あなたを感染させたいです
「こんばんは」
「……ん?」
「こんばんは」
「…………誰?」
「こんばんは?」
「……こんばんは。で、誰?」
「やっと言ったわね。挨拶は大事よ?」
「あぁ、そうだな。悪かった。で、誰?」
「あなたの席の右後ろ三番目に座っている出席番号三十二番の女の子よ」
「…………あー、クラスメイトさんだったか。悪い」
「気にしないで。私もさっきあなたのことを思い出したところだから」
「そうかよ。じゃあ、あいこだな」
「えぇ。ところで、こんな雪振るイヴっていう素晴らしい日にあなたはたった一人で何をしているの?」
「それが素晴らしい日かどうかいいたいことはあるが、そういうあんたこそたった一人で俺なんかに話しかけてなにしてんだ?」
「私? 私は、あれよ。おそらく少数派であろう不幸な目にあってる恋人たちの片割れってところ。あぁ、この場合、元がつくかしら」
「……なんだ、振られたのか。あんたみたいな美人でも」
「あら、ふふ、ありがとう。嬉しいわ。でも残念。私から振ったの」
「おい。それじゃあ不幸な目にあってるのは振られた男のほうじゃねぇか。俺の同情心を返せ」
「何を言っているの。恋人たち、と言ったでしょう。振った男は元より、別れて一人になった私もそれなりに不幸といえるわよ?」
「……あんた、なんか印象が違うな」
「印象? それは私が学校では大人しくおしとやかで頭がよく運動も出来、なおかつ分け隔てなく優しいっていうイメージと違うって意味かしら」
「あ? あんた学校でそんな面倒なことしてんのか?」
「面倒。面倒かしら」
「聞く限り、かなり面倒くさそうだ。そりゃさぞかし頑張ってんだろうな」
「…………そんなこと言われたの初めてだわ」
「当たり前だ。俺とあんたは今はじめて話してんだから」
「あ、ふふ、あはは、そうね。確かにそうだわ。それで、あなたは何故こんなところで一人で突っ立っているの?」
「……あー、言わなきゃ、だめだよな。あんたも話したし。俺は……あれだ。治療中」
「治療中? ……言っている意味が分からないのだけれど。病気なら病院や自宅で療養していたほうがいいんじゃないかしら」
「いや、違う。そのー、あれだ。えー、いわゆる不治の病ってやつ」
「…………本当、なの?」
「ん? あ、待て、勘違いするな。死ぬとかそういう病気じゃなくて。ほら、よく言うだろ。恋は不治の病ってやつ」
「………………ぷっ」
「おいなんで笑ったあぁそうだよ自分でもアホなこと言ってんなぁとか思ってるよ」
「いえっ、ふふっ、あははっ、ごめんなさいっ」
「……だから、笑うなっつーの」
「いたっ。ちょ、いたいっ。やめてっ、女の子にチョップするなんて何考えてるの。暴力的だわ」
「お前が笑ってるからだろーが」
「はぁ、全く。痛かったわ。……でも、誰かにチョップなんてされたの初めてよ。初体験ね」
「……その言い回しはやめろ」
「あら? ふふ、顔が赤いわよ。何考えてるの、いやらしい人」
「うるせー。オトコノコだから仕方ない」
「そんなものかしら。まぁ良いけど。で、治療中ってことは、振られたのよね」
「……振られたのが確定なのか」
「だって、あなた、振るってタイプじゃなさそうだし」
「何を根拠に。あぁ、あぁ、言うな。どうせモテねーよ」
「そういう意味じゃないけど。それで? 振られちゃったの?」
「……振られたっつーか……あー、ほら、漫画とかでよくあるだろ。こう、見ちゃった、的な」
「……なるほど。想い人が他の男と楽しそうに仲睦まじくイチャイチャしてるのを見たのね」
「オブラートに包めよ」
「つまりすでにオス付きだったのね」
「ストレートかつワイルドすぎる」
「ふぅん。でも、そう。あなたもかわいそうねぇ」
「別に……。っつーわけで、治療中なんだよ」
「……治療したくて出来るものかしら。それより、新しい病に感染したほうがはやいんじゃない?」
「は? 感染?」
「えぇ。不治の病って感染病なのよ」
「すげぇ事実だ。十六年間のうちに培ってきた恋愛観とかいうのがぶっ飛んだ」
「しかも他から感染しないと絶対に治らないの。あなたもはやく別のに感染しないと、これから先も傷心に苦しむわ」
「さらに絶望的な事実がきた。十六年間のうんたらが崩壊した」
「だからね、感染させてあげる」
「……は?」
「ほら、行きましょ」
「え、ちょっと待て。は? どこにだよ」
「そうねぇ。まずはー、冷えちゃったし喫茶店とか。そのあとは散歩がてらイルミネーションを見回ってー……そして、明日会ったり、一緒に初詣行こうとか、初日の出を見ようとか約束して、帰宅、って感じかしら。どう?」
「ど、どうじゃない。いや、どういう意味だよ」
「もう、私にはすでに感染してるのに」
「え?」
「覚悟してね。あなたにも感染させてあげるから」
「………………」
「いやー、今思い出してもお前ってほんとかわいか」
「やめろやめてやめなさい。これ以上言わないで! あんたこそ何が治療中ようまいこといったつもり!?」
「それにしても今思えば傷心の俺につけ込んでるよなぁ」
「ちがっ、ちがうわよ! あんただって私を連れ込んでむりや」
「おいいいいいい!? 人聞きの悪いこといってんじゃねーよ!!」
「事実よ!」
「事実じゃねーよ! つーか、あれはお前から」
「ストーップ! 私はそんない、いい、いん」
「……あー、やめだ。やめ。駄目だな。思い出話はやめよう」
「……そうね。お互い若かったものね」
「……」
「……」
「……なぁ」
「な、なによ」
「俺の中にはもう抗体があるんだよな」
「抗体?」
「あぁ。まー、つまり、あれだ。他から感染されることはないってことだ」
「…………そんなの、私の中にはとっくにあるわよ、抗体」
「あー、うん。さて、初詣だけど、一緒に行こうな」
「気が早いわね。当たり前よ。大晦日も初日の出も、全部、だからね」
雪が降っているところを生で見てみたいコヅツミです。
クリスマスイヴですね。もちろんコヅツミには予定はありません。リア充爆発しろ。
それにしても何を書いているのか。こんなのより書くべきことはたくさんあるはず。
でも気楽に書けるのはこれしかなかった。というより、衝動的に書きました。
あともしかしたら新しい連載をはじめてしまいそうな悪寒。まったくコヅツミのバカさ加減ときたら白血球でも直しがたい。どなたかつけられる薬を開発して『コヅツミの大好きで賞』に感染されません?
え?ペストのほうがマシだ?デスヨネー。
ともあれ、読んでいただきありがとうございました!