第七投
各自、小腹を満たしたので、メインイベントを思い出させてしまった。わたしの手鏡を買うためだけに、高清水さんを付き合わせているので、流石にこれ以上は寄り道できない。
「この後は、日運さんの手鏡を買う流れでいいよね」
「それで大丈夫だよ」
「腹ごなしも済んで、エネルギー満タンになったから目利きは任せて」
先ほど、三千ポイントを当てたバッケちゃんだが、ショートケーキを二個にチーノも合わせて、二千ポイント近くはもう使っていそうだ。
「で、どこで買う? さーさん的に目星はある?」
「う〜ん、シンプルなものがいいかな」
一番重要なのは耐久性だけど。
「実物を見て選んだ方が早そうだね。これはもう、何店か回るつもりで行こうか」
「そのほうが良さそうかもね。私もせっかくの駅前を見て回りたいし」
「たしかに」
わたしのことなのに、どうしても他人事のように感じてしまう。そういう自分は好きでないので、隠していた心の引き出しから勝手にコンニチハされてきても戸惑ってしまう。
最初に入ったところは、文房具をメインに扱っているが、雑貨やコスメも多数置いている大手の店だ。全国の都道府県に必ず一つはあると思っていたが、店舗がない場所もあるらしい。
「これにしようかな」
売り場をさっと見て、ホワイトカラーで飾りっ気のない、コンパクトミラーを手に取る。
「第一候補は決まったね」
右隣からバッケちゃんが微笑みながら口を出してくる。
「他にも色々あるから、目移りしちゃうね」
左隣には高清水さんがつく。こちら側でも微笑まれてしまい、手に持っていたコンパクトミラーを陳列棚に返す。
わたしが黒だとするのなら、二人は白だ。それなら、白に挟まれた黒は、白にひっくり返して合わせた方がいいだろう。
そんな、適当に選んだことが分かりやすかったのかなぁ……
次はファンシー系のお店に入る。店内は季節が春ということで、いつもよりピンクが濃いようだ。
この店はわたしにとってかわいいくて苦手だ。高清水さんなら順当にかわいく見えそうだし、バッケちゃんだとギャップ萌え的に良いと思う。
「日運さん、コレはどうかな?」
「どれどれ……むっ……」
高清水さんが勧めてくれたのは、桜の花びらをかたどったような手鏡だった。
概ね良さそうだなと思う。思うが、左手首の痣を見る。やっぱり、高清水さんが勧めてくれたとしてもデザインは好きになれない。
「やっぱ、コレでしょ?」
バッケちゃんが当然のようにレインボーカラーでド派手な鬼? を見せてくる。ピンク色の店内にこんな手鏡が合ったとは思えないし、何がやっぱなのかも分からない。
「目利きした結果がコレ?」
「……場家さん、その手鏡は…………」
「いやー、目に入ってしまったから、つい出来心で」
勝手に弁明するバッケちゃんのおかげで、高清水さんが勧めてくれた手鏡を元の場所に戻せた。
そのまま、この店も後にする。
「なかなかなかかなか、さーさんのしっくりくるものがないね」
「えっ、なんて?」
ここにきて、バッケちゃん節にアクセルがかかってきた。高清水さんも思わず、今までよりも砕けた感じで聞き返してしまう。
「別に第一候補の手鏡でいいんだけどね」
「それじゃ、ここまで回ってきた面白味がないよ」
「そういえば、クラスでハンドクラフトのお店が駅前にあると聞いたんだけど、二人は知ってる?」
「ハンドクラフト? う〜ん、知らないな」
駅前の店は大体分かる気でいたが、まったく知らない店もあるんだな……と、記憶とスマホの両方で店を探る。
「あっ! タカッシーの言いたい店知っていると思うよ」
「バッケちゃん良く知っていたね」
「部でも話題に上がったからね。ただ……」
あ――。スマホの検索結果を見て、忘れさせていた記憶が蘇る。
「その店は主に桜の木を使っているんだよね。桜オンリーじゃなくて、それ以外の木も使っているらしいけど」
「たぶん……聞いている感じその店のようですね」
わたしも、そのハンドクラフト店はネット上の地域ニュースで知っていた。記事の内容があまりにも桜推しだったから、記憶から消してしまったのだろう。
桜の花びらは苦手だし、桜の木ですらよく思えない。それでも、この世の桜が全て苦手というわけではない。
毎朝欠かさず振っている桜で作られたサイコロや、家の庭に一本だけ生えている桜の木は好きなんだと思う。その二つとも、名前すら知らないお姉さんが関係しているおかげな気もするけど。
「ここから少し歩くことになるけど、まずは行ってみよっか?」
「立ち止まっていてもしょうがないですよね」
「……そうだね」
気乗りはしないが、実際に入ったことがない店だ。桜以外にも何があるのかもしれない。わたしの買い物に二人とも付き合わせているのだから、そろそろ決めたい。
目的地までの距離はそこそこに遠く、ある信号全てに引っかかる。すると、信号待ちのタイミングで一枚のポスターが目に入る。
「へぇ~、近くの公園でGWに桜祭りがあるんだね」
「うん、四月下旬に毎年やっているらしいよ」
基本的に祭りといった人が多く集まるところには行きたくない。そんな時に限って、不幸が思い出を全部、かっ攫っていきそうだ。
「ゴメン! GWは部の合宿であたしはいない!」
誘っていないのに、バッケちゃんに断られてしまう。
そもそも、桜に、祭りと行かない理由しかない。
「場家さんはGWも大変ですね。でも、今年のGWは飛び飛びだから、休みの間にある登校日はどうするのですか?」
「合宿が優先らしいよ。その授業の代わりに、山盛りの宿題を完食しないといけない……」
「バッケちゃん文武両道お疲れさまです……」
やがて、信号も青になり、案内役のバッケちゃんを先頭に足も進む。
信号待ちの時は日差しが直接当たって眩しかったが、今はビルで隠れてちょうどいい。
「まぁ、今年も桜祭りには行かないと思うからねぇ」
信号を渡りながら呟くように言葉が漏れる。
誰も返答はなかったが、隣りを歩いていた高清水さんの顔に影が濃く差して見えた。




