第六投
「さてと、まずは服を見る? それとも、映画でも」
「えっ、日運さんの手鏡を買うんじゃないの?」
「せっかく高清水さんもいるからねえ、メインは取っておいても大丈夫だよねさーさん」
わたしは、いいよと頷く。一つ気になるとすれば……
「高清水さんは帰り大丈夫? 家族とか心配しない?」
「帰りは遅くならなければ大丈夫。たぶん、お姉ちゃんが大学の帰り道に車で拾ってくれそうだから」
「タカッシーのお姉さんは妹思いだね」
「タカッシー?」
いきなり高清水さんのことをタカッシー呼び?
距離感の詰め方がバスケをしている時よりもパワープレーで怖い。
「タカッシー……いいね! はじめて呼ばれたよ」
「高清水さんダメな時はしっかりダメだと言わないと。バッケちゃんどんどん図に乗って、さらに大きくなっちゃうよ」
「嬉しさのあまり、もっと大きくなっちゃうかもネ」
はじめて会った時はそこまで身長差はなかったはずなんだけど、今は随分と差をつけられてしまった。
大きな蕗を傘代わりにしている観光PRをよく見かけるが、いつか、あの蕗よりも大きくなっていそうだ。
ひとまず、改札口から出て適当なアパレルショップに入る。
さっと見て何着か気になった服はあったが、この後買う予定の手鏡によっては金銭面が色々キツくなるし、なによりも不幸に服が耐えられそうにないのばかりなので今はスルー。
隣りでは、高清水さんが何着も手に持って吟味している。普段駅前まで来ないらしいから、一生懸命になって見定める姿は微笑ましい。
バッケちゃんは……トールサイズの種類があまりなくて飽きていそう。あっ、諦めてメンズコーナーに入っていった。こうなったら好きに放しておいた方が良さそうだ。
「高清水さん、気に入ったのはあった?」
「う〜ん、あるにはあったけど、手持ちが怪しいからね」
「そうだよね、いきなり買い物に巻き込んでしまってごめんだよね」
わたしならクラスメイトにいきなり買い物や遊びに誘われても断ってしまう。大抵そういう時に限って、タチの悪い不幸がやってきて周りに迷惑をかけてしまいそうだ。
「それは違うよ。私も高清水さん達と一緒に買い物へ行きたかったから、こうして見ているだけでも楽しいよ」
「……そっか」
「日運さんの方は気に入った服があった?」
「う〜ん、今日のところはスルーで。この後、メインイベント扱いされている手鏡も買うし」
思いがけずしんみりとしてしまった雰囲気を打ち消すように、高清水さんはパンと手を叩く。
「話は変わるけど日運さん、グループチャットでのアカウントはコレで合ってる?」
「あっ、はい、このアカウントで合っています」
「それじゃ、個別でも登録しておくね」
スマホの画面を見せてきたと思ったら、シュシュッと手早い手付きで、高清水さんの連絡先が登録された。
なんとなくひび割れてしまったスマホの画面が輝いて見える。
「いつでもメッセージ送ってくれていいからね」
「うん」
たぶん、必要な時しか連絡することはないと思うけど、高清水さんのご厚意を否定したくなくて、肯定するために頷く。
「さーさん、タカッシーお待たせ。お腹空いたよね? ね?」
もうタカッシー呼びで決まってしまったんだ……
メンズにも気に入った服がなかったらしく、早々に手ぶらで戻ってきた。しかも、お腹を空かして。
「はいはい、どこに行きましょうか?」
説明しよう! バッケちゃんはお腹を空かすと余計に動き回る習性を持つため、素直に食欲を発散させておこう。
「私、コーヒー飲んでみたいな。お姉ちゃんや学校の皆んなも駅前でたしなんでいると聞くからね」
おそるおそる、高清水さんが要望を挙げる。
田舎の数少ないトレンドをおさえようとすることに驚きはあったが、俗世に染まる高清水さんも良いと思う。
「あたしもフラペが飲みたくなってきた。チーノがついていてもいいよ」
「となれば、スターがついている店になるね。高清水さんもそこでいい?」
「もちろん。今まで行く機会がなかったからね」
アパレルショップから世界的に人気のあるらしいコーヒーチェーン店へ移動する。こんなへんぴな土地にも、店を展開してくれるのはありがたい。
春限定のわざとらしさすら感じられる桜フレーバーの宣伝を無視して、わたし、高清水さん、バッケちゃんの順で店に入っていく。他に行く場所がないせいか、レジに列が並んでいる。
「わたしからオーダーするね」
「うん、注文の仕方すら分からないから、日運さんのを見て勉強するね」
「……」
高清水さんからホイップ一匙分ぐらいの圧を感じた。軽いはずなのに、期待が重く感じられる。
「わたしでもオーダーできるぐらいだから、そんな難しくないよ」
「えぇ、本当かな? 注文のことをオーダーと言い慣れている時点でツウな人だよ」
「…………」
後ろの大きな人が待ち時間で暇なのに、さっきから無言なのは不気味だ。財布を異常なほどに触っている。もしかして、このパターンは……
「もしもし、バッケちゃん?」
「うん」
「お金あるの?」
「………………うん」
やっぱしだ。そこそこの頻度でやらかす。
「えっ、場家さん手持ちないの? お店から出た方がいい?」
「もしくは、バッケちゃんに借金させてもいいけど……」
「待って! まだ自分で戦えるから!! ここはキャッシュレス決済できる!」
腹をくくってスマホを取り出すと、キャッシュレス決済用のアプリを開く。ちょうどポイント還元のくじ引きイベントが開催されているようだ。
一等賞だと十万ポイントらしい。
「流石に厳しいと思うなぁ」
「トイチならいいよ」
現実を優しく教えようとしている高清水さんとは反対に、わたしは貸し付けようとする。どうせ……
「当たる、当てる。大丈夫、大丈夫だ」
自分を信じるように集中している。これがなぁ、ここぞのプレーとかならカッコいいんだけどなぁ。
「よし、きた!」
周りに配慮気味で、少し控え目なガッツポーズとともに、画面を見せつけてくる。三等賞で三千ポイントが当たったらしい。
「嘘……」
「これが実力なんだよね」
「トサンでもいいよ」
「さっきからさーさん、ヤミ金並にエグい金利で借金させそうとしているよね!?」
わたしが不幸も実力だと思っているのなら、バッケちゃんの幸運も実力だ。
生まれつき運が良く、心から願ったことは、ほとんど勝ち取ってきたらしい。くじ引きで毎回一等賞を当てたり、不幸な目に遭ったこともあるが、わたしとは対象的に思える。
その幸運さで、周りから妬まれたこともあったが、今はそれを飲み込んでカッコよく振る舞おうとしている。
バッケちゃんを小学三年生から知るわたしが総合的に評価すると、この豪胆さがとても魅力的だ。
ただ……お金の使い方が少々荒いので、そこだけは心配だ。
「さて、順番がきたからオーダーしますか」
「私……注文しようとしたことが、場家さんのせいで忘れちゃった」
「ハハハ、褒めてもポイントしか出ないよ」
騒がしくも、楽しい放課後の時間が過ぎてゆく。
わたしと高清水さんはオーダーしたドリンク一杯片手に、満足そうな表情でケーキを頬張るバッケちゃんを見ているのであった。




