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貴女にサイありて  作者: 花月アイコ
わたし達は春宵を超えて

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第三十一投

 ――世界中のどこを探しても、わたしの居場所なんて無いのだろう。



 思いのほか後片付けに時間を費やしてしまった。

 外は雷雲で見えないが、いつもなら日が傾き始める時間だ。


 授業以外で手紙をしたためたことなんて記憶にない。突発的(とっぱつてき)に書いた割には、案外悪くない出来栄えかも。



 最期は生まれた街を回って、終着点を探したい。


 その中でも人の迷惑にできるだけ、かからないところは前提だ。どこを選んでも、ご迷惑をかけてしまうがわたしも限界なので許してほしい。


 それに、こんなにも天気が悪い日なのだから、外を出歩く人もほとんどいないだろう。


 このまま嵐が続いてくれると、他の人がわたしに巻き込まれる心配もしなくて良さそうだ。


 玄関を開けて外に出る。毎朝登校するために家を出る時よりも、玄関の扉はすんなり開いてくれた。


 雷はうるさい程に鳴っているが、雨は降っていないし、ご近所さんもいないので、わたしにとって良い天気だろう。


 今日のわたしは運がいいのかもしれない。

 庭の桜の木に一礼して街へ繰り出す。


 

 …………わたしが生まれてからは、不幸しか知らなかったので、まだ幸せだった。不幸は手や足と同じくらいに、わたしを構成する要素の一部なのだから。


 それが、集団で生活するようになって、申し訳なさを覚える。わたしの不幸が周りを巻き込む。


 不幸の被害に遭った人で、わたしを責める人もちゃんといたが、ほとんどはわたしを「不幸は日運さんのせいじゃない」と擁護(ようご)してくれていた。


 ……わたしのせいなのに…………心苦しい。


 もうこの頃には、わたしの身体は生傷が絶えず、一生モノと言われたキズが何十ヶ所もあった。


 それでも、お姉さんからもらったサイコロを毎朝振り続け、わたしだけが不幸な目に遭う、幸運な日がくることだけを願い続ける。


 いつしか、わたしの運は巡り、バッケちゃんと会うことができた。輝いていた楽しい思い出ばかりだ。


 なにせ、バッケちゃんはわたしの不幸よりも強かったのだから。


 ただね、バッケちゃんはわたしに優し過ぎた。どうせ、バッケちゃんが思い切った行動する時は、九割ぐらいわたしが原因なのだろう。


 バッケちゃんはもっと、自分のことを大切にしてほしい。


 願ったことが実現できる。実力と運が付いているのだから、その力はバッケちゃん自身のために使うべきだ。


 わたしなんかといるために使うべきではない。


 部活もダメ、これといった特技もない、勉強はそこそこ。新しいことを始めようとしても挫折(ざせつ)してしまう。


 不幸もわたしの実力だから、ようは、実力不足の原因を不幸に押し付けているわたし自身が嫌いだ。


 高校生活が始まっても、この悪癖(あくへき)は変わらず、何もせずに諦めてしまった日々は続いてしまう。


 唯一変化があったのは高清水(たかしみず)さんに出会えたこと。それも、わたしからではなく、優しい高清水さんがわたしに手を差し伸べてくれたことで始まった。


 高清水さんは……こう、なんだろう? 今までに会ってきたどのタイプにも当てはまらない。何度もわたしの心の内へ踏み入れようとしてきていた。


 そういった面では、バッケちゃんは直接聞かないで察してくれていたのだろう。ついぞ、高清水さんが何を思っていたのかは分からないままだった。


 結局わたしは高清水さんの手を取れなかったし、それどころか、高清水さんを不幸な目に遭わせてしまう。


 高清水さんからすると、後味が悪いお別れになるかもしれないが、手遅れになるよりはマシだ。それを言ったら、皆んなに対して不義理(ふぎり)だね。


 生命あってこその人生。

 せめて、わたしと関わった人達は、後ろに引っ張られず前を歩んでくれるといいなぁ。


 わたしはただでさえ、何もないどころか、不幸で周りをマイナスに引き込むのだから……もういい。



 独りだと見慣れて色あせた街並み。

 どこにも思い入れがなく、雨の中を(かさ)もささずにぷらぷら歩く。


 一応GW中なのに、外を出歩く人はほとんど見かけない。雨が降っているのに傘がないので悪目立ちしそうだと、途中で思ったが所持金はすっからかん。


 そりゃ、片道切符の旅路に手荷物は邪魔だろう。

 左手首の痣さえあれば全てこと足りる。


 目に付いたのはビルに貼ってある一枚のポスター。

 前に高清水さんとバッケさんとで、手鏡を買いに行った時も見た、桜祭りの宣伝しているものだ。


 それを見て、思い付いたのは嫌いな場所。

 一番嫌いなわたし自身と、同じくらい嫌いな桜に囲まれる場所が、わたしにはピッタリな気がしてきた。


 ちょうど、熊が出没したおかげで立ち入り禁止区域となっていたのも運がいい。人が入れないのだから、不幸に巻き込む心配もしなくて大丈夫だろう。


 行くべき場所が決まってから、気持ちは楽になった。信号も全て青だったし、わたしを邪魔する不幸もない。


 お城跡地の公園へ通じる道には、立ち入り禁止の三角コーンが置いてあった。三角コーン同士はバーで繋がっており、まるで境界線(きょうかいせん)が引かれているよう。


 境界線をハードルのように飛び越え、禁止区域へ踏み入れたことにほんの少し罪悪感がある。けれど、今からしようとすることに比べたら些細(ささい)なものだろう。


 立ち入り禁止区域に入ると、桜がわたしを出迎えてくれた。枝はこうべを垂れ、謙虚(けんきょ)さがうかがわれる。

 

 ……道中、熊を見かけたような気もするが、勝手に逃げていってくれたので、ノーカウントかな。



 一段、一段。今までの不幸を噛み締めて振り返る。階段を一段登るごとに、肩の荷がおりたように軽くなった。


 城門を抜けてひらけた場所に出る。桜の木しかなくて、笑ってしまう。これを綺麗と言う人もいるだろうが、わたしには灰のごとく、くすんだ色。


 さて、と、最期の出目を決めるために、空がよく見える場所を探す。天運(てんうん)を呼び込みたいので、桜の枝に(さえぎ)られてたくはない。


 ぷらりぷらりと敷地内を一周して、わたしの求めていた良さげなスポットを見つける。桜に囲まれて、さぞ絶景なのだろう。


「ふぅ……」


 深呼吸して心を整える。


 ……幼少期にも一度試そうとした記憶があった。

 だけど、なんで失敗してしまったのだっけ?


 まぁいいや、心残りはもうない。

 後は、サイコロを振るうように、左手首の痣を空に向けるだけ。そうすれば、運良くことが全て済む。


 人思いに左腕を振り上げようとした、その瞬間……


 ――視界の端に、ここに入るべきではない人が見えてしまった。


「幸咲――――――!」


 賽は投げられてしまった……もう、わたしに止めることはできない。


 こちらへ駆け寄ってくる彼女を見かけて、せめて、彼女だけは。彼女だけは無事でいてほしい。


 空から降り注ぐ光で身を焦がれそうな中、それだけを願った。

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