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貴女にサイありて  作者: 花月アイコ
欠けてしまった私のツキへ

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24/36

第二十四投

 いつまでも続いてほしい。

 二人きりの世界で、日運さんに付き()われてヨレヨレと保健室に行く。

 

 GWを目前(もくぜん)にして、気合いが入り過ぎてしまい、頭がぼーっとし、足もグラグラする。


 体調を崩すことは、あんまり無かったと思う。


 いつもはお姉ちゃんが風邪を引いていて、私はその看病していた。運が良かったのかは分からないが、風邪をうつされたことも無かったのに。


 そんな絶不調でも、思っていた以上にぼやけた頭は貪欲(どんよく)で、日運さんとのデートばかりだ。まだ、誘うことすらできていないのにね。


 目下(もっか)体調を治すことを先決するべきだが、GWが始まってしまう前に、日運さんをデートに誘うことも大事。


 されども、時間が経つごとに、具合は悪くなる。隣りに日運さんがいるのに、気は回らない……

 

 逆に、日運さんの方から話題を振ってもらった。


 ちゃんと受け答えできていたのか分からなかったが、ずっと身体が辛いと感じていたので、気を(まぎ)らわし、体調が回復する。


 そうして、日運さんの隣りが名残惜(なごりお)しくも、無事に保健室まで送ってもらった。


 一時的に日運さん療法(りょうほう)で回復したのかもしれないが、やっぱり身体は正直で、保健室のベットで休んでしまったら、夢か(うつつ)かは曖昧(あいまい)になる。


 それでも、夢の中は案外すぐ分かった。

 だって、現実でお姉ちゃんに告白なんてしたことがないのに、振られてしまったのだから。

 

 何度も見た光景なのですぐに分かるが、閉じ込められているみたいな、胸を締めつける陰鬱(いんうつ)な世界から自力で覚めることはできない。


 ――私を呼ぶ光が、まとわりつく闇から(すく)いあげる。


 地上に引き上げられるかのごとく、目を覚ますと何故か保健室に日運さんがいた。


 しかも、警報音が鳴り響き、窓には黒ずんだ煙が立ち昇っている。火事への恐怖で身が(すく)み、パニックにもなりそうだった。


 追憶(ついおく)にふける今現在ですら、自分自身のことを(かえり)みない、日運さんがいなければ、避難できていたのか判断がつかない。


 幸せを願っていたはずの彼女が、私のために危険を承知で助けにきてくれた。ドラマや映画なら、盛り上がったり、嬉しい場面なのでしょう。

 

 ……私は、ただただ、ふがいなかった。

 それも、今までの人生を恥じるぐらいに。


 いくら、日運さんが見栄(みえ)を張っていたとしても、それに気付かず、私は守りたかった人のハンカチで口を覆っていただけ。


 その上、日運さん自身は、なにも使わずに、片腕で口を塞いでいた。


 日運さんがどんなに頑張っても、私は引きずり込もうと迫る煙から逃げることすらできず、途中で力尽きてしまう。


 体調も悪化し、この廊下が永遠に続いているように思えてくる。


 どうして、私を見捨てないの?

 ――貴女は倒れた私を背負ってしまう……


 どうして、助けることに迷いがないの?

 ――貴女は「助けることに理由なんているの?」と言っていたが、絶対にそれだけでないのは分かる……

 

 どうして、こんな状況でも笑顔で励ましてくれるの?

 ――貴女は理不尽な不幸に遭っても、自分自身を責めるのに……


 どうして、そもそも貴女が不幸な目に遭わないといけないの?

 ――貴女が幸せにならないなら、この世界が嫌になる。


 いつまでも続いてほしかったこの道が終わってほしい。


 煙に包まれた地獄みたいな世界で、せめて私を置いて、日運さんだけでもと、無事を懇願(こんがん)してしまう。




 …………っと、思い出ばかりに集中していたら、道を間違えそうになった。そろそろ、自宅を出発して二時間は経過している。


 相変わらず、道路は渋滞していて、自分の足を使うしかない。さらに、空模様も火事を彷彿(ほうふつ)させるほど、暗く禍々(まがまが)しさを感じてしまう。


 雨は振っていないのに、行くべき方角に雷が見え、鳴り響く音も間近で聞こえるみたいだ。


 今は日運さんの無事を祈ることしかできないが、独りでいる彼女の元に急ぎたい。


 ……だけども、二時間もの間早歩きしただけで、疲労で足がガタガタ震えている。情けない……


 息を整えるついでに、改めて、日運さんの住所をスマホで確認。目的地へ確実に近付いてはいる。


 家を出た直後に、日運さんへ送ったメッセージには既読がついていない。


 途切れた思考を、再度、繋げ直そうとする。


 気分を紛らわせないと、足が動いてくれないのもあるけど、絶縁したと一方的に思っていそうな日運さんを説得させるためには、私の中に決して折れない(しん)が必要になるでしょう。


