Re:映画観賞
カーテンを閉め、電気も消し、薄暗い部屋に高清水さんとふたりっきり。左手は高清水さんに絡めとられ、身体もわたしへ預けられている。
只今、二時間と二十二分の旅路が終わった。目の前のタブレットは次の映画を催促しているが、一回休憩させてほしい。
ひとまず立ち上がろうとし、高清水さんの手を離そうとする。
「あっ……」
高清水さんの口から、名残惜しそうな声が漏れた。反射的に、手を繋ぎ直しなってくる。
だけども、身体は限界を迎えそうだ。ここは心を鬼にして、居間から少しばかり退席させてもらう。
「高清水さんちょっとだけだからね、ね。すぐ戻ってくるから」
「……絶対だよ。日運さん絶対に戻ってきてね」
うぅ……上目遣いでのお願いは反則。早く用を済ませて戻らないと。
桜も若葉が緑青々しくなり、GWの騒動も落ち着いてきた。
まだ、やりたいことが定まったわけではないけど、前よりは焦りを感じない。
今日は高清水さんとわたしの家でおうちデート……とのことだ。GWの映画リベンジと、高清水さんが意気込んでいる。
わたしにとっては、二人で観たあの映画も(B級的な)面白さがあって良かったのだけど。高清水さんは納得してくれなかった。
致命的なネタバレを踏まない程度で高清水さんリサーチした結果、地元の映画館で観たいものが公開されていなくて、おうち映画館となった運び。
ちなみに、お母さんとお父さんもわたし達に気を遣ってデート。わたし達に対抗して映画館へ行くらしい。
……あれれ? なんで、おうち映画館することが二人にバレているの?
そもそも、高清水さんのことをお母さんとお父さんに、ちゃんと紹介したっけ??
知らぬ間に、高清水さんと両親の間にラインが繋がっていそうで寒気が。さっき観たのもホラーじゃないのに、最近のヌルい不幸よりもゾッとします。
今朝のサイコロの出目は三。そのうち、二回分の不幸はもう済んだ。
高清水さんを午前中から家にお招きするため、時間ギリギリまで足掻きの掃除中にリモコンを踏んで一回目。
二人でお昼にパスタを作り、その後片付けで蛇口の水がわたしの服を濡らしてしまい二回目。
後の一回はなんだろうね。手を洗いながら適当に予想してみる。
さっきまでの映画を参考にすれば……どうだろう……
月からタケノコが突然降ってきて、それが頭にコツンとぶつかるとか?
……もし、これが原因でぽっくりイッテしまったら嫌だなぁ。先月のわたしならそれも運命だと受け入れてしまいそうだったが、今のわたしは違う。
映画の内容は、途中で主人公の女の子とヒロインが離れ離れになる展開があったが、最後はハッピーエンドで締めくくる。
でも、どこかキャラクター達と重なった部分があるらしくて、高清水さんはわたしの手を強く握る場面もあった。
あぁ、早く高清水さんに会いたい。左手首につけた桜のブレスレットを意味なく触ってしまう。同じ家にいるはずなのに不思議だよね。
居間の扉を勢いよく開けた。このみなぎるパワーは高清水さんを思ってこそだ。
「高清水さんただいま! で……す?」
居間に帰還したら、高清水さんが俯いていた。涙が落ちるのも見えてしまう。
「え、高清水さん大丈夫……わたし何かやっちゃった!?」
慌てて駆け寄ろうとして足が絡まって、空回り、床へ顔面ダイブ。
ふっふっふっ、受け身は取れたので物理的にはほぼ無傷。
メンタルの方は……とても、恥ずかしいです。
あ……左手首の痣が風に撫でられた感触がありましたので、これが今日三回目の不幸。
物理的に怪我をさせるのではなく、高清水さんの目の前で恥をかかせるタイプの不幸ですか。
最近の不幸をヌルい呼ばわりし、調子に乗ってすみませんでした。
「日運さんの方こそ大丈夫? 派手に転んでしまったけど怪我はないよね?」
「わたしは大丈夫、受け身も取れたし。それよりも高清水さんの方が、だよ。涙していたけど、やっぱりわたしへの不満だよね。特に告白の返事を保留している件……」
わたしなんかが高清水さんをキープだなんて恐れ多い。
でも、わたしも手放せなくなってしまった。高清水さんが他の人を好きになってしまうと思ったら、胸が苦しくなる。
「泣いていたのは目薬をさしていたからだね。二時間半近くも映画を見ていたら、もう目がしょぼしょぼ」
倒れたわたしに、高清水さんが近寄って手を差し伸べてくれた。触れた手から熱が合わさる。勝手に勘違いした分、こっちの方が熱いかも。
「なあに日運さん、愛の言葉なら溺れさせるまで伝えるよ」
「……それは、なんとも魅力的だね。でも、高清水さんはわたしの気持ちを受け取らなくていいの?」
握った手を絡める。何回も手を絡めてきたが、わたしから絡めたのは初めてだろう。
「日運さんそれはダメだよ。理性の歯止めが効かなくなっちゃう」
理性のタガが外れた本能だけの高清水さんを是非見てみたい……けど、その本能が向かう先はわたしになる。
うむ、拒む理由はない気がした。このキズだらけの身体も愛そうとしてくれるのだから。我慢はしなくてもいいと思うの。
「いいよ、本能のままでめちゃくちゃにして。賽のようにわたしを転がしても」
高清水さんを迎えるように、手を広げ、笑みを形作る。
これで、わたしのことを、もっと――
「日運さん、無理しなくていいんだよ。今の関係を望んだのは私自身だから」
そっと抱きしめられ、背中を撫でられた。高清水さんが望んでいるものが分からない。
学校やネットで知ったものだけど、おうちデートは肌を重ねるものじゃないの?
「あっ! 今は大丈夫というだけで……ゆくゆくは日運さんとそういうことも、できるといいな……とは思うけど」
「それだと、わたしから高清水さんへ何も与えることができないよ」
背中を撫でる動きが止まり、高清水さんの鼓動が直接伝わってきた。ドクン、ドクン……んと。わたしの音も混じっていると思う。
「ううん……もう充分に日運さんから貰っていたんだよ…………」
さっきまでの探り探りだった雰囲気とは打って変わり、想定していた答えのようだ。高清水さんだけ、心音のリズムが一定になってズルい。
「それにね、こうやって日運さんと触れるだけで伝わってくることもあるの」
「なにが?」
口を耳元まで寄せてきた。吐息が耳をくすぐり、左手首に高清水さんの熱も重なって、身体に力も入る。
「想いが伝わってくるの。自覚があるのかは分からないけど、日運さんは全身で想いを伝えてくれるのだよ。だから、私は安心しちゃうんだ」
ダメだ、目一杯の笑顔に撃ち抜かれてしまった。
崩れた顔を高清水さんに見せたくないから、目の前の熱を強く抱きしめる。
高清水さんも応えるように、再度背中を撫でてくれた。
高清水さんとしては今回の映画リベンジが成功したようで、満足気で感想戦をした後に、次観たい映画の話しになる。
次もあるのは、わたしとしても嬉しい。
この日々が続きますようにと願わずにはいられなかった。




