第三十五投
――チュンチュン、チュンチュン。
…………起床の合図とともに目が覚める。
たしか……今日はGW明け最初の登校日。
……校舎に火事の影響は特段なく、熊といった危険な野生動物も付近に出没せず、生徒職員の体調不良も落ち着きを見せ、無事に臨時休校が終わった。
無事と言うにはGW中に出された宿題の量が山盛り。
遠征から帰ってきたバッケちゃんに、「学校まで四日しかないから宿題を手伝って!」と泣きつかれてしまう。
バッケちゃんには、今回のGW中もいっぱい心配をかけてしまった。宿題を手伝うぐらいは全然構わない、のだけど……
わたしも勉強は普通より少しできるぐらいだ。残念ながら、宿題の範囲が全て分かっているわけではない。
二人して頭を抱えていたら、どこからか話しを聞きつけた高清水さんも勉強会へ加わってくれた。
ええと……三人寄れば文殊の知恵と聞くが、明らかに高清水さんへ頼りきりだった気がする……
「お互い様だよ」と言うバッケちゃんに対して、高清水さんも「そうだね」と頷く。助けを求めた本人なのにバッケちゃんの態度に感服してしまう。
最初は和気あいあいの勉強会も、終わりが見えず、最後の方は三人とも眉間のシワが日本一深い湖よりも深くなる。
それでも、高清水さんは褒めて伸ばす方針のようで、バッケちゃんの前でもわたしのことを褒めることだけは続けてくれた。
ニヤついたバッケちゃんの表情が一言も喋っていないのにやかましいけど、わたしも褒められる度に頬が緩んでいたのだろう。
ようやく三日間かけて宿題の山を片し、GWも終わる前日の昨日は、高清水さんとバッケちゃんの三人で遊ぶことにした。
ショッピングや映画、カフェと、時間の許す限りとにかく遊んだ。
遊び過ぎてお小遣いが心もとなくなってきたので、今後はバイトとかも検討しないと。
前までのわたしだったからバイトなんて、不幸が起きてしまったら責任が取れないので、やる前から諦めてしまった気がする。
だけど、最近は高清水さんの英才教育によって、とりあえずやってみたいな? と思う瞬間は増えてきた。
GWの間だけでも、高清水さんとバッケちゃんは色々なことを結構勧めてきた気がする。
不幸も最近はちょっと可愛らしい程度に落ち着いてきた。袋に入ったパンを落としたり、何もない場所で転けそうになったぐらいの不幸。
……そろそろ、朝の日課をしないと、学校に遅刻してしまいそうだ。
自室の窓から、庭の桜に挨拶をする。桜の木の枝が風で揺れて、挨拶を返された気がした。
サイコロを振る前に、今日も願う。
高清水さんの教えによると、まずは、自己肯定感をあげるために、何でも良い方面に考えるといいらしい。
高清水さんの幸せを。バッケちゃんの幸せを。お母さん、お父さん、おばあちゃん、わたしと関わる全てに幸せを。
……そして、わたし自身の幸せを。
机の前に立ち、左手で「ほいっ」とサイコロを振るった。
からん、ころんと机の上でサイコロがいつもよりも情熱的な踊りを披露し、やがて演目を終えて、出目が決まる。
「今日は……かぁ」
人生、うまくいかない日の方が多い。
この先もわたしはサイコロのように転がり続けて、不幸に振り回されるのだろう。
でもね、こんなわたしの幸せを願ってくれる人がいる。
学校に行く前、高清水さんから誕生日プレゼントで貰ったブレスレットを左手首につけた。
ブレスレットの桜柄と、左手首の桜みたいな痣が合わさってこの痣も誇らしく思える。
さあて、今日はどんな日になるのだろうか?
早く学校で高清水さんやバッケちゃんに会いたいなぁ。
わたしは迷いなく歩を進める。
幸せに満ちる朝日を浴びて。
今回の更新をもちまして、本作『貴女にサイありて』の更新をいったん終わりとなります。
今後も本作のショートストーリーは不定期で更新する予定になりますので、更新したのを見かけたら、目を通してくれると嬉しい限りです。
初めての本作でしたが、ここまで彼女達の物語を追って下かった読者様方には感謝しかありません。
もしよろしければ、感想も頂けたら幸いです。
それでは、皆様にも溢れんばかりの幸せが訪れますように。
またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。




