第七話 其ノ二
ここに住み始めて一ヶ月半が経ちました。時の流れって早いんだね。梅雨はあんまし好きじゃないけど今は学校がすっごい面白いんだよね。だって……ねぇ?
『第七話:梅雨と教育実習、どちらも晴れず side S』
―二週間前―
「今日から教育実習に入るから実習生が来てるぞ!!」
朝井先生の言葉に周囲は騒然となる。期待と不安の声だ。ちなみに朝井先生は生徒にはかなりの人気がある。面倒見がいいし、受験の時にこの先生が担任とは私もついてるわ。
「俺の教え子だから優しくしてやれよ!!おい、入ってこい!!」
朝井先生の言葉に周囲が静かになる。ガラッ!!
教室の引き戸が開く。入ってきた人物に私達は思わず顔を見合わせて叫んでしまった。
だって陽さんなんだもん!!陽さんはいきなり手に持っていた資料なんかを落として顔が凍っている。額からは冷や汗がうっすら垂れてきている。
「何だ?中元と東雲と西野は佐倉の知り合いか?」
「「「はいっ!!」」」
思わず声が揃う。やっと硬直が解けた陽さんは挨拶をした。
HRも終わって女子は先生に群がった。
「センセーいくつ?」
「彼女は〜?」
「好きなタイプは〜?」
正に怒涛の攻撃である。すると女子をかきわけて私達の所に来た。
「………質問はコイツらに聞いてくれ。」
はいっ!?それじゃ私達が犠牲になるんじゃないの!!
「(………一緒に住んでる事は絶対に言うなよ。)」
いつもの声に渋味が増してしかも耳元で囁くもんだから不覚にもドキドキしてしまった。そして陽さんは逃げた。卑怯だ!!しかもいつの間にか囲まれてるし……
「(どうする?(綾))」
「(どうするって……)」
「(逃げられないわよね?(絵))」
「中元さん達は何で佐倉センセと知り合いなの?」
「えっとね、それはね、」
「ハッキリしなさいよ!!」
「私達のバイト先の店員よ!!文句ある?」
綾子の一発で周りは静かになった。しかしそのせいでまた大変な事になるとは知らなかった。夕方まで………
学校が終わって家に帰り、陽さんを待つ。帰ってきた陽さんにとりあえず一言。
「おかえりなさい、センセ♪」
「………はぁ。」
そっから仕事に入る。今日は綾子がバイトの日。最近絵美は予備校が忙しくて土日くらいしか来れない。私も受験生だから勉強しなくちゃ……と言うわけで
「お願いしますよ〜、受験生なんですから勉強教えて下さいよ〜!!」
「………考えておく。」
「センセー、コーヒーまた追加ね〜。」
綾子はせっせと働いている。
「………お前も働け。」
「………は〜い。」
いくら温厚な陽さんでもキレるかもしれないから止めておこう。
閉店になってやっと晩御飯。最近は日替わりで交代にしている。朝は私が作ってるけどね。今日は私が中華丼を作った。
「………ごめんなさい。」
「…………何が?」
「だってあの時私達が騒がなかったらここももう少し静かになってたのに………」
そう、あの時バイト先の店員なんて言ったもんだから皆に場所を聞かれて、初日から人が増えたのだ。陽さんは他の人が話しかけても聞き流してたけど。
「………気にするな。」
「でも〜………」
うつむいたままの私の頭に暖かな感触。陽さんが私の頭を撫でているのだ。
「………気にするなよ。」
その時陽さんが少し笑顔になった。私は初めて見た陽さんの笑顔に耳まで真っ赤になってたと思う。いつものクールな顔がいきなりそんな、少しだけど笑顔になるなんて………ギャップ恐るべし!!
「……わかりました。」
「………よろしい。」
「陽さん先生みた〜い!!」
「………先生なんだけど?」
御飯を食べ終わって私達は私の部屋で勉強中。私は陽さんと同じ大学に行きたい。今の私の成績じゃ厳しいけど、今の私には優秀な家庭教師がついてるもんね。
「………なぜここ?」
「やっ、やっぱり勉強は自分の部屋じゃないと集中できないじゃないですか。」
「………そうか?」
「そっ、そうですよ!!」
言えない。できるだけ近づきたかったからだなんて死んでも言えない!!恥ずかしくて死んじゃうし!!
「………一ついいか?」
「はっ、はい!!」
「………俺が社会教師を目指してるのは知ってるよな?」
「はい、もちろん!!」
「………じゃあなぜ英語?」
「やっ、やだな〜。それは聞かないお約束じゃないですか〜。」
「…………はぁ。」
「駄目………ですか?」
「…………別に。」
「じゃあお願いしま〜す!!」
「………はいはい。」
これが当初の会話。
あれから二週間が経過した今では毎日の日課になっている。
さすがにここでの暮らしがバレるとまずいのでちゃんと別々に学校に行ってるし極力普通にしようと身構えているのだが………
「………このようにイギリスの野党第一党は影の内閣、通称シャドーキャビネットと呼ばれており………」
「(咲羅、咲羅!!)」
「(ふぇ!?どうしたの綾子?)」「(咲羅また顔がニヤけてるわよ。)」
「(えっ、ウソ!!)」
「(ウソなんてつかないわよ、ねぇ絵美。)」
「(それはもう、マシュマロが溶けたみたいにユルユルの顔になっているわよ。)」
「(マジで!?)」
「………中元、静かに。」
「ひゃ、ひゃい!!」
「(咲羅、声が裏返ってるわよ。)」
「(綾子、もう遅いわよ。こりゃ相当な重症だわ。)」
まだまだ前途多難の私です………