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第八話 其ノ二

「中元さん?」


振り向いた先には栞さんがいた。まさか栞さんも教育実習だとは思ってなかった。栞さんとの面識は一度だけ。私が陽さんの彼女だと勘違いした時だけだった。



『第八話:未だに晴れない天気と教育実習 side S』



職員室まで来たはいいけど何を話したらいいのかな?


「初めまして……じゃないわよね?」

「はっ、はい!!」

「フフッ、そんなに緊張しないでもいいわよ。なにも陽君を取ろうなんて思ってないわよ。」

「へっ!?」

「愁君に聞いちゃったのよ。咲羅ちゃん私が陽君の彼女だって思ったんだって?」

「………」


……恥ずかし!!私めっちゃ恥ずかし!!あの時を思い出すともう死ぬほど恥ずかしくなる。


「あら、赤くなっちゃって。可愛いわね、咲羅ちゃん。」

「………いえ、そんな……」

「あの『女性撃墜王』の陽君が気に入るわけね。」

「撃墜……王?なんですか、それ?」

「陽君は今まで星の数ほど告白されたけど全て断ってるのよ。で、ついたあだ名が『女性撃墜王』ってわけよ。」

「なんか……凄いですね。」

「そうね……陽君が付き合ったのは一人しかいなかったからねぇ。」

「それって………唯さん?」

「………もう聞いたの?」

「いえ、以前寝言と独り言で……あと誠治さんと龍太さんに少しだけ……あとは本人が話すのを待てって二人共言ってました……。」

「そう……それもそうね。あなたならいつか聞けると思うわ。なんたって一緒に暮らして(むぐっ!!)」

「(そっ、それは機密事項なんであんまし喋んないで下さい!!)」


とりあえず頷く栞さん。私は抑えていた口を手から解放する。


「そうだったわね、ごめんなさいね。」

「いえ、大丈夫です。人がいなかったみたいだし。」


幸いにも職員室は無人だった為に難を逃れた。



「……そういえば栞さんって翔太郎君と同棲してるんですよね?」

「そうね……もう三年かしら?」

「いつから付き合ったんですか?」

「卒業式の時かな?皆で集まってる中でいきなり『付き合って下さい!!』だったもんね、周りにいた陽君は唖然としてたし龍太君とか誠治君が吹き出してたもんね。」


クスクス笑う栞さんはとても可愛らしかった。私が男だったら一発で惚れてるよ。と、その時栞さんが扉の方に声をかけた。扉の前には陽さんが立っていた。

栞さんは陽君で遊んだ後で直ぐに授業に向かった。私も一緒に遊んだ後で栞さんについていった。なんか悪いことしたかな?




授業が終わって放課後。絵美は予備校、綾子は部活に行ってしまってとりあえず帰って開店準備をしようかな、なんて考えてると見知らぬ女子が3〜4人私の目の前に立ってるし。


「あの〜……私に何かご用でしょうか?」

「ちょっと来てくれない?」


そのまま廊下に出てった。とりあえず私もついていったけど………な〜んか嫌な予感がするんだよね〜。


「……で、アンタ佐倉センセの何?」

「なにって……なんでしょ?」

「アンタ喧嘩売ってんの!?」


いやいや、質問の意図がよくわからないからって意味だったんだけど……な〜んか聞く耳持たずってところかな?さて、どうしよう?


「アンタ何様のつもりなのよ!!」


いやいや、別に何様なんて……


「何黙ってんのよ!!ウザいんだけど!!」


えぇぇぇぇ!?有無を言わさずに話してきたから対応できなかっただけでそこでウザいとか言われても困るんですけど……てか手を振り上げてるし……もしかして殴られちゃうの?とりあえず目を瞑らなきゃ………




あれ?まだ痛くない。てか長くない?そんなに時間がかかるの?うっすらと目を開けてみると固まった女子校生達と……陽さん。


「…………おい。」



思わず私も固まってしまった。陽さんのこんな声、初めて聞いた。いつものハスキーな声ではなく絶対零度のように冷たい声。初めて陽さんに対して恐怖を覚えた。

あれ……でもよく考えてみると……これって私の為に怒ってくれてるの?………なんか嬉しいかも。

頭の中ではこんなに意識がはっきりしてるのに体は未だに固まったまま。会話が流れて女子校生達は去っていった。陽さんの表情はいつもと同じ、ちょっとだけ困った顔で


「………大丈夫か?」


と私に聞く。私は大丈夫だと伝えたいけど上手く言葉に出来ない。陽さんに頭を撫でられた時、私の目からは涙が溢れた。

――あぁ、私、怖かったんだ。多分陽さんがいなかったら、私はぶたれて更にいじめられてたかもしれない。頭ではこんなにはっきりわかってるのに………


不意に視界が真っ暗になった。顔はなにか布地のもので塞がれてる感じ。陽さんのニオイ。涙が消えてゆく。

というか何かで拭われてる?数秒後、視界が開けた。今まで私は陽さんの胸の中にいたんだ。あ〜あ、スーツに少しシミが出来ちゃったし。陽さんは周りをキョロキョロと見渡す。私は頭ではわかってるのにまだ口が動かない。で、発した言葉が『抱かれた!!』なんて………よくよく考えるとめっちゃ恥ずかし!!


家に帰って開店準備をしてる最中でもまだ恥ずかしかった。あれから結構経ってるのにね。てか、あの女子校生たちナイスだね、うん。嫉妬万歳?


「………何ガッツポーズしてんの?」

「ひょえっ!!よ……陽さん……帰ってるなら言って下さいよ!!」

「………言ったけど?」

「へっ!?あっ……あのっ………ごめんなさい。」

「………別にいいけど?……さっさと準備しない?」

「ひゃっ、ひゃい!!」






閉店後。今日は陽さんの手作りハンバーグ。焦げ目のついた焼き加減が絶妙だった。ホッペがとろけるってあるんだなぁとつくづく感心した。


「今日は帰ってくるの早かったですね?いつもの相手は?」

「………逃げてきた。」

「………お疲れ様デス。」


最近、陽さんはやけに男子生徒に追われている。

剣道部やらボクシング部やらバスケ部やらサッカー部やらなんやらかんやら。数えたらキリがないくらい。(どれもこれもプロ並にこなしてしまう陽さんも陽さんだけど………)皆、陽さんに教わりたくて毎日追い回してる始末。捕まった日は遅くなるので翔太郎君とかが手伝いに来てくれる。教師も大変だ。でも………


「ねぇ陽さん。」

「………何だ?」


食事も済んで、新聞を読みながら煙草を吸っている陽さんが顔をあげる。


「陽さんって……何で教師目指してるんですか?」


私の問いかけに陽さんは悲しそうな目をした。

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