第二十三投
一方的なファーストコンタクトから、たった数時間。
……たしか、体育の時間で私が転んでしまい、無防備な状況でバレーボールが頭部に飛んできた。
ボールの勢いこそ、山なりの軌道だったが、高さが体育館の天井ギリギリまで飛んでいたので、頭部に直撃したら軽い脳震盪はあったと思う。
運動神経がよくない私は、転んだ状態で身体が固まる。間近に迫った衝撃を受けきるしかなかった。
それが、後方から全力疾走で、日運さんがボールを弾いてくれたおかげでほぼ無傷だ。
右足首を負傷していたにも関わらず、痛みを我慢して、呆然と倒れたままの私に左手を差し伸べてくれた。
私が日運さんを依存させたかったのに……痛みをこらえながらの笑顔に、左手首の桜の花びらに見える痣と、名画みたい情景で、逆に私が日運さんの虜になってしまいそうになる。
なんとか、日運さんと一緒に保健室へ行けた。
私から見れば明らかに右足を痛めており、それを隠しているつもりながらも、気遣っている姿がとても愛おしく感じられる。
……んだから、保健室で日運さんの左手首の痣に口づけをしてしまったのも仕方がないこと。
不幸な日運さんに幸運が訪れてほしいと願ってしまったのだから。
それはそれとして、その日、家に帰った私は気になったことが一つ。左手首にキスすることの意味が引っかかったのだ。
案の定、独占欲の表れと、検索結果がスマホの画面に表示され、アクセルを勢いよく踏み込んでしまった後悔で悶てしまう。
実のところ、日運さんの周りには善い人が集まりやすい。場家さんをはじめ、同じクラスメイトからも、彼女の陰口を聞くことはなかった。
日運さん自身は周りと壁をつくるから、人からの好意をだいぶ下に見誤っていそうだけど。
場家さんに至っては……日運さんに対して過保護過ぎる。
依存させたいと目論んでいる私が言えることではないけど、親友というよりも、家族レベルだろう。
私達姉妹も仲が悪いわけではないけど、それよりも強固な絆を感じる。
日運さんの恋人だと邪推し、危うく脳が破壊されかけたこともあった。お姉ちゃん以来二回目になると思って、本気で真っ青になっていたと思う。
……あの時、「さーさんは大切な親友だよ」と言っていた。
この言葉にどれほどの意味が込まれていたのでしょうか。日運さんの不幸と一緒に歩んできた過去を想像できないかもしれないが、場家さんに負けたくない。
「遠藤さん、ニコニコしてどうしたの?」
少しでも日運さんのことを知るために、クラスメイトの遠藤さんに何気なく声を掛ける。彼女は、日運さんと同じ中学校出身だったはずだ。
肝心の日運さんは……教室の後ろで、他のクラスメイトが落とした教科書を拾ってあげようとして、机に激突している……
本当は日運さんの心配をしたいが、ここはぐっと抑えて、不幸現場を目の当たりにした遠藤さんの話しを聞きたい。
「いやぁー日運ちゃんは相変わらずいつも一生懸命だな〜って」
「そうだよね〜中学校の時も同様だった?」
「今と全ぐ同じだ。……いや、最近の方がエネルギッシュになってながもしれね」
「それは、どういったところかは分かる?」
私は今の日運さんしか知らない。叶うことなら、私と出会う前の日運さんも独り占めしたいぐらいに。
「いやはや、流石にそこまではわがんねぇや。力になれなくて、申し訳ねぇな」
「こちらこそごめんなさい。色々と聞いちゃったね」
「日運ちゃんは良い子だから高清水さんもよろしくお願いするべ」
日運さんのことを、全肯定の色眼鏡で見てしまうから、遠藤さんの話しは助かった。思っていた以上に、肯定的な人物評だったかもしれない。
「でもなぁ、日運ちゃんへ不満もあるんやけど……しかも、本人さ直接言っていることで」
「……それは?」
いきなりネガティブな言葉がきそうで、面を食らってしまう。
「人を頼らない!! バッケさんはエスパー? 的な力で察して助けているみたいだけど、日運ちゃんが大変な時は素直に頼って欲しいかなぁ!」
「ごもっともな意見ですね……」
日運さんの全てを肯定するつもりだったが、これは擁護できない……
不幸のせいで下手をすれば、毎日迷惑をかけてしまうかもしれないが、私は全然大丈夫なので。むしろ、いっぱい頼ってほしい。
「たしかに〜日運さんはいっつも遠慮してるよね〜〜そこにいる遠藤なんて、部活終わった後は毎回、無断で制汗クリーム使っているのにねぇ?」
同じクラスメイトの船木さんも会話に加わってくる。
彼女は、日運さんと違う出身校のはずだけど、出席番号が一つ違いのため、接触する機会は多いようだ。
「はで、なんのごどだすか?」
「なにしらばっくれているのよ! あんたのせいで、クリームを使い切ったのだから。日運さんみたいに遠慮を知りなさい!」
「今度お昼を奢るから……それで、おあいごっということで」
言い合っている二人を見て、そっと会話から離脱を図る。 すると、去り際を遠藤さんにしっかり見つかってしまう。
「あっ! おらからも高清水さんに聞きたい……というよりも確認してぇごどがあるんだげど?」
「どうしたの遠藤さん? 気にしないでいいよ」
遠藤さんは今日一番の真面目な顔つきになる。
そこから、破顔して一言。
「お互い様ってええ言葉だよね」
「……うん。とっても素敵だよ」
遠藤さんと船木さんに、手を振りながら、不幸を済ませた日運さんの元へ行く。
会話の最後になって、遠藤さんが伝えたかった真意をようやく汲み取ることはできたと思う。
そして、私は日運さんに対して、大きな勘違いに気付く……
彼女は独りぼっちではなかったのだ。
今まで日運さんには、場家さんしか学校内で味方はいないと思っていた。
周りからは嫌っているとまではいかないでしょうが、無関与の立場を決めているクラスメイトがほとんどだと決めつけていたのかもしれない。
実際は、日運さんが助けを求めたら、皆んな応えてくれそうだ。
今も現在進行形で日運さんは、他の人が落とした教科書を拾ったことが原因で、不幸な目に遭っているようなもの。
だからこその、お互い様なのでしょう。
……段々と日運さんが、なんで、こんなにも、不幸を背負わないといけないのかで腹が立ってくる。
同時に、日運さんが幸せになってほしいと、自分自身のことでさえあまり願わないのに、切に願ってしまう……
次回の更新予定は、1/29(木) 21時ごろを予定しています。