 そのためには、もう一度記憶の海に(もぐ)って、日運さんの心を動かすための手がかりを探ってみなければならない。




 ――学校での火事から三日後。言ってみれば、主に昨日の話だ。

 

 日運さんと初めて二人きりでのデート。


 同じ日に、お姉ちゃんも彼氏さんとデートすることになり、緊張もあったのに、変に対抗心も燃やしてしまう。


 ……やはりそこは、年の功でデートの功。


 私は日運さんをデートのお誘いするのですら気後れしていたが、お姉ちゃんはお菓子食べてくつろぎながらも電話で誘い終わったようだ。


 お姉ちゃんの誘い方に(おもむき)は全く感じないし、初デートはもっとロマンチックにお誘いしたい。


 そのくせ、いざ日運さんに電話すると、本題に入ることすらままならかった。


 場家さんが気を遣ってキラーパスを渡してくれなかったら、いつまでも、お誘いの言葉を切り出せなかったでしょう。


 デート当日は予定の電車よりも二本早く乗り、一時間前には集合場所へ着く。


 家にいても、気持ちが落ち着かないのも理由だけど、少しでも早く日運さんに会いたかった。


 待つのは嫌いじゃないし、約五十通りのデートプランも余裕を持って確認したい。

 

 例え、いかなる不幸に見舞われてしまっても、五十通りもあればリカバリーは効くはずだ。


 プランを見ながら待っていると、集合時間の十分前に日運さんも駆け足気味で到着。


 急いできたせいだろうか、すぐに身だしなみをチェックしている。使用している手鏡が、場家さんと私の三人で一緒に買い物へ行った時のだった。


 大事に使われていそうで、微笑ましい気持ちになる。


 デートは私も初めてなのにエスコートしようとして、浮き立ち、バットな反省点が少々。


 カフェのランチ提供時間を読み間違えたり、映画選びも個人的に微妙だった。


 特に映画の方は、鑑賞後の態度も悪くなってしまったので、反省しないと。


 でも、映画の結末は、終始モヤモヤしての主人公と姉ENDだったので、私にとって当てつけなのか? と思わずにはいられなかった。


 ……流石に日運さんの絶縁したい理由はこれではない、っと思いたい。


 とはいえ、日運さんはデート中、幾度(いくどか)(うれ)いのある顔が表れている。


 いつも、こういった顔つきをしている気もするが、基本的には誰かを不幸に巻き込ませてしまった時だ。


 時々、日運さんは不幸な目に(じか)で遭っていなくても、悲しげな顔もする。


 昨日のデートだと、カフェを出た後に、散った桜の花びらを見たときなんか、右手で左手首を強く握り締めていた。


 ……昨日はサイコロの出目が一つと聞いている。


 ならば、駅の外壁が落ちてしまったときに、左手首の痣を押さえていたので、一つしかない不幸はこの場面でほぼ間違いないでしょう。


 もしかして、日運さんが火事でのハンカチ所持偽装(ぎそう)みたく、サイコロの出目が六でも見栄を張っている線も考える。


 ……仮に、そうだったとしても、不幸の回数は自体関係ないと思う。


 日運さんにとって、私と縁を切りたいと思うに至ったのは、駅の外壁が()()()()()()()ことなのだから……


 あっ…………


 ようやく日運さんの悩みを、なんとなく理解できた気がする。


 不幸にも外壁が落下した件は、私は日運さんに外壁が引き寄せられるように、落ちてきた認識だった。


 それが、日運さんにしてみたら、私へ向かって外壁が落ちてきたと思ってしまったのだろう……


 日運さんのことだ、自分を追い込んでしまうことを想像するに難しくない。


 もっとも、外壁が落下した件以外にも、不幸のせいで私が危ない目に遭ってしまう心当たりがあるのでしょう。


 最後の別れ際に言っていた「今まで危ない目に遭わせてしまって」と言っていたぐらいなのだから。



 …………これ以上は日運さんの顔を見て、聞いてみればいいのかもしれない。


 長かった記憶の旅路を終えて、場家さんから教えてもらった日運さんの家に辿り着く。


 時刻は昼間をとうに過ぎ、予定していた到着の時間よりも、三十分以上も遅れてしまった。


 庭に生えている立派な桜の木から焦げ臭いが漂い、雷も強く降り注ぎ、悪寒も全身に走り、本能は引き返せと忠告してくる。


 それらは全て無視で構わない。

 今は貴女に会うことだけが全てだ。


 家に明かりが灯っているのを確認して、玄関の呼び鈴を鳴らす。


 連打しても応答がないので、ここまで来るのに一瞬頭をよぎった、強行で突入する選択肢も現実性を帯びてきたところだった……


『扉は開いています。中にお入りください』


 頭に直接響いてくる声が聞こえ、ガシャりと玄関の扉から音がした。


 その声へ導かれるままに、私は日運さんの家に上がる……

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