルが空中を舞い、俺の顔にフワリと乗る。そのままズルズルと落ちて行くタオル。視界が開けた先には水着姿の咲羅。咲羅はやたら胸を強調している。……確かにスタイルからは想像できない豊かさだが……。いかん、何を解説しているんだ。
「んふふ〜、陽さん顔が真っ赤になってますよ〜?」
「………頭に血がのぼってるからな。」
「それだけですか〜?」
やたら動き回る咲羅。止めろ。揺れている。俺の理性も揺れてしまうだろうが。
「おぉ!!咲羅ちゃんナイスバディー!!」
「ありがと〜誠治さん。あ〜あ、どっかの頭に血がのぼってる人も誉めてくれないかな〜?」
「………水着は可愛い。」
「『は』って何ですか!!かなり失礼ですよ!!」
「そうだよ、陽。咲羅ちゃんに嫌われちゃうよ。」
「………うるせぇよ、愁。」
そうこうしているうちに綾子と絵美も着替えてきた。俺が水着の説明をする奴ではないことは周知の筈だ。ご想像にお任せしよう。
「ねぇ陽さん。ビーチバレーしよ〜よ!!」
俺の隣で寝転がる咲羅が起き上がり俺の体を揺する。
「………アイツらに勝てるか?」
俺が指差す方は既に熱い闘いをしている綾子と誠治。ボールを叩く音が最早常人の域を越えている。というか昼を食べたばっかりで動きたくないのが本音だが。
「だっ、大丈夫ですよ!!」
「………じゃあなぜ声がうわずる?」
「うっ……いいじゃん!!やろうよ、やろうよ、やろうよ、やろうよ、やろうよ、やろうよ!!」
ついにキレた。……うるさいな。咲羅は俺が無視してると感じたらしい。
「ほらほら、頼みますよ〜。」
俺に抱きつく。止めろ。二の腕に何かが当たってる。これ以上されたら理性が本能にホームランされる。
「………わかったからくっつくな!!」
「やったー!!じゃ行こ〜!!」
俺の左手を両手で引っ張る。非力な咲羅では動かせない。仕方がないので体を起こし決戦の舞台へと歩き始めた。
「ハハハ、俺達のペアに敵うと思ってるのか?」
「…………いやぜんぜ」
「当たり前よ!!ウチのエースの陽さんが誠治さんを吹っ飛ばすって言ってましたよ!!」
「ほう?面白い冗談だな。」
「………」
俺は黙って睨むが咲羅は目をそらす。………仕返しだ。
「………そういえばさっき咲羅が『綾子はよく跳ぶな〜、胸が軽いいからかな?』って言ってたような………」
「さ〜く〜ら〜!!アンタ自慢してんの!?馬鹿みたいにデカいだけの癖して!!」
無言で俺を睨む咲羅。多少脚色したものの先程咲羅がこぼしてた言葉に綾子がメラメラと闘気を放つ。しかし咲羅も『馬鹿みたいにデカいだけ』にキレたらしく
「ふん、負け惜しみ?やあねぇ、貧しい子はこれだから。」
「なにぃ!?私のは形がいいのよ!!だらしないのよりましだわ!!」
「誰がだらしないのよ!!こうなったらバレーで決着よ!!」
「望む所よ!!」
俺と誠治を置き去りにして話が進む。二人共殺意を放つ。……まさかビーチバレーで死人は出ないよな?
いつのまにか審判役の愁と絵美がかき氷を食べながらフエを鳴らした。熱き女の闘いが今始まる……のか?