第三十三投
あの後、星々に見守られ、穏やかな春の夜を、高清水さんと手を繋いで帰路に就いた。
ガッチリと握られた左手と、歩きにくいほどに寄せられた身体から高清水さんの熱が伝わってきて、わたしの心も満たされていく。
帰り道、高清水さんは「相合傘ができなくて残念」と言って閉じた傘を手に持っていたが……その傘は、くしくもお母さんの愛用していた柄と同じ気がした。
「わたしのお母さんと同じ柄の傘だね」と思ったことをそのまま伝えたら、なぜか、高清水さんの手が固くなる。
無言で向ける笑顔はかわいいが、隠していることはありそうだ。動揺が手に現れすぎて、さっきわたしへ宣戦布告をしてきた人と同一人物には思えない。
……愛の告白に関しては、すぐに返事はいらないと言ってくれていた。わたし次第なのだから、きっと答えを急いではダメなんだろうね。
高清水さんはこんなわたしの幸せを願っている。
わたしも高清水さんが幸せになってほしい。
そして、わたしが自分を好きになれるか……
……あれ!? この告白を保留している状況は、もしやキープ?
高清水さんをわたしがキープしちゃっているの!?
「本当にわたしで良かったの?」
己の不誠実さにたえきれず、迷惑になるのが分かっているのに聞いてしまう。
「日運さんが幸せになれるのなら、別に今すぐ私のことを振ってくれてもいいよ」
「高清水さん!?」
どこ吹く風のように高清水さんは振る舞い、得意げに笑って言った。
「だって、もう私から逃げられないでしょう?」
当たり前のごとく言い切った高清水さんが眩しくて笑ってしまう。高清水さんもつられて笑い、わたし達はまた笑うんだ。
無事に家まで辿り着いたが、夜も更けてきたのでご家族の方に連絡してもらい、そのまま高清水さんは泊まってもらうことに。
泊まることに嬉しそうな高清水さんを見ると、わたしも嬉しくなる。
わたしもお母さんやお父さんに連絡を入れた。日中はスマホが使えなかったのに、今は使えて不思議だ。
やっぱりお母さんとお父さんは、わたしと連絡が付かなくて心配のあまりに、今夜中におばあちゃんの家から帰ろうとしていたらしい。
夕方過ぎに、バッケちゃんがわたしの無事をお母さんに連絡してくれたおかげで、ひとまず安心してくれたそう。
バッケちゃん本人に聞かないと詳しくは分からないが、今回もだいぶ迷惑をかけてしまったみたいだ。
あらためて、バッケちゃんに感謝のメッセージを送っても既読が付かない。いつの間にか消えて戻ってきた高清水さんに、バッケちゃんのことを尋ねてみる。
そしたら、高清水さんが他のバスケ部にも聞いて、バッケちゃんはスマホの使い過ぎで、遠征中は没収されてしまったことがわかった。
……どう考えてもわたしが心配かけてしまったせいですね。昨日の夕方からずっとわたしのために、気を遣ってくれたので、本当に頭が上がらない。
少しネガティブになったわたしを高清水さんは見つけてしまう。そこから先は、高清水さんがアウェーのはずなのに独壇場だった。
まずはじめに二人とも汚れていたから、お風呂へ入ることになった。
それはいいのだけど、わたしの家なのに高清水さんは帰ってすぐ、お風呂にお湯を張ってくれていた。
初めてお邪魔するお宅で、こうもスムーズにできてしまうのか。わたしには絶対にできない芸当だろう。
そのまま、二人とも風邪を引いてしまうからと理由をつけられて、有無を言わせないで一緒のお風呂へ入ることになった。
まさか、高清水さんと同じ湯船に浸かる日がくるとは……畳一畳分の狭い船を、お互いに身体を丸めて座っている。
……視線が熱い。そりゃ、す……好きな人の身体は見てみたいのかも? しれないが、それにしても、服を脱ぐ前からまじまじと見すぎ。
恥ずかしいので、からかいたくなってきたが、高清水さんの視線は身体中にある傷口を見ていた。
こうなると何も言えなくなってしまう。そういうわけで、丸めていた膝を伸ばして、足先で高清水さんの太もも付近を触る。
「キャッ!」と良い声で鳴き、顔を真っ赤に赤らめてくれた。これで、恥ずかしさは両者おあいこだ。
夕飯も高清水さんが作ってくれました。わたしも手伝おうとしたけど、誕生日の主役はただ座って待っていないといけないらしい。
いつもじゃないけど、高清水さんはそこそこの頻度で料理の手伝いをしているらしく、わたしも見習わないと。
流石に炊飯器でお米を炊くのと、卵を割るぐらいなら運の悪さが関係なくできるようにしたいのよ。
もちろん、高清水さんが作ってくれた料理は美味しさしかなかった。わたしも作られてばかりだと悪いので、高清水さんのために作ってあげたい。
鍋とか……比内地鶏の出汁を使えば何とかなるんじゃないの……この考えの時点でダメかも…………
最後には、高清水さんと一緒のベットで寝てしまうこととなる。
お母さんとお父さんがおばあちゃんの家に掛け布団を持って行ってしまったので、わたしがソファーで寝ようとしても、高清水さんは許してくれなかった。
布団の中で高清水さんと身体がぶつかってしまう。緊張のあまり、どう動いても身体が高清水さんとぶつかり、申し訳なくなって、高清水さんを見る。
そうしたら、高清水さんは照れたようにわざとらしく憂いらしい姿を見せてくれた。どうやら、確信犯のようで、一安心して眠りにつこうとする。
不幸が渦を巻き昨日から眠れていなかった……
そもそも……今日は寝るつもりがなかった。
だって…………
そんな、わたしが今日も寝ることができたのは、隣りにいる高清水さんのおかげでなんだろう。
高清水さんがわたしのためにこれから不幸へ立ち向かおうとするのならば、わたしも負けたくない。
そもそも……わたしの不幸に巻き込ませてしまったのだから……
できることなら……今すぐ高清水さんの想いに応えてあげたい……
わたしなんて……と思い続けて、恋とは無縁だと思っていたが、高清水さんに対してはしっかりと……向き合おう……
あぁ……なんて、隣りに暖かい温もりがある。
その温もりを届けてくれた、この人は幸せになってほしい。




