第六話 其ノ一
なぜ急に飲み会が起きてしまったんだ?しかもまたバイトが増えた。翔太郎が休みたいのがバレバレなんだけどな………賑やかになりそうだ。
『第六話:過去と引っ越しのお手伝い side Y』
………騒ぎすぎだ。また一気しやがって。後を任される身にもなってほしいよ。呆れながら階段を上り外に出て煙草に火を付ける。
外で吸う煙草はいいもんだ。夜風も涼しく気持ちがいい。でも『アイツ』は煙草を吸うと怒ってたっけ………
「煙草って美味しいですか?」
いきなり声をかけられてびっくりした。振り向くと咲羅が立っていた。
「…………別に。」
「クスクス。」
「………何がおかしい?」
「だって好きだから吸ってるのに矛盾してますよ。」
「………そうか?」
「そうですよ。」
そう言って俺の横に座る。煙草の火を消してしばらく黙っていると咲羅が何かいいたげだった。
「あっ、あの!!」
「………何?」
「………なんでもないです。」
「………そうか?」
「………はい。」
「………じゃあ中に入るか。」
「はい。」
咲羅は何をいいたかったんだろうか?わからないまま中に入った。
そろそろ迎えにきてもらうか。俺は携帯から栞の番号を押した。
『どうしたの?』
「………お前の彼氏を迎えに来てくれ。」
『……また飲んだの?』
「……久しぶりに五人で集まったからな。」
『珍しいこともあるわね。わかった、車で行くから10分くらいね。』
「……あぁ、頼んだ。じゃあな。」
「誰と電話してたんですか?」
咲羅が聞いてきた。昨日、今日でやられっぱなしなのでここらで軽くはめてやろうと企てた。大したダメージになるとは思えないが。
「女」
確かに女だ。男だなんて言ったら何をされるかたまったものではない。
「彼女」
翔太郎のな。
そこまで会話が進むとよろけた足取りで皆が飲んでる場所に行った。その姿に少し笑いがこみあげた。
愁に呼ばれて行くと咲羅がまたビールを飲んでた。電話の相手は栞だと答えてると本人がやってきた。
嵐のように現れ、嵐のように去って行った。
「……どうして意味深な言い方したんですか?」
「………からかっただけ。」
「へっ!?……わっ、私で遊ばないで下さい!!」
「まぁまぁ咲羅、こっちで飲もうよ〜」
「キャッ!!あっ、綾子、酔ってるの?」
「酔ってましぇ〜ん。さっ、飲も飲も!!」
咲羅は引きずられて拉致された。
「珍しいな、お前がからかうなんて。」
入れ替わりに誠治がやってきた。
「………別に、ただの気まぐれさ。」
「で、どうだ?唯の調子は?」
「………変化なし。」
「そうか………あんまり思いつめるなよ。」
「………わかってるさ。」
「俺たちはいつでもお前の味方だからよ。」
「………あぁ。」
そろそろ深夜になる。女の子達を愁と誠治に任せて、後片付けをする。咲羅は気持ちよさそうにスヤスヤ眠っている。
起こすのも可哀想だろう。そう思い抱え上げて俺の部屋まで運ぶ。しかし……軽い。女の子というのはここまで軽いのか、いつも思う。五年前もそう思いながら抱えてたな。
俺のベットに降ろして薄い布団をかけてやる。立ち上がったとき写真が目に入る。思わず写真を手に取ってしまう。
「唯………もう五年だぞ。……帰ってくる気があるなら……そろそろ戻ってこいよ。」
写真の中には笑顔の唯。語りかけても無駄だとわかりつつ、どうしても口が開いてしまう。
「………明日、また会いに行くよ。」
静かに写真を置いて部屋を出た。フロアまで戻って横になる。だんだんと意識がフェードアウトしていく。
起きた時、既に咲羅はカウンターの向こうにいた。
「………今日は土曜だけど?」
「ひゃあ!!おっ、おはようございます。土曜でも生活リズムを崩す訳にはいきませんよ。」
「………そうですか。」
本当に女子高生か?どちらにせよ変な娘なのには変わらないな。
今朝はご飯、味噌汁、海苔、生卵と……鯵の開き?
「……ウチにあったっけ?」
「私ん家から持ってきました。栄養満点ですよ!!」
「……じゃあいただこうか?」
「そうですね、じゃあ……いただきます!!」
「………いただきます。」
食事中。
「あっ、今日私の荷物が届きますからお願いします!!」
「………なにを?」
「何って……セッティングとか?」
箸をくわえながら頭上に『?』をだしている咲羅。
「もしかして、用事とかありましたか?」
「………夕方だから平気。」
「そうですか!!じゃあよろしくお願いしま〜す!!」
「………はいはい。」
流されて手伝うことになってしまった。まぁ仕方ない。そこまで時間もかからないだろう。
荷物が届いたのはお昼前。そこまで多くはないのだがウチの構造上、上り下りが激しいので大変だ。ただ、大きな家具はベットしかないのでなんとかなるだろう。業者の人もいたのでベットはとりあえず運べた。
「………あとは大丈夫です。」
「分かりました。毎度ありがとうございましたー!!」
爽やかな笑顔を見せて業者の人は帰っていった。
「………片付けはどうだ?」
「きゃあ!!」
ぼふっ!!扉を開けた瞬間にクッションを投げられた。咲羅の顔は真っ赤だった。
「ごっ、ごめんなさい!!しっ、下着をしまってたんで……」
「………あぁ、済まなかったな。終わったら呼んでくれ。」
視界の端にカラフルな下着が見えたのは気のせいだろう。
とりあえず部屋の前で待つ。
「終わりました〜。」
そう言われたので部屋に入る。中はそこまでごてごてしていないシンプルな部屋だ。多少ピンクが目立つが、まぁ女の子の部屋だしな。
「………じゃあちょっと出掛けてくるから。」
「分かりました〜。」
俺は少し急ぎめに準備をして家を出た。
家に帰ってきたのは七時過ぎだった。キッチンでは鼻唄を歌いながら料理している咲羅。カウンターの上にスーパーの買い物袋が置いてある。買い物に行ってくれたのか。
「………ただいま。」
「ひゃっ!!」
いつも話しかけるときに驚くな……。
「も〜、いきなり後ろから声をかけないで下さいよ!!」
「…………悪い。」
「はぁ………おかえりなさい。」
「………あぁ。」
さっきまで怒っていた表情がいきなり微笑みに変わり少しドキッとした。………なんでドキッとしたんだ?